第3話 初心者の初心者

  死んだはずの幼なじみの優梨が異世界でユーリとして転生したらしい。ユーリは異世界からさらに別の異世界に連絡する能力を持っているらしく…俺の許にユーリから連絡が来るようになったのだった。


「おっはよ~!今日も一日頑張ろうね!」

「おはよ。朝から元気だな。」

 一日の始まりに早速優梨から連絡が来た。

「そりゃもちろん!まーくんに負けてらんないからね!」

「負けるはずないわ…。」

「しかし…今日は遂に私もデビューの日…。あんまりまーくんに構えないのだ…」

「ほっ…」

「なんか今胸を撫で下ろさなかった?」

「気のせいだ」

「私も働かないといけないからね。ナビゲーターとして戦線に投入されるの」

「それって大丈夫なのか!?」

「あ、心配してくれるの?」

「うっせ」

「でも安心して。戦線と言っても敵と真っ向から交戦するんじゃなくてこの能力を活かして声を伝えることが仕事なの」

「携帯電話で?」

「そんなものはないよ」

「じゃあどうやって?」

「似たようなものがあってね。ノーフっていうんだけど…なんていうのかな、木の幹にモニタがついたようなやつ」

「スマートフォンを木のモチーフにしたような感じか」

「理解がいいね。そんな感じ。それに指示を送るからそれに従って行動してもらう感じなんだよ」

「もしかして…」

「理解がいいねっ!」

「いやいやいや!付き合いきれんぞ!俺に構うどころか俺が構わなければならないじゃないか!」

「大丈夫大丈夫!ほんとに困った時だけだから!」

「ほんとかよ…」

 結局俺は面倒事を押し付けられるらしい……。

「じゃあとりあえず説明しとくね」

「やらせる気まんまんじゃないか…」

「このガイドなんだけど、基本的に1ガイドにつきひとつのパーティを受け持つの。今回は初めてだから戦士のお客さん1人」

「お客さんって…」

「依頼式で毎回違う人をガイドするからね。ここで活躍しないとあとが無いのだ…」

「わかったわかった」

 俺が数回も協力してやれば評判や慣れもあってひとりで出来るようになるだろう。

「まあ今回は戦士さんも初心者だしダンジョンも低レベルだし多分大丈夫だよ」

「ちなみに予習とかは…?」

「…ん?」

「いやその仕事つくならちゃんとわかっておけよ…」

「だって戦うのはイヤだし~」

「そんなシビアなのかそっちの世界は…」

「多分ショップ店員なんてもっと難しいよ。基本的に買い取らないものはないから相場も全部覚えないといけない…」

「あー、それは確かに…。ゲームでもなんでこんな序盤のとこのやつがラストダンジョンの敵モンスターの素材買い取るんだって思ったよ」

「それに波のように押し寄せる冒険者…!私にはやってられません」

「この2年間どうしてたの?」

「2年間?」

「え、違うの?」

「もしかしてまーくんのところは…」

「うん。2年間」

「どひゃあ…それは確かに寂しかったろうねぇ…」

「まあピークは超えたって感じだからいいんだけど」

「これからはいっぱい話せるからね」

「う…うーん」

「なによそれ!」

「いやなんか…うん」

 嬉しい半面もう諦めていたことでもあったし厄介事を押し付けられることにも正直気乗りはしないのだ…。

「もうっ!とにかく私はまだこの世界に来てから1ヶ月くらいしか経ってないの」

「1ヶ月!?復活に時間かかったんだな…」

「だけど私は1ヶ月まーくんがいないだけでも辛かったんだよ…」

「それに加えてこっちじゃお前死んでたんだからな。俺がどれだけ辛かったか…」

「あれ?誰のせい?」

「ぐ…」

「なんて、ごめんごめん。誰のせいでもないよ」

「まったく」

「ユーリが所属してたギルドの人たちが詳しく教えてくれてね。色々助けてもらったの」

「やっぱりそうだよな。お前がそんなにたくましいとは思えない」

「むっ!」

「いやほんと。お前の説明聞いてもちんぷんかんぷんだったもん」

「ほんとややこしいよね。でも生きてる!それでいいじゃない」

「いいのかな…。ユーリの身辺もちゃんと調べた方がいい気がするが…」

「ま、合間合間にね」

「ユーリはなんで死んだんだ?」

「わかんな~い」

「……」

「ま、合間合間にね」

「適当なやつだなぁ」

 結局優梨は自分の身に起きていることに関しても追求する気はまだないようだ…。

「えーと、どこまで話したっけ」

「ナビゲーターのこと」

「そうそう。この世界にはね、ガレフっていうダンジョンみたいなのがあるの。地下に広がる不思議な世界なんだ」

「異世界の異世界って…」

「まあ今私がいる世界ではただの異世界だから」

「またややこしい…」

「そのガレフにも色んな分類があってね。レベルが決まってるの。私がこれから行くのは最も安全なレベル1のタセフィ区」

「へぇ。確かにゲームっぽい」

「内部もかなり変化するの。でもこの区域の範囲だけは変わらないからそれを基準につけられてるみたい。ダンジョンも入れる人数が決まってるの」

「まさに異世界だな…」

「とりあえず朝に戦士さんと顔合わせして私はダンジョンに入らずにダンジョンの前でキャンプを組んでガイドするの」

「へえ。頑張れよ」

「だからまーくんもよろしくね!」

「なにを…」

「こういうの詳しいでしょ?」

「いやお前のいる世界とこっちのファンタジーが共通してるとは限らないだろ…」

「え~」

「ま、困ったことがあったら連絡してこいな」

「は~い」

  俺は電話を切った。

「やべ、急がないと遅刻だ」

  急いで支度をして学校へ向かった。


  予鈴が鳴り響いた頃に校門をくぐる。危うく遅刻するところだった。

「あれ、天太。奇遇だねぇ」

「ん、吉野か。おはよ」

「おはよぉ」

  こいつは吉野。クラス1小柄でなおかつ最も行動の遅い女子だ。もう物理的に遅いのだ。

「お前、もう予鈴鳴ってるからそんなのろのろ歩いてたら遅刻だぞ」

「えへへ~。押していって」

「ったく…おも…」

  こいつ…ガチで自分で動く気がない…。

「階段だぞ」

「はい」

  吉野は俺のカバンにしがみついた。

「…は?」

「ごーごー」

 そう言って吉野は片手をぶんぶんと振り回した。

「いやありえないだろ…」

「2人揃って遅刻する?」

「卑怯すぎる…ちっ…行くぞ!」

  俺はカバンごと吉野を背負ったまま教室のある3階まで駆け上がった。


「いやっほ~ぅ!」

  教室に入ると同時に吉野がゆるい声を上げる。

「あ、吉野おはよー」

「おはよう吉野ー」

「おはよ~」

  あれ?乗り物には挨拶なし?

「おっす天太」

「お、茂野。おはよ」

「朝から大変だな」

「んー、でもこれくらいじゃまだいいかなって感じもする」

「お前そんな忍耐強かったか」

「まぁな」

「天太~ありがと~」

「ん」

「お礼」

  吉野は俺から降りると急にほっぺにキスをした。

「ちょっ!」

「にへっ」

  吉野はとたとたと走っていった。

「ははっ。仲良しだな」

「…あいつは多分挨拶みたいなもんだと思ってるよ」

「ネガティブだな。あんな大胆なことするやつそういないだろ」

「でもほら、あいつアホの子だから…」

「それは否定しないが…」

「おーい、みんな揃ってるかー」

「あ、先生だ」

「はい、欠席確認からはじめるよ」

  慌ただしい朝から一日が始まった。


「あ、あいつだ」

  2時限目の休み時間に優梨から連絡が来た。

「やっほ~!元気?私は元気!」

「朝で十分わかってるから…」

「初顔合わせ、してきたよ!戦士のアインくん!私と同じで初ガレフの新人戦士!意気投合しちゃった!」

「そりゃあなによりだ」

「それでね、アインくんもどうしていいかよくわかんなくて早速アドバイス欲しいんだって」

「こっちにもなんかヒントをくれよ」

「持ってくものと武器や防具について知りたいって」

「いや基本的にわかるだろ絶対…。回復用に薬になる葉っぱやら怪しげなクスリをもってくのが基本だが…」

「あ、葉っぱならあるかも!」

「お、それなら良さそうか?」

「えーと、これをスキャンして…」

「なにしてんだ?」

「あ、ノーフには解析機能があってね、これを使うとアイテムの詳細がわかるんだ」

「…もしかしてショップはそれがあれば知識はいらないんじゃないか?」

「あ…でもでも!人が多いからなぁ~。うんそうそう。だからショップはダメだったよ。うん」

「ごまかしたな…」

「あ、この葉っぱね、やっぱり回復用だって。完全に回復…良さそうだね!」

「いやちょっとまて…それ多分レアアイテムだろ。価値をみてみろよ」

「価値?あ、これか。えっと、500二ーディ」

「二ーディの価値がよくわかんないんだが…」

「宿屋が大体40二ーディ」

「はい高いー!絶対持ってくな!いいな!」

「はーい」

「こういうのはな、だいたい30ポイント回復とかそういうのでいいんだよ。最悪回復なしでもゴリ押しできちゃうんだから」

「敵が強いかもしれないよ~?」

「レベル1のダンジョンだろ?大丈夫だろ」

「うーん、じゃあとりあえずこのバンソウヨウっていう軽微な怪我を治す葉っぱを3枚渡しておくね」

「ちなみにその価値は?」

「4二ーディ」

「はい決定」

「次は武器…」

「ちなみに今の装備は?」

「何にも持ってないみたい。ゲンコツに自信があるのだとか…」

「やめておけ。戦士でそれはだめだ。いや、まあ素手が強いこともあるかもしれないけど…レベル1から素手はもう自分を追い込んでるようにしか思えないぞ」

「じゃあ何がいいかな?」

「無難に剣でしょ。もしくは斧とか?その人力持ち?」

「力には自信あるって」

「じゃあ斧だ。長所は活かそう」

「やっぱり頼りになるじゃん!」

「成功してから言ってくれ。俺にもまだわかんないんだから」

「じゃあアインくんに伝えるよ」

「頑張れよ」

「まーくんもね!」

 そう言って優梨からの連絡は切れた。


 4限目まで授業が終わった。

「ふぅ…飯だ」

「よいしょ」

 吉野が俺の席に来て弁当を広げ始めた。

「…なにやってんだ?」

「ん?おべんとたべるの」

「俺の席なんだが…?」

「にへっ」

「なんだよ…」

「一緒にた~べよ?」

「…わかった」

「うわ~い」

  吉野…何を考えているのかよくわからないやつだ。

「ねぇみてみて。チーズなの」

「はいはい」

 吉野は弁当をおかずを箸でつかみこちらに見せつけてきた。

「天太のは…なにこれ?」

「あ、メインをとるなっ」

「美味しいハンバーグでした」

 吉野は普段の鈍重な動きとは全く異なる素早い動きで俺のハンバーグをくすねとると一瞬でそれを平らげてみせた。

「まるまるひとつ食べるやつがあるか…!」

「お返しね」

「お前これ…」

「ピーマン。にがて」

  ふつふつと湧き上がる怒りに身を震わせながら俺は白米を噛み締めた。

「あれ?おこった?」

「怒ってない!」

「…じゃあこれもあげるから」

「……」

「にんじん。にがて」


  弁当を食べ終えた頃に優梨から連絡が来た。

「あ、悪い。電話だ」

  吉野は人差し指を鼻の前に立てて黙った。ここにいるつもりか…。

「遂にダンジョンに突入したよっ!ユーリです!」

「あぁ、はい」

「まあ突入したのはアインくんなんだけどね」

「そうだな」

「それでね、早速出たんですよ」

「液体状の生命体か?それとも緑色の小人か?」

「何その2択!?でも正解!なんかドロドロしたやつが出たよ!」

「コアを狙え。以上」

「えっ!そんなことまでわかるの!?あー、アインくん!聞こえる?コアを狙うんだよ!」

「斧で良かったな。素手だったら大変だったろう」

「アインくんも言ってた。素手だったら泣いてたかもしれないって」

「だろうな…」

「あ、やった!倒したよ!攻撃が通じなくて苦戦してたみたいだから助かったよ~!」

「まあそんな序盤の敵で苦戦してたら後が大変だろうから、気をつけて進めよ」

「は~い」

  俺は電話を切った。

「…ゲーム?」

「…そんなところだ」

「ふぅん」

「……」

「まいもやりたい」

 吉野が突拍子もなくそんなことを言うものだから俺は少し動揺してしまった。

「えっ。あ、いや」

「おしえて?」

「あー、多分……出来ないと思う」

「やんなきゃわかんないよ」

「…うーん…また今度な!」

「…うん」

  ちょっと落ち込んじゃった…!

「あ、じゃあこれ、これやろう」

「…なにこれ?」

 俺はカバンから携帯を取り出してひとつのゲームを起動させた。

「ストストっていうゲーム」

「すとすと?」

「なんの略だっけな…なんちゃらストーリー…」

「RPG?」

「うん。できる?」

「…大得意」

「ほんとか?」

「…たぶん」

「まあやってみるか」

「どうやるの?」

「ダウンロードすればいいから…ちょっと貸して」

  俺は素早く吉野の携帯にストストをインストールした。

「これで大丈夫」

「あ、楽しそう」

「じゃあジョブの説明から…」

  俺は吉野にこのゲームについて教えてった。あれ?なんかこんなことばっかやってない…?


「やった~」

「お、キャラできたか」

「遊び人のマイマイなのだ」

「らしいな…」

「とりあえず進めたい」

「よし、じゃあパーティを組むか」

「ぱーてぃ…?おいわい…?」

 吉野は先程RPG慣れしていると言ったくせにRPGの基礎用語でもあるパーティをすら知らなかったようだ。

「はい、大得意嘘確定~」

「ごめんなさい」

「ははっ。いいよ別に」

「やればできるかな~って」

「俺もよく思う」

「ねっ」

  昼休みが終わるまで色々教えながら一緒にゲームをした。

「これっ…たのしい!」

「気に入っていただけて良かったですよっと」

「ねえねえ帰ってからもやろ?」

「いや、勉強しろよ3年生」

「身体はこども!」

「言い訳にならん」

「じゃあじゃあ!お昼休みは遊んでくれるの?」

「それくらいならまぁ…」

「やったやった!約束だからねっ!」

「…あぁ」

 吉野はぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表現している。そんな様子を見ているとなんだか少しだけ心が暖かくなるようなほっこりとした気持ちになるのだった。


  そして午後の授業も終わり…。

「帰るか…」

  というところで優梨から電話だ。

「もしも~し!凱旋のユーリちゃんだよ~!」

「はいもしもし」

「どうなったと思う?」

「いや凱旋って言っちゃってたから成功したんだろ…」

「はっ!」

「アホか…」

「まあまあ!とにかく探索は大成功!あの液体状のあいつ、ゲルゲルしか出てこなかったからね!」

「なんて単純なダンジョン…」

「ちょっと入り組んでたみたいだけどその分色々落ちてたみたい。報酬ははずんだよ!」

「RPGとかだとプレイヤーがナビゲーターだとして操作するキャラが依頼者とすると、アイテムはどっちの所持になるんだ?」

「向こうが完全に持っていくよ」

「やっぱりそうなのか」

「でも依頼料でそこで得たものを全て売却した場合の金額の30%をいただくの」

「それはなかなか…。得たもの全部売るわけじゃないから結構負担になりそうだな」

「レアアイテムを拾っちゃってお金が払えなくなることもよくあるみたい」

「そういう場合はどうするの?」

「まあもらうしかないよね」

「気の毒な…。まあでも取得の取捨選択をするゲームは意外と少なくないもんな」

「よく分かんないけどそうだね」

「まあ無事にできたようでなによりだよ。おつかれさん」

「ありがとう!次もよろしくね!」

「いやお前はもっと勉強しろ…」

  優梨はしっかり依頼をこなせたようだ。異世界でもちゃんと生きていけそうだし俺が心配してやることはないかもしれないな。…あまり深入りしすぎても仕方ないし。

「でもあいつも…優梨なんだよなぁ…」

  現実ではありえないからこそ余計に頭がこんがらがる。世界を超えて移動出来れば俺は優梨に会いにいけるのに…そうでないから俺は優梨の幻想を追ってた頃と同じような虚しい感覚に襲われるのだった。

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