第4話 はじめてのパーティ
のどかな昼下がり。俺は昼休みに空腹を満たしてささやかな昼寝をするのがなにより好きなのだった。しかし…。
「教えて教えて~っ!」
「またか…今回はなんだよ」
異世界でナビゲーターをすることになった優梨が俺になかなかの頻度で連絡を入れてくるようになった。信じられないことだが優梨は死んでしまったのに別の世界で別の人間として転生したのである。だからまあ…本当はちょっと嬉しかったりするのだけど…。
「あ、またその人?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
「むぅ…」
同じクラスの吉野と昼休みにゲームをやることにもなってしまったのでもはや俺ののどかなお昼寝は完全に期待できないものとなってしまった…。
「で?今日はどうしたんだ?」
「んー、一応まーくんに拒否権はないことを前提にきいておきたいんだけど最近忙しい?」
「さらっと嫌なこというな…友達とゲームやるようになってな。昼休みにやる約束してるんだ」
「ふ…ふ~ん。…それって、茂野くん?…だよね?」
「ん?違うよ?」
「えっ。まーくんそんなに友達いたんだね」
「いや…結構つきまとってくるというか…」
「聞こえたよ~!」
「うわっ!ちょっ…入ってくるなよ…」
吉野が電話口まで近づいてくる。
「まいのこと話してたでしょ~っ!」
「えっ!女子!?どういうこと!?」
優梨は動揺した声を上げる。
「えっ…女の子と話してたの?…もしかしてカノジョさん…?」
「あ、いや…彼女ではないんだけど…幼なじみなんだ」
「ふぅん…。ねっ!スピーカーにしよ!」
そう言うと吉野はスピーカーボタンを押してしまった。
「あ、こら勝手に…」
「やっほ~!きこえる?私ね、まいだよ。あなたは?」
「あ…あらあら…まいちゃんって言うんだぁ~。私はね、まーくんのち~~さい頃から一緒にいた優梨っていうんだよ。よろしくね~!」
「まーくん?」
「あ~わかんないよね~まーくんって言ってるの私だけだもんね~」
「まいも呼んでいい?」
「だめっ!絶対に…だめっ!」
「なんで~?」
「私の特許だからです」
「まぁ天太の方が呼びやすいからいいか」
「くんをつけなさいっ!」
「なんで~?」
「距離感!」
「こんなにくっついてるのに?」
「ちょっと!どういうこと!?まーくん!そっちの状況を説明しなさいっ!」
「あぁーめんどくさいなぁ!なんだよお前ら!揉めるなら俺の携帯使うなよ!」
勝手に人の電話でやかましく盛り上がるのでついカッとなってしまった。
「ご…ごめん」
「どうどう」
「とりあえずお前は依頼があるんだろ?聞いてやるから状況を説明しろ」
「あ、うん…今回の依頼は魔法使いからなんだけどね」
「魔法使いか…」
「…ん?なんのはなし?」
「あぁ…ゲームだよ。別にきいてなくていいよ」
「ストスト?」
「…とはまた別かな?」
「ふぅん」
「それでね、またもちものから見て欲しいんだけど…」
「またかよ。前回でわかったろ?」
「そうなんだけど…バンソウヨウだけ持たせるのもなぁって」
「まぁ魔法使いだからな。どうせMPみたいなのがあるんだろ?だったらそういうのを回復させる水があるはずだ」
「水って…色々あってわかんないよぉ」
「魔力を回復させる水だ。絶対ある」
「魔ろやかな水だぁ~!」
「あ、これかな?」
「やった~」
「おう、あったか」
「ありがとうまいちゃんっ!」
「えへへ~」
「……ん?おい、ちょっとおかしくないか?」
「なんで?」
「いや…今の会話には違和感があった。絶対あった」
「まあいいや。じゃあ次は武器!」
「いいのかな…」
俺の主張を無視して優梨は話を続ける。
「今回の魔法使いのナツちゃんは、やっぱり初心者なんだ。普段はお姉ちゃんと一緒にいるから戦闘はあまりしてないんだって。確かお姉ちゃんは…なんだっけかな…姉妹合わせると香辛料みたいな名前になったんだけど…」
「いや、いい。危ないから」
「あ!それって!」
「やめろ」
何か言わせてはいけないような気がして俺は吉野の言葉を制した。
「それでね、この子も武器からなんだけど。どうかな?」
「杖でしょ?やっぱ」
「そんなアバウトな…」
「まじないワンドがいいかも」
「あ、これか!ありがと!まいちゃんすごいじゃん!」
「えへへ~」
「そうだよそれだよっ!」
「え?」
「いや…名前!」
「天太覚えてなさすぎね」
「覚えるも何も…え?なに、何の話?」
「だって、これストストでしょ?2人してイジワルなんだ。まいのことなかまはずれにしようとしたでしょ」
そう言って吉野は口を尖らせる。
「は?ストスト?」
「そうじゃんね。アイテムの名前、バンソウヨウでぴんときたよ」
「そういえばストストの回復アイテムって…そんな名前だったな…。え?じゃあ何?お前ストストの世界にいんのっ!?」
「え?何言ってるの?ストストって何?」
「ストストの世界?どしたの天太?」
「いや、全員で疑問符を出しても仕方ない…1回整理しよう…。この際だ。吉野、お前もきけ」
「は~い」
こうなったらもう吉野にも全てを話してしまうとしよう。
「えーっと、まず第1に必ず言っておかなければならないことがひとつある」
「なになに?」
「この幼なじみ、藍原 優梨は、3年前に死んだ」
「何言ってんの?そんなわけないじゃんねぇ。ユーリィもそんな縁起でもないこと言われるのやだねぇ」
…誰だよユーリィって…。
「……ううん。ほんとなの」
「ふぇ?また2人してまいを騙そうっていうわけ?んもうっ!わかったから~!」
「いや…これは本当なんだ…。信じられないと思うけど、優梨は今別の世界にいる。それも3年前の記憶を持って」
「へぇ。そんなこともあるんだね」
「…わりとあっさり理解したな」
「だってまいは知らないことの方が多いんだもん」
「素直ないい子じゃない。…私は帰れないし…この子なら…」
「なんだ?」
「んーん!なんでもない!」
「話を戻そう。それでだな、こいつのいる異世界ってのが…どうやらストストの世界らしいんだよな…」
「じゃあ弱い液体状のモンスターの名前は?」
「ゲルゲルっ!」
吉野は即答する。
「あ、やっぱり確定だよ」
「そのようだな…」
「じゃあまいはこのゲームでユーリィを好きにできちゃうって事!?」
「好きにしてどうすんだ…。でもそういうことはできないんじゃないかな。こいつの立ち位置はむしろプレイヤー側だから」
「…どういうこと?」
「えっとね、私ナビゲーターって言って冒険者を導く仕事をしてるの。そっちでいう操作に近いかな」
「ほぇ~。じゃあユーリィの操作するパーティとまいのマイマイで一緒に冒険しようよう」
「おいおい、流石にそんなことはできないだろ」
「あ、ナツってこの子だ」
吉野はゲーム内でナツを見つけたらしい。
「まじか…」
「え、じゃあほんとにゲームと現実が繋がってるの?」
「そうらしい…。いやいや!でもそうしたらこのナツってやつを現実で操作してるやつが存在しないことになるぞ!おい、チャットだ!チャットをしてみろ!」
「えーと…」
『こんにちは!』
「どうだ?」
『こんにちは!私お姉ちゃん抜きでダンジョンくるの初めてなの!あなたもあんまりレベル高くないね!』
「ふんふん…かえってきたね。えーと…お姉ちゃんの名前を念の為きいておこうか」
「だからやめろって!」
『マイマイも始めてからあんまり経ってないの!よろしくね、ナツちゃん!』
『うん!』
『じゃあ早速いってみようか!』
『そうしよう!』
「えっと…ここでクエスト準備完了にしよう」
「なぁ、この時マイマイはどうなってるかナツにきいてみてくれないか?」
「わかった。ナツちゃん、きこえる?そのマイマイって人今どうしてる?……ふぅん。そうなんだ。わかった!ありがとう!」
「なんだって?」
「普通に喋ってきたんだって。さっきと同じ調子の会話で」
「ということは…マイマイは吉野の性格が反映されたその世界の住人なのかもしれないな」
「もしかして…ユーリみたいな存在ってこと?」
「なるほど…マイキャラを作っているようで実はあらかじめ繋がる人間が用意されているんだな。…思えばこのゲームは無茶なキャラクリもできないし名前も誰かが使っていて利用できない報告が多かった。多分決まってたんだ。偶然かと思ったら無意識にそのキャラクターに導かれていたのかもしれないな」
「じゃあマイマイもほんとの人間なの?」
「多分な」
「下の名前もあるのかな…」
「きいてみる?」
「おねがいっ!」
「……わかったよ!マイマイ・ツヤメダスだって!」
「やっぱりあるんだ!そんな名前設定してないからほんとに実在するんだ!」
「ちょっと前からやってたけどただのゲームかと思ってたぞ…」
「それならもう私のナビゲートに協力するのもすごく簡単じゃない!だって毎回まーくんがパーティ組んでくれたらいいんでしょ?」
「あのな…そこまでやってやれるほど暇じゃないんだぞ。ついでに言うと俺は色んなゲームをやってたから知識はあるがこのゲームはまだサービス開始から日が浅いんだ。まだ第1層しか解放されてないからレベルも低いぞ」
「丁度いいじゃん!一緒に強くなろうよ!」
「そうだ~!」
吉野が拳をつきあげながら同調する。
「いやだから…俺たち受験生だぞ。あんまりゲーム漬けってのはよくないだろ…」
「でもそうするとユーリィが路頭に迷うよ?」
「慣れるだろ…」
「まーくんと一緒だからいいの!私も一人でやれるようになるかもしれないけど…この世界では私は独りなの…。確かに友達はできるかもしれないけど…それでも…私はまーくんより大切な人がいない世界では生きていけない…」
優梨は心細そうにそう呟いた。
「…そんなこと言われたら、やるしかねぇよな」
「まーくん!」
そんな困った声を出す幼なじみを放っておくわけにもいかないだろう。
「でもほんとあんまり頻繁には勘弁してくれ!」
「わかったわかった。基本的には質問するくらいにするから。でも冒険者さんがどうしても困ってる時は助けに来てね」
「わかった」
「それじゃあそろそろ行こうか、まいちゃん。私はナビゲートに専念するから一旦ミュートにしておくね。そっちの声は聞こえるから何かあったら呼んでね!」
「は~い!」
優梨の指示を受けたのかナツが話しかけてきた。
『お待たせ!私も準備できたよ!』
『よーし、いこ~!』
ナツとマイマイはキャンプを離れダンジョンの中へ足を踏み入れた。
『今回のダンジョンは森林地帯がメインみたい。私が炎魔法で援護するよ』
『じゃあマイマイは踊るから!』
『えっと…こうげきしよ…?』
『大丈夫!』
『あ、前見て!モンスターがいるよ!』
前方には手足のついた球根から髪の毛のように草が生えたモンスターがいた。
『ん~?あれは…アルクサだね』
マイマイがすぐにモンスターを識別する。
「なぁ、お前って実は頭良いだろ?」
「別に~」
『私の得意分野だね!先制攻撃は任せて!』
『おねがい!』
『ストレイト・ファイアっ!』
ナツがアルクサに向けてかざしたまじないワンドの先端から直線に炎の玉が飛んだ。その火球は見事にアルクサの草髪に当たり炎上させた。
『おーっ!すごい!』
『まだだよ!』
火球を受けたアルクサがこちらに視線を向ける。髪を燃やしながらもマイマイに向かって突進してくる。
『甘いよっ!』
マイマイは遊び人特有のゆらゆらとした身のこなしでアルクサの突進を避けた。
『そして、おまけをあげちゃうっ!』
突進を避けられがら空きになった球根の背中に小刀を突き刺した。アルクサはその勢いで地面に叩き伏せられしばらくじたばたと動いていたが炎上した髪から球根にも引火し、やがて動かなくなった。
『先制攻撃大成功っ!マイマイすごいね!』
『いやいや、ナツちゃんの炎のおかげだよぉ~』
ナツが駆け寄ってきてマイマイとハイタッチした。
『この調子で進もう!』
『おー!』
2人は意気揚々と先へ続く道を歩いていった。
一本道をしばらく進むと開けた場所が見えた。その中央には木製の宝箱があった。
『あ、お宝だ!』
『うわ~い!』
「おい待て…」
2人は宝箱を目指し広間に足を踏み入れた。その時、唐突にナツとマイマイはその足を動かせなくなった。
『あ…これ…なに?』
『これは罠だッ!』
地面から伸びた蔓が2人の足を絡め取ったのだ。
「気づくのが遅いぞ。あからさまに怪しかったからな…」
「夢中になっちゃいましたぁ」
吉野は頭を軽く叩きながら舌を出してみせた。
『いたた…マイマイ大丈夫?』
『大丈夫だよ。この蔓…ヴァインはこれ以上いたいことしないから。あ…でもあんまりゆっくりしてられないねぇ…』
周囲から多数のアルクサが集まってきた。
『アルクサの逆襲だ…!』
『動けない…どうしよう』
『私が魔法でなんとかする!』
ナツが杖を天にかざした。
『スプレッド・ファイア!』
ナツを中心とした周囲に炎が広がる。あたりのアルクサは炎に包まれた。
『お~!これでもう慌てることはないね』
『あ…まずい…』
『え?』
『ヴァインに引火してる…』
『あ…』
2人を拘束していた蔓にアレクサの炎が引火してじわじわと炎が迫り来る。
『やばい…こんがり焼かれちゃうよ~!』
『ごめんなさーい!』
『あ、そうだ』
『何か手があるの!?』
『シルフィード・ターン!』
マイマイは風を纏いながら身体を回転させその勢いのままナイフを振り回した。
『おお~っ!回転で蔓がちぎれた!』
『あっ風が…』
周囲を覆っていた炎が風に煽られさらにその勢いを増す!
『うわぁ~!万事休すだよ~!』
『足が空いたから…いける!飛ぶよマイマイ!』
『ふえ?』
ナツはマイマイの身体をがっちりと掴むと杖を地面に向けた。
『ストレイト・ツリー!』
地面に勢いよく太い木の根が打ち出された。そしてそれが地面に打ち付けられる時…衝撃とともに2人は吹き飛んだ!
『うわぁあぁあ!』
『よーっし!』
炎の包囲を抜け草の上に着地することに成功した。
『危なかったぁ…。罠って怖いねぇ…』
「いや…お前らが自分でハードモードにしたんだけどな…」
『このまま進もう!』
『宝箱…』
『あ、そうだ。取りに行こう』
『うぅ…』
そこには変わり果てた宝箱の姿があった。
『まぁ…あれだけ燃えちゃったら木箱は耐えられないよね…』
『仕方ない…灰だけでも持って帰ろう…』
ナツは宝箱だった灰をかき集めはじめた。
「いや、別に蘇生とかできないから持って帰るなよ…」
『あ、待ってナツちゃん!』
『ん?』
『灰の中!』
『あー!』
そこには何か棒状のものが落ちていた。
『これもしかして…!』
ナツがその棒を拾い上げると灰の中に埋もれていた先端が顕になった。
『すごい…炎の力が凝縮されてる…!』
その杖の先端の魔石は紅く輝いていた。
『ねぇねぇ!これもしかして結構珍しいんじゃない?』
『うん!たまたまうまい具合に魔石が反応したんだ!普通だったら壊れちゃうんだよ!』
『すご~い!』
『早速装備してみよう』
ナツはまじないワンドを紅魔石の杖にとりかえた。
『どう?』
『今の杖より全然良さそう!絶対これ持って帰るぞー!』
『もう手に入れたのに?』
『ナビゲーターさんに代金払わなきゃならないでしょ?この杖多分価値が高くなるから他のアイテム売ってでも買い落とすよ!』
『じゃあ色々探そう!』
そうして2人はダンジョンを隅々まで回った。
『この杖やっぱりすごい!このあたりの草系のモンスターなんて敵じゃないよ!』
ナツの杖の威力はすさまじく、炎に弱いモンスターには効果てきめんだった。
『マイマイもなんか欲しいな』
『あはは…ごめんね』
物欲しそうなマイマイを見るとナツはやや申し訳なさそうに苦笑した。
『そろそろ最後だね』
『多分あそこに見える扉の先に強めの敵がいて、それで最後だね』
『頑張ろうね!』
『うん!』
2人は勢いよく扉を開けた。
『たのも~っ!』
そこには誰もいなかった。だが、広場の中央には銅色の宝箱が置いてあったのである。
『あ!レアそうな宝箱!』
『ほんとだ!開けてみよ開けてみよ!』
「おい学べ…」
宝箱に近づき手が届きそうな距離にきた瞬間にそれは現れた。
『ぐおおぉお!』
『なになにっ!?』
宝箱の手前の地面からぼこりと大きな球根が顔を出した。
『アルクサの親玉!アルコウネだ!』
『大きいねぇ』
『あおぉお!』
アルコウネはかわいらしい顔とは対照的に大きな咆哮を上げ敵対する。
『どうやら簡単に宝箱を渡してはくれないようだよ』
『やっちゃいましょ~!』
『ストレイト・ファイア!』
早速ナツが火球を飛ばした。
『ぺいっ!』
だがアルコウネは球根部分に火を受けてもすぐに火を弾き飛ばしてしまった。
『な…なんでっ!燃えない!』
『じゃあマイマイがいっくよ~!』
マイマイは急に踊り出した。
『なにやってんの~!』
『みててみてて~!』
踊り続けるマイマイの身体から青いオーラがほとばしり、アルコウネの身体を包み込んだ。
『うおぅ?』
アルコウネは不思議そうな顔をしている。
『さぁ今だよっ!炎を放つんだナツちゃん!』
『え、でもさっき…』
『はやくっ!』
『ス…ストレイト・ファイア!』
ナツの杖から再び炎が走る。
『ふんすっ』
アルコウネは先程弾いた余裕からか今度は胸を張って炎を迎えうとうという魂胆らしい。
『いいのかな~?』
マイマイがにやりと笑う。そして炎がアルコウネにたどり着いた。
『うぼぉっ!』
先程とは違い炎が一気に火力を増してアルコウネを包み込んだ!
『え!なんでなんで!』
『これが遊び人マイマイの特技!アンヘルス・ダンス!アルコウネは燃えやすくなったんだよ!』
『今がチャンスだね!一気にいこう!』
『うぉお…あづ…い…やめ…で…』
アルコウネは急に喋りだした。
『え、話せるの?』
『ニンゲン…なぜ…森を荒らす…』
『うーん、これって本当にある世界の話だと思ってきくとちょっと心が痛いね…』
『本当にある世界?』
『いやいや、こっちの話』
『どう答える?』
『お宝が欲しいから?』
『本音だけど…』
『じゃあこうしよう』
『どうした…はやく答えてくれ…』
炎上しながらもアルコウネはその答えを懇願する。
『アルコウネさん!マイマイたちは森を荒らすために来たんじゃないんです!』
『ではなぜ我々を攻撃する…』
『そこの…それ。それさえあれば帰るんです』
マイマイは宝箱を指さして言った。
『結局言っちゃったよ…』
『なるほど…この邪魔な箱が欲しかったのか…。持っていけ…なんでここにあるかもわからん』
『罠じゃなかったの?』
『そんなものは用意していない…』
『たまたま蔓のあれが利用してたのかもね』
『ねー』
『じゃあこれ持って帰るね~』
『あ…火…火消して…』
そろそろ耐えられなさそうになっていた。
『はいどうぞ。じゃあもういいね』
ナツは炎の付与を解除した。
『ばいば~い』
銅色の宝箱を抱えて2人が広間を出ようとすると…。
『はい、捕まえた』
『え?』
『ふふっ…遅れてごめんなさいね』
周囲から太くて大きな蔓がたくさん這い出てきたかと思ったら、その中のひとつの先端がグラマラスなお姉さんになった。
『おそいぞ…すっかり焦げてしまうところだった…』
2人はさっきの罠よりさらに大きい蔓に全身を絡め取られてしまった。
『いやぁあ~っ!食べられちゃう~!』
『食べはせん…。だがゆっくりと絞め殺してくれよう』
アルコウネはかわいらしい顔を怒りに歪ませて2人に近づく。
『どっちにしろだめ~っ!死なされる~!』
ナツは締め付けられる苦しさと迫り来るアルコウネの恐怖で叫び声を上げる。
『落ち着いて、ナツちゃん』
『なんでそんなに冷静なの!?』
『だって私は痛くないから』
『痛覚どうなっちゃってんの!?』
『ここはうまくもがいて逃げるしかないよ!』
『でも今出てきた蔓のお姉さんもいるし…』
『まとめて退治だ!』
『でもどうやって…』
『要するにこのお姉さんはさっきのヴァインの親玉って感じでしょ?杖を上に向けて!』
『あぁ…そうか!スプレッド・ファイア!』
杖から炎が放たれ辺りが炎に包まれる!
『あつっ!ちょっと!私の髪になんてことするのよー!』
『うおぉ…また…熱い…!』
『よくも騙してくれたねぇ!さぁ!さっきのコンボ、決めちゃうよ!』
『コンボ…だったね、うん』
「いや、多分違う」
『シルフィード・ターンっ!』
火に炙られ脆くなった蔓が回転により引き裂かれる。さらにその回転の風圧により周囲は業火の如く燃え盛る炎に包まれた!
『そして、脱出!』
『ストレイト・ツリー!』
地面に射出した木の根が再び2人を打ち上げた。
『あぁぁあ!熱い!熱いィィ!』
『ぐぼあぁあ!』
『すっかり燃えてしまいなさい!』
2匹のモンスターは灰になった。
『終わった…終わったよ…!』
『やったねナツちゃん~!』
2人は喜び抱き合った。
『お姉ちゃんなしでもできたよー!』
『宝箱も開けてみよう!』
『そうだね!』
『今度は燃えずに済んだみたい!』
2人は銅色の宝箱に駆け寄った。
『開けるよ!』
『うん!』
ナツが宝箱に手をかけると…。
『うぁつぅうっ!』
じゅわっと音を立てナツの手から煙が出た。
『宝箱が金属製だから熱々になっちゃってる!』
『ほんと~?』
『や…やめといた方がいいよ…』
マイマイはあっさりとその宝箱をあける。
『あいたよ』
『痛覚どうなっちゃってんの!?』
『えーっと中身は…』
『琥珀のネックレス?』
『高そうだね。売っちゃおっか』
『うーん、そうだね。この杖のためには仕方ない…』
『マイマイには余った売値の二ーディをちょうだいね』
『全然いいよ!むしろ、アイテムなくていいの?』
『全然いいよ!楽しかったしレベルも上がった!』
『そう言ってくれると助かるなぁ!ありがとうマイマイ!また一緒に冒険しようね!今度はお姉ちゃんも一緒に!』
『うん!楽しみにしてるよ!』
クエスト終了画面が出てマイマイはダンジョンから街にテレポートした。
「ふ~っ!終わった終わった!」
満足そうな顔をした吉野が携帯を机の上に置き大きく息を吐いた。
「吉野、お前結構やり込むタイプ?」
「おすすめされたからには頑張りたいじゃん~?」
「いやぁお疲れ様!まいちゃんすっごいじゃん!ほんとに始めたばっかり?」
優梨が吉野を褒めたたえる。
「えへへ~」
「まぁ名前がぱっと出てくるだけあるな。俺なんて通貨聞いてすらぱっとこなかったよ」
「これからはユーリィのためにも覚えようね」
「いやだから覚えるべきことは別にあるだろって…」
「青春は今この時だけっ!」
吉野がビシッと音がなりそうなほどのポーズを決めてみせる。
「ふふっ…はははっ…。いいなぁ…青春…かぁ」
「……優梨…」
もうここにはいない優梨は少し寂しそうに笑った。
「ユーリィももうまいと友だちなんだからねっ!これからはまいにもきいてね!」
「うん…ありがとう!まいちゃん!」
「おい優梨……俺にも、きけよ」
「あれあれー?どういう風の吹き回しかなー?」
「デレましたなぁ~」
「…言われなくても連絡するよ。寂しいんだから」
「…ありがとな」
「よーし!じゃあ勝利のお祝いに今夜はリモート飲み会だ~!」
「なにそれ?」
「あぁ、最近流行ったんだ。でもなぁ…俺たち未成年だっつーのっ!」
「なんか食べながら飲めばもう飲み会だよ~」
「待って音だけだよ?」
「いいのいいの!夜もみんなでお喋りしようよ!」
「…今日だけだぞ」
「やった~!なんか今日は甘いね!」
「優梨の仕事、手伝ってもらっちまったからな」
「まあその仕事をまーくんに手伝わせてるのも私なんだけどね」
「本当は…吉野は関係なかったんだ」
「でも良かった。いい子で。私もきっと、友達になれてたろうなぁ…」
「だぁからぁ!もう友だち!離れてたってこうして繋がってるんだから!」
さっきから吉野は俺たちが暗くならないようにわざとやかましくしているように感じる。こいつはこいつなりに思うところもあるんだな…。
「まいちゃん…。うん!そうだった!まーくんたちもいつでも私に相談してきていいからね!」
「それは…まぁ…こっちの勉強とか聞けないだろうけど…」
「あ、学業に関してはもう何にも答えられないので…」
「まぁまぁ、そんな持ちつ持たれつみたいなのじゃなくて話したい時に話せるのが友だちでしょ~?」
「あぁ…そうだな」
「おっと、そろそろお昼が終わっちゃうねぇ」
「あ、そうだ!夢中になってて昼飯食べてない!」
「やってる間に少し食べたよ。天太のエビフライとかね」
「お前はまた人のメインを…!」
「……ほんと、うらやましいなぁ……」
吉野にも優梨の仕事を手伝ってもらえるようだからひとまず俺への負担は減りそうだ。そのうえ2人も仲良くなったし俺としてはいい事づくめだ。
…なのになんだろうな。なんとなく胸の奥に違和感があるような気がしてならない。気のせいならいいんだが…。
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