第10話

「やめておいた方が良い、ルル」


 ガーくんまでそんな風に言ってきた。

 わたしは、ガーくんに問いかける。


「どうして? パパだってママだって、優しいよ? きっとアルバートくんの味方に……」

「ならない。絶対に。あいつらは、大人だからな。大人は基本的に、大人の仲間で味方なんだよ」


 ガーくんは、あまりに力強く断言した。

 そのあまりの迫力に黙ってしまったわたしによく言い聞かせるように、ガーくんはゆっくりと続ける。


「よく聞け、ルル。親の姿をしたバケモノに対して、子どもはどうしたって無力なんだ。家に連れ戻してほしい。心配だ。そう涙ながらに訴える親の姿をしたやつに、大人はみーんな協力するだろうさ」

「そう、かもしれないわ。確かに、兵士の人たち、アルバートくんを探すのをやめてなかったもの。魅了の香水からずっと離れてあの山に来て、少しは正気に戻っていたはずなのに。でも、ちゃんと話をすれば……」

「どうだろうな。ボク様が悪い魔女なら先手を打っておくね。そうだな、『王子には人の関心を引きたくて嘘を吐く癖がある』あるいは『王子をさらおうとした悪人に嘘を吹き込まれ、王子はそれを信じてしまっている』なんて言ってあったらどうだ?」

「……誰も、アルバートくんの言う事を、信じてくれない? もしかしたら、話を聞いてすら、もらえない?」

「だろうな。大人たちからすれば、『いやあ、子どもの相手をするのって大変ですよね。子どもって、何もわかっちゃいないし、大人の言うことをちゃんと聞いてくれないし、変な嘘ついたりするし。どれ、私も手伝いましょう』くらいのものだろう」


 そんなのひどい! と思うけれど、そんなことない! とは思えない。

 わたしだって、先に会ったのがアルバートくんだからアルバートくんを助けなきゃと思った。こうして話して、きっと嘘は言っていないと思える。でも、先に兵士の人たちと会っていたら……、わからない、かも。

 それで、しかも、大人は大人と子どもの言っていることが違ったら、大人の方を信じるよねぇ……。

 子どもだって、ちゃんと色々考えているのに! というのを、大人はけっこうわかってくれないもの。

 しかも、相手は親の姿をしたバケモノ。悪い魔女が白雪女王様の姿をしているせいで、アルバートくんにとっては更に難しいことになっている。

 子どもは、保護者といっしょに暮らすのが良い。みんなそう思うだろうから。大人は特に。

 ええと、それなら……。


「それなら、他の大人にはないしょで、おばあちゃんの所に行きましょうよ。魔法の鏡にできることくらい、おばあちゃんならできる。アルバートくんが嘘を吐いていないって、わかってくれるはず」

「まあ、万能の魔女様だからな。真実を見通すことも、人を正気に戻すことも、悪い魔女の正体を暴くことも、ついでに魔法の鏡を直すことだってできるだろうさ」

「そうよね、ガーくん。……つまり、他の大人に見つからずに、おばあちゃんの所に着きさえすれば、わたしたちの勝ちよ!」

「ま、待ってくれ。わたしたちって、君は、そんなにずっと僕を助けてくれるつもりなのかい? とんでもない! そこまで君たちに迷惑をかけるわけには……」


 ドン! と結論を出したわたしに、アルバートくんはぶんぶんと首を振った。

 ピタリまっすぐ彼の目を見て、わたしは言う。


「ううん、迷惑なんかじゃないわ。これは、魔女としてのしめーなの!」

「ルル、使命、な。魔女の力を悪い事に使っている魔女がいたら、他の魔女はそれを止めなくちゃいけないんだよ。それが、魔女としての使命ってことだ」

「そうなの! でなきゃ、魔女はみんなに怖がられて、嫌われて、普通に暮らせなくなっちゃうもの。そうおばあちゃんに教わったわ。それにほら、もう私たち、友だちでしょ? 友だちのことは助けたいって思うのが、普通でしょ?」

「あ、ありがとう……、ルル、ちゃん。でも、だとしても、君がそう思ってくれていても、賛成できない。君は魔女だけれども、まだ子どもじゃないか。君の家族だって心配する!」


 アルバートくんってばまじめだ。

 すごく嬉しそうだったのに、ありがとうって、そこで止めちゃえばいいのに。

 まだ反対してきた彼に、ところがそうじゃないんだよーと伝えていく。


「心配……、は、まあするかもだけど。でもきっと、応援してくれるわ。パパもママも家族みんなも、私のしたいようにさせてくれるの。魔女は、自由じゃなきゃいけないから!」

「ルル、それだけじゃ意味がわからないと思うぞ。聞け、アルバート。魔女は、自身が思うがままに生きる。魔女は、何にも縛られず、自由でいなければならない。そういうものなんだ」

「なんかねー、無理に型に押し込めようとすると、魔女の力って弱くなっちゃうんだってさ。それどころか、私みたいな成長中の魔女を変に縛り付けると、ゆがんで育っちゃうらしいよ」

「特にこいつのうちは、父親が、『せっかくの魔女の才能あるわが子を、自分みたいなつまらない人間にしてはいけない!』と気合入れててな。というのも、ルルの父親が、万能の魔女様の息子なんだよ」

「パパは、おばあちゃんの息子なのに魔法が使えない自分がずっと嫌だったんだってさ。それと、おばあちゃんへの憧れがめちゃくちゃ強いっぽいんだよね」

「コンプレックスってやつだな。ルルの父親は真面目でお堅い男で役人みたいな仕事をしてるやつなんだが、だからこそ自分とは全然違う自由な魔女への憧れが強くあるんだろう。その結果、やりすぎなくらいこいつの自由を大事にしてるんだ」

「そうなの。『やっぱりおばあちゃんを追いかけようと思います。ガーくんもいっしょなので、心配しないでください』って手紙の一枚でも送っておけば、わたしの家族はなにも言ってこないと思う!」

「でも……、でも……」


 わたしと、ガーくん。二人がかりでこれだけ説明しても、アルバートくんは納得してくれていないみたいだ。

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