第6話 何よりも可愛くて明るい武器
「ふむふむなるほど………うんんまぁ!!これ!やっぱこの新作抹茶パフェ、絶対美味しいってあたしの勘がびんびん反応してたんだよなぁ!!は~~~………………で、なんの話だっけ?」
「………」
「うそうそ、嘘だってば~。聞いてた、聞いてましたって。そんな怖い顔してたらせっかくの可愛いお顔が台無しだぞっ☆」
「……………」
「………ま、冗談はこのへんにしといて。うん、あたしの恋愛センサーによれば、99.999999%の確率で大神さんも柚のことが好きだと思うな」
「………っ…!?……ぅ………な………ほ、ほんとに!?」
「うん。あ、ジュースなくなっちゃった。もう一杯頼んでもいい?」
「………もちろん」
「すみませ~ん」と店員を呼ぶ紗都。
休み時間の話通り、放課後になったらすぐさま紗都と合流し、学校の帰り道から少し逸れた所にあるカフェに来ていた。
大通りから外れ、分かりやすい看板もない階段を下りた所にあるクラシカルで隠れ家的なカフェテリアであり、どうやって切り盛りしているのか分からないくらいいつも人がいないけど、改まった話をする場としてはうってつけの空間となっている。
紗都はここの常連らしく、何ならバイトもやっているらしい。
一応校則だとバイトは禁止になっているから、いくら来客が少ないとは言えナチュラルにウェイトレスやってる紗都は流石不良って感じだけど、ここの雰囲気は私も好きだし、大学生になったら紗都と……直も……一緒にこのカフェでバイト出来たらなぁ……と思う。
「ん~!やっぱここのトロピカルジュースはいつ飲んでも美味し~!」
既にパフェ一杯と、これでジュースの二杯目である。
私もせっかく来て何も頼まないのは失礼だと思い、わらび餅と抹茶ラテを頼んだから、もうこれ以上頼まれたらお金が足りない。だと言うのに、まだ話は少しも進んでいない。
でも、紗都は自分の時間を削って相談相手になってくれている訳だから、このジュースを飲んで幸せ顔を浮かべる友人に水を差すような真似は………いや、よく考えたらその対価としてお金払う訳だし、遠慮する必要ないな。
「紗都、いい加減そろそろ本題に」
「じゃあ今日一日、柚はあたしの彼女ね」
「………はい?」
私が痺れを切らすのを待ってたかのように、言葉を被せて言ってくる。
え……今なんて?
「ん~、できればもう一杯パフェ食べたかったけど、あんまり長居しすぎたらデートの時間なくなっちゃうからな~……ま、パフェはまた明日食べればいっか」
「え、ちょっと待って。紗都、今なんて言ったの?」
私の言葉に聞く耳持たず、紗都はさっさとレジに向かい、会計を始めてしまう。
そしてお金は相談料として私が払うと言う話だったはずなのに、紗都は自分の財布を取り出し、そのまま支払いを済ませてしまう。
「さ、紗都?なんでお金……」
「ん?なんでって。可愛い彼女に支払わせるわけないじゃん」
「かわっ………」
お世辞だと結構言われるけど、こんな真顔で紗都に「可愛い」なんて言われるのは、なんだか気味悪すぎて寒気がした。
「いや、そこまで引かなくてよくね?」
「……解釈違いだ」
「柚ってたまに失礼すぎる時あるよね。まあいいけど。さて、支払いも済んだし、二人きりで楽しい所行こっか」
「ひぇっ」
スキンシップが大嫌いな紗都がいきなり手なんて握って来るもんだから、思わず小さく悲鳴が漏れてしまった。
お店から出て階段を上ると、近くで「………ぇ」と言う声が聞こえた気がして、声がした方に顔を向けると、今日一日中探し続けた姿がそこにあった。
私が口を開く前に、紗都に腕を抱かれる。
「大神さんじゃん。もしかして柚に用事でもあった?ごめんね~。生憎今日は丸一日私の貸し切りだから。それじゃあね~」
「ぁっ……」
何か言いたげな直に目もくれず、紗都は私の腕を無理矢理引っ張って行く。
離れていく。
最後に見えたのは、何を思ってるのかよく分からない表情で口を半開きにして、空を掴むように少しだけ手を持ち上げる直の姿だった。
「ちょ、ちょっと紗都。私、直と話したかったんだけど……!」
「でも、大神さんは柚を避けてたんでしょ?向こうが話すつもりないのに、こっちから話す必要ないよ。それよりまずは服屋行って制服着替えないとね。うちの制服、可愛いんだけどデートっぽくないしー」
結局、私が何を言っても取り合ってくれず、私と紗都の突発放課後デートが始まった。
大きめのショッピングモールに連れられ、高そうな衣料品店に入る。
直は意外とファッションに拘るけど、あんまり拘りのない私は店員とか友達が勧めてくれたものを適当に着て、周りの反応がいい服を買ったりしていた。
後は、ご飯中にテレビとか見てて直が「これ柚に似合いそうだよね」と言ってくれた服を後から通販で頼んだり………ダメだ。直のことを考えると泣きそうになる。多分紗都にも考えがあって恋人ごっこし始めたんだろうし、とりあえずは紗都に合わせよう。
「ん~。ぶっちゃけ柚ならどんな服でも着こなせそうだけど、せっかくだから普段とは趣向を変えてっと。よし、これ着てみて」
「うん」
着てみた。
試着室の鏡で着替えた自分の姿を確認する。
いつもは大体ガーリー系と言うか、キュート系と言うか、ひらひらしたものを着ることが多い。
今着てるのは、ベージュのチノパンツにゆったりと五分袖のブラックニット。どちらかと言えばクール系で、スタイリッシュな感じ。
普段こういう系は着ないから自分じゃ似合うかどうかわからない。
「ど、どう?」
カーテンを開いて、紗都に声を掛けると、存外大きめにリアクションを取ってくれる。
「おー!いいじゃんいいじゃん!めちゃ似合ってる!!いやー、やっぱ素材がいいと着せ替え甲斐あるよなぁ」
「………ありがと」
流石にこんな真っ向から褒められると恥ずかしくて、少し頬が熱くなる。
「っていうか、あれ?紗都も着替えたの?」
「ん?うん。どぉ?似合ってる?」
「………っ」
いつの間に選んでいつの間に着替えたのか、と言うかなんですぐに気が付かなかったのか、紗都はホワイトベースで薄い生地のスリーブブラウスに……なんていうんだっけこれ……あ、思い出した、サロペットタイプでベージュベースなセミフレアスカートを身に付けていた。
普段はおしゃれだけどギャルっぽい印象を受ける服ばかり着ている紗都がこんな上品で可愛い系のを着ているのがギャップ過ぎて、つい絶句してしまう。
「めっっっちゃかわいい!!えっ、嘘っ!紗都ってかわいい系のやつ似合うじゃん!もっと着ればいいのに!!」
「ふふん、そうだろ似合うだろ~。でもいつもはヤだ。あたしは下の丈短くて、上はルーズとかパンク系のが好きなの~。今日はちょっとイメチェンしたい気分だっただけだから。それよりどお?いつもと違う服着たら、気分も変わるっしょ?」
言われてみれば確かに、気慣れない服を着ていると何となく服に着られてる感覚がして、いつもの自分とは違う感じがする。
「………ありがと」
「よし、それじゃあこのままレジ行くよー」
「え、えぇ!?着たままで!?って言うか私、こんなの買えるお金持ってないよ!」
「あとで着替えるのめんどうでしょ?お金はあたしが払ったげるから、ほら、制服さっさとカバンに入れて、早くしないと時間なくなっちゃうぞー」
さっさと歩きだす紗都の背中を、慌てて制服を詰め込んで追いかけた。
想像の二倍くらいの代金を紗都は平然とした顔で払い、タグを切ってもらって、店を出る。
外はもう既に薄暗く、普段なら友達と遊んでいても直が家で待っているから帰る頃だ。でも、今日は多分……帰っても直は―――
「さて、お次は映画の予約だけ取って、オケでも行こか。あ、ゲーセンも行きたいし、最近新作でたと噂のクレープも食べたいなー………柚は何したい?」
「えっと、え、映画……観たいかも……クレープも…食べたいなぁ、なんて…」
どこに行くにしても多分、お金は紗都持ちになってしまうだろうし、図々しいかな、なんて思ったけど、紗都は優し気な笑みを浮かべ、
「うん、いいよ。行こっか」
再び私の手を握り直して、軽く引いてくれた。
普段は不真面目で、他人の目なんて全く気にしない紗都だけど、こういう本当に困った時は面倒見てくれて、頼りがいのある友達だ。
握られた手を弱く握り返して、私は紗都に連れられるままカラオケ、クレープ、ボウリング、映画館など足がへとへとになるまで楽しんだ。
直のことが頭から離れることはなかったけど、「また明日、がんばろう」と、ポジティブになれるくらいにはメンタルが回復していた。
いつのまにか時刻は22時を回っていて、一人じゃ危ないからとわざわざ私の家の前まで送ってくれた。
「今日はホントに楽しかった!!ありがと!!」
いっぱいの感謝を伝えると、紗都はゆっくりと近付いて来て、私の頭の上に手を乗せ、サラリと撫でた。
「な、なに……?」
紗都の行動が不可解過ぎて困惑していると、いきなりおでこに痛みと衝撃が走った。
「あ痛っ!?」
どうやらデコピンされたらしく、不満を訴えるように視線を向けるが、返ってきたのは優しい笑顔だった。
「やっと笑った」
「え……?」
「休み時間に会った時からずーっと暗い顔してたから。何するんにしても、柚の武器はその何より可愛くて明るい笑顔なんだし、使えるもんは使わないと、上手くいくもんもいかなくなるっての」
「う、ん……」
私……そんなに暗い顔してたんだ……。
っていうか、デートごっこ中も結構笑ってるつもりだったのに……一々直のことを思い出してネガティブになってたの、バレてたのかな。
「あぁそれと。いきなり全部大神さんに想い伝えるのは無理でも、少しずつでもいいから伝える努力をすること。分かった?」
「は、はいっ!」
「恋愛ってのは一分一秒が勝負なんだから、しょぼくれてる暇があったらデートの一つにでも誘ってみろ。困ったり疲れたりしたら、またあたしが息抜きさせたげるから。次からはお金払わせるけど」
紗都の優しさに、胸の奥がじわりと温かくなる。
「ほんとに、ホントにありがとっ!!私、絶対頑張るから!」
「おう、がんばってきな。ま、玉砕したらあたしが恋人なったげるから、安心していってら~」
紗都は手を振りながら、冗談なのか本気なのかわからない表情で笑った。
お互いに「またね」と別れて、柚は家の中に入って行った。
柚の家の扉が完全に閉まった音を去り際に聞いてから、紗都は小さく漏らす。
「はぁ………まったく、あいつの笑顔の破壊力ったら……あたしが落ちたらどうすんだっての」
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