4.【朗報】エルマ少尉、金欠曹長を助ける【とても優しい】
「マモト曹長マモト曹長! 凄いっスよ!」
「何がだ、伍長。朝っぱらから……って、エルマ少尉のことか」
二二五小隊の詰め所。伍長が新聞を持っているのを見て、マモト曹長は
「そうっス! 帝国に残存する工作員の発見で功あり! さらに、少数の部隊を率いて先回りして、工作員の逃亡を阻止! まるで未来からやってきたみたいっス!」
「工作員の潜伏先も逃亡ルートも軍事機密だから、未来人でもマジで知らねえよ」
「マモト曹長は夢がないっスねー」
「うるせぇ、夢より目先の金なんだよ」
マモト曹長の指摘は半分正しいが半分誤りだ。
「ふむ。マモト曹長、浮かぬ顔だがどうかしたのかね?」
「どうもこうも、マジ
「ああ、私だ。本日付で改めて二二五小隊を率いることとなった。よろしく頼むぞ」
「も、もちろんです! マジ任せてください!」
「うむ。マモト曹長は部下をよくまとめているから期待している」
「はい、エルマ少尉!」
マモト曹長は、嵐をやり過ごせたと言わんばかりの顔で胸をなでおろした。
「あのー、質問いいっスか?」
「伍長、何かね?」
「なんで、エルマ少尉は二二五小隊に戻ってきちゃったんスか?」
「ちょっ!? ば、バカ! マジ、バカ伍長!」
「それだと俺、バカ伍長って名前みたいなんスが……」
「うるせぇうるせぇうるせぇ!」
「伍長」
「え、エルマ少尉、マジ待ってください! 俺がマジちゃんと教育するんで、勘弁してやってください!」
「別に叱責はしない。質問に答えるだけだ」
「お、やった。言ってみるもんスね」
「伍長、お前……マジで怖いもの知らず過ぎだろ……」
改めて、私は伍長に向き直る。頭ひとつ彼の方が大きいので、どうしても見上げる形になる。いい加減この体にも慣れたが、どうにも、こういう部分は違和感が消えない。
「その新聞にも、私が西部方面軍司令部で部隊を率いて立ち回りをした記事があったと思うが、私は司令部からの推薦を受けて他にもいくつか部隊を率いて行動をした」
「そうだったんスか」
「ところが、人を女と見るなり舐め腐るバカ者揃いだったから、私はその再教育をさせられたのだ。まったく、無駄な時間だったよ」
「再教育……っスか」
「マジで何があったんですか?」
「簡単に言えば――」
『オイ、女少尉。銃よこせよ。そうすりゃ後ろで待ってるだけでいいぜ』
『どうしてもってんなら、俺らのお
『ガハハ……ぐぎゅっ!?』
『こ、この女、何しやが……ぐげっ!?』
「――とまあ、行動に出たバカ者を全員絞め落として、営倉送りにしただけだがね」
「うわぁ……っス」
「それ、マジで営倉あふれるんじゃないですか?」
軍の懲罰房である営倉は、通常、大隊でも狭い独房三つ程度しか用意されていない。
「問題ない。全員詰め込んだ」
「あ、やっぱり、足りなくなったんスね」
「私がひとつ過激な対処をしておけば、次の部隊はまともな対応になる……と思ったのだが、どうも、報復を
「そ、それでどうなったんスか?」
「詰め込むのに苦労させられたよ」
「勝ってるっス!?」
「マジか、この人……」
この大帝国の重職にあって、なお一騎討ちで生涯無敗を貫いたのは伊達ではない。多少のハンデがあろうと負けはしない。
「一段落したところで銃への適性を確かめたが、どれも二二五小隊に大きく劣っていた。これが私が二二五小隊への再配属を願った理由だ」
彼らは知らないことだが、この結果は私にとって予想通りであった。
二二五小隊。それは前世における帝国最精鋭の銃砲部隊の名である。劣勢にあった帝国が見様見真似で運用を始めた銃砲部隊の中で、二二五小隊は高い士気を維持し飛び抜けて大きな戦果を上げたのだ。
「さて、マモト曹長。こうして他部隊を経験してよくわかった。君は実に優秀な先任曹長だ」
「い、いやいや、俺なんかマジ大したものじゃないですって」
「
「エルマ少尉……マジ、ありがとうございます」
マモト曹長は本当に照れくさそうに頭を下げた。そこに不満や屈辱といった負の感情は見受けられなかった。
これは
「ところで、先ほど君は金欠を気にしていたようだが」
「うっ……聞こえてましたか」
「私が小隊を率いることになったからには、もうその心配はない。毎月の給与が二〇万は増えると思ってくれていい」
「えっ?」
「俸給に至っては桁がひとつ増えることだろう」
「マジですかっ!?」
「ああ、本当だとも――」
「――出撃手当には期待したまえ」
「……あの、マジで転属願い、出していいですか?」
「却下する。君は実に優秀な先任曹長であり、君がよくまとめているからこそ、二二五小隊は円滑に機能するのだからな」
マモト曹長の
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