第13話
「髪型でも変えれば良いんじゃないか? あるいは、帽子でもかぶってあまり顔をはっきり見せないようにするとか」
「それよガーくん! ねえアルバートくん、わたしの髪をあげるわ!」
ガーくんの提案に、わたしはポンと手を打った。
「え、何を言っているの、ルルちゃん? 髪を? くれる? って? どういう意味だい?」
後ろからアルバートくんの戸惑ったような声が聞こえる。
どういう意味もなにも、そのままの意味だけど……?
アルバートくんってば何を言っているのかなと思いながら、わたしは目当ての物を探し出した。
ああ、鏡台の所にあったわ。
「ね、ねえルルちゃん、そのハサミはなに? なにをしようとしているの? ちょっと待ってよ君まさか……!」
アルバートくんがなぜ止めようとしているのかわからず、わたしは見つけた魔法のハサミを使った。
シャキッ、バツン!
そんな小気味のいい音を二回響かせれば、すっかり頭が軽くなる。
「はい、これ! この髪で、カツラみたいなのを作りましょう!」
「な、なんてことをするんだ! せっかくすごくキレイな髪だったのに!」
わたしは得意満面で切り落とした二本の三つ編みを差し出したけれど、真っ青な顔のアルバートくんに叫ばれてしまった。
「そこまで伸ばすのに、どれほどの時間と手間がかかったか……」
アルバートくんに目に涙まで浮かべて悲しまれて、気づく。
普通、髪を伸ばすのはとても大変なのだ。それも、キレイなまま長く伸ばすのは、すっごくたいへん。
「ごめんアルバートくん、びっくりさせちゃったよね。平気だよ。わたしの髪、今朝まではちょうどこのくらいの長さだったし」
「……へ?」
わたしが頭をさげると、アルバートくんはぽかんと小首をかしげた。
ガーくんが、はあ、と呆れたようなため息を吐く。
「万能の魔女様にかかれば、ルルの髪の長さくらいは自由自在ってことだよ。伸ばすのにどれほどの時間と手間かという問いに、ボク様が答えてやろう。ずばり、あの方に一曲歌っていただく程度の時間と手間さ」
「……魔女というのは、すさまじいのだな」
「まあ、万能の魔女様は特別だけどね。あの方でなくとも、魔女に常識なんて通じないと思っておけば間違いはないな」
「そう、か……」
アルバートくんはまだどこか呆然としていたけれど、ガーくんに教えてもらって多少落ち着いたみたいだ。
「それよりルル、それ、どうカツラにするつもりだ?」
くるりとこちらを向いたガーくんに問われ、わたしは考える。
「さっきガーくん、帽子でも~って言ってたじゃない。帽子の内側にこう、なんとかくっつけられないかな?」
「んー。それなら、まずその三つ編みをバラけないようにまとめた方が良いな。万能の魔女様の髪紐を借りて使ったらどうだ? その色の髪の持ち主が二人は、目立つだろ。魔女なんてめったにいないはずなのに」
「あー、この色の変わるやつか。良いね。三つ編みに編み込んであるリボンとこう、ぎゅっとする感じでいけるかも。あとはピンでも使って、ガチガチにとめましょう」
「ええと、万能の魔女様の髪紐、というのは?」
わたしとガーくんの話し合いに、おずおずとアルバートくんが混ざってきた。
わたしは髪をどうにかしながら、説明していく。
「おばあちゃんね、魔女の宝石みたいな髪は派手過ぎるからって、見た目が変わる魔法を込めた髪紐を使っているの」
「ルル、説明が雑過ぎる。どういう風に変わるかっていうと、魔力の輝きを外から見えなくするんだ。普通の、そこらの人間の髪の色に見えるようになるってわけだな」
「で、それを使うと……、ふーん、わたしの髪って、金色になるのね。パパもママもお兄ちゃんたちもお姉ちゃんたちもみんな金髪だから、そりゃそうかって感じだけど」
「へえ……。見事だな。こうも鮮やかに一瞬で色が変わるものなのか……」
アルバートくんから関心したようなため息が漏れたところで。
とりあえず、三つ編みは手を離してもバラバラにならない状態にはできた。
あとはどうにかこうにかとれないように帽子にくっつければ完成だ。
そうしてこうしてあらためまして。
アルバートくんの変そうが、完成した。
上はシンプルな薄手の長そでブラウス、首元に青いリボンを巻いた。下は黒い長ズボンに編み上げブーツ。
あまり夏らしくはないけど、ここは森の中なので。この後も森の中とか通って行くはずなので。虫と植物の対策として肌を隠した方が良いというガーくんのアドバイスによってこうなった。
わたしの服だけれども、男の子でも女の子でも変じゃない組み合わせになっていると思う。
そこに、大きなリボンが巻かれ三つ編みがくっついた、女の子にしか見えなくなるかわいい帽子を合わせて完成だ!
「な、なあ、やはり変じゃないか……?」
アルバートくんはまだほんのり照れている様子だったけれども。とんでもない。
「いや、めちゃくちゃ活発そうでかっこよくて凛々しい美人に仕上がってるよ! 帽子ごときでは隠し切れない程の美少女っぷりだよ!」
「ううーん、ちょっとこれは、美人過ぎて目立つんじゃないか?」
わたしはやんやとほめたたえ、ガーくんは心配そうに呟いた。
「美人……、美人か……、そうか……。僕は、世界で一番の美人とも言われたお母様に、よく似ているらしいからな……。いや、変そうに成功した、ということで良いだろう! 髪の色も金だと思ってもらえるだろうし、だれも僕が白雪王子とは思うまい!」
アルバートくんは、ちょっとしょんぼりしていたけれど、開き直ったらしい。
堂々と胸を張った彼にわたしはぱちぱちと拍手を送る。
「……まあ、そうだよな。王子に見えなきゃなんでも良いか」
ガーくんも、納得したようにうなずいていた。
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