15.帝国一の

「撃て撃て撃てぇ! あの馬車は貫通しない! ほろで作った陣地もだ! だから、遠慮なく撃ちまくれ! 余った薬莢やっきょうを持ち帰りたくないならすべて撃てぇ!」

「「「はい、エルマ隊長!」」」


 案の定、山道は寸断されていた。だが、飛び道具ならば届かせられる。私の号令に従って、二二五小隊は武装集団に弾丸の雨を浴びせた。


「ぐわっ!?」

「なんだ、何が起きた!?」

「撃たれてる! 撃たれてるんだ!」

「銃砲隊――二二五小隊か!」


 武装集団は高台に二二五小隊の姿を見つけたようだが、槍が武器ではどうにもならない。対応しうるのは弓と銃のみ。武装集団はこちらに弓を向けた。が、


「くそっ……あいつら、銃だけじゃなくて盾まで用意してやがる!」


 ただでさえ上方狙いは矢の勢いが減衰するのに、盾まで並べられればろくに当てられない。ぐずぐずしていれば、他の帝国軍が弓を携えて集まってくる。


「さあ、諸君。撃ち続けたまえ。やつらは物資に火を点けねば目標を達成できない。馬車の陰で防御に徹した輜重しちょう隊を排除しなければ始まらない。なのに、背後から闇雲に飛んでくる死神がやつらの貴重な貴重な時間を奪い取るのだ。さあ、さあ、諸君。撃ち続けたまえ」

「「「はい、エルマ隊長!」」」


 武装集団は馬車の陣地を攻略できない。


「くそっ! くそっ! くそっ! お前ら、根性を見せろ! 前に進め! 進むんだ! 輜重しちょう隊ごときにどれだけ時間を掛けてる!」


 武装集団は数の利を活かせない。転がる自軍の怪我人を踏みつけ、殺し、それでも思い通りにできない。その様は、皮肉にも、罠であった建物で焼かれた帝国軍を思い出させるものであった。


「射よ! 輜重しちょう隊を救え!」


 やがて、他の帝国軍部隊が追いつく。叩き込まれる矢弾の数は増加し、二二五小隊が狙えなかった武装集団の弓射手も次々に倒れていく。


「殺せ! 殺すんだ! 輜重しちょう隊だぞ! 俺たちの敵じゃないだろうが!」

「隊長、無理です!」

「うるさい! やれ! やるんだ! ここでやれなきゃ俺たちは終わりなんだぞ!」

「帝国軍が応急的な橋を架けています! もう時間切れなんです!」

「ぐぅうううう……っ!」

「隊長っ!」

「……撤退だ! 撤退せよ!」


 そうして、ついに武装集団は逃げることを選択した。

 輜重しちょう隊にも多数の犠牲者が出ていた。馬も何頭も殺され、帝国軍は帰還に苦労するだろうことが見て取れた。

 だが、私たちは守るべき物資を守り切ることに成功したのである。


「……マジで勝った、のか」

「マモト曹長、そうっスよ。勝ったっス」

「勝った……勝ったぞぉおおおお!」

「「「うぉおおおお!」」」


 そこかしこから上がる大歓声。整然とした勝ちどきの声ではなく、腹の底から出た生存を喜ぶ叫びがそこにはあった。一歩間違えれば、この三〇〇〇のうちの半分が故郷の土を踏めなかった。それを頭と心で理解しているからこその雄叫おたけびなのだろう。


「ようやく……ひとつ、歴史が変わったな」


 アーデルヘルムが知る歴史が明確に変わった。――帝国は救えるのだ。






「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」






 驚いた顔で私を見るマモト曹長以下二二五小隊の隊員たち。なんだ、私をつまらない戦争機械とでも思っていたか? 残念だったな。


「勝ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 私は――帝国一の愛国者なのだ。

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