第8話

「は? めちゃくちゃを言うじゃないか、ルル。目隠しの魔法を使い続けながら、うちまで戻れ? そんなことしたら、万能の魔女様にもらった魔力、すっからかんになっちゃうぞ!」

「でもガーくん、どこで見られるかわかんないじゃない。見られたら、さっきの人たちがうちまできちゃうわよ! 真っ白くて大きなガーくんが空を飛ぶと、すごく目立つし!」

「くうっ、ボク様が人目をひかずにはいられない美しさなばかりに……! かといって、飛ばなきゃ時間かかるよなぁ。それもそれで、いつさっきの兵士たちに見つかるかわからない……」

「その、申し訳ないのだが、先ほどの彼らは一部隊で、追手全体はもっと数が多いのだ……」

「だろうなぁ! それ全部から逃げるには、ルルの言った通り、目隠しの魔法を使い続けながらうちまで飛んで戻るしかない……、のか……。ああ、もう! お礼は後でたっぷり寄越せよ、王子サマ!」

「ああ。この名にかけて、必ず……!」

「ねえアルバートくん、そこらの子どもは、名にかけないよ。あとさっき『申し訳ない』って言ってたけど、それも言わない。ごめん! ありがとう! それで良いの!」

「……ごめん! ありがとう! ちゃんと後でしっかりお礼をするって、約束する!」

「そう、そんな感じ!」


 とまあ、そんなこんなで。わたしとアルバートくんはガーくんの背中に乗って、ついでに荷物ものせて、うちまで戻ることになった。

 歩けば三時間くらいかかる道のりも、ガーくんが飛べば三〇分もかからないくらい。

 ただ、その間ずーっと目隠しの魔法を使うというのは、けっこうなムチャだったみたい。

 うちに着いた途端に、ガーくんはぬいぐるみサイズに戻ってしまった。

 空中で力尽きなくて良かった。というか、かなりヘロヘロだったので、おばあちゃんからもらった魔力で足りない分を、きっと根性とかでなんとかしてくれたのだと思う。さすがガーくんだ。

 わたしとアルバートくんでめいっぱいガーくんにありがとうを伝えて、ほめにほめたけれど、ガーくんのドヤ顔はいつもより弱弱しかった。

 そういったわけで、ガーくんのおかげで、無事にわたしたちはうちにたどり着いたのだった。


 お疲れ様のガーくんをチヤホヤして、ケガをしていたアルバートくんの手当をして、改めてみんなでお昼ご飯もしっかり食べて、片付けも済ませて。

 ようやくなんとなく落ち着いた。

 うちのリビングダイニング。アルバートくんにはいつもおばあちゃんが座っている椅子に座ってもらって、わたしとガーくんとテーブルを囲んでいる。

 そんなところで。


「なんで王子様が逃げてるのー? とか、さっきの人たちってやっぱりそっちの国の兵士さんー? とか、色々聞きたいことはあるんだけどさ。まず、わたしの自己紹介からするね!」


 そう、わたしは切り出した。

 ぴょんと椅子を飛び降りて、胸を張って、大きな声で!


「わたしは、あの【万能の魔女の】一番弟子『ごっこをさせてもらってる実の孫』! 空を自在にかけまわるすっごい魔女『に、なるかもしれない』【空の魔女】『見習い』リュシエンヌ・ドゥ『こいつのフルネーム長いから、縮めてルルで良いぞ』よ!」


 隣から! 余計な事を付け足した馬がいる!!

 わたしは、キッとガーくんをにらんで、怒る。


「ちょっとガーくん、余計なことを言わないで! ごっことか、見習いとか! ルルって呼んで欲しいのはそうだけど! わたしは【空の魔女】ルルだもんっ!」

「自分で言ってどうするんだよ。そういう【万能の魔女】みたいな二つ名っていうのは、他の人があいつすげーって思って自発的につけるから、かっこいいのだろ」

「うっ。そうかも、だけど。でもでもでもっ! わたしは、大きくなったらガーくんも大きくできるようになるもの。それで、二人で空を自在に飛んでまわってあっちこっちで活躍するの! おばあちゃんみたいに!」

「そっ、そっか。そんなにボク様とずっといっしょのつもりなわけね。……ルルってば、よくそんな事を照れずに言えるよな……」


 ガーくんは最後なんだか疲れたようにそう呟いたけど、照れる要素がどこにあるのか。

『ペガサスは空の王者だ!』と言っていたのは、ガーくん自身じゃないか。

 それなら、わたしとガーくんはずっといっしょにいるんだから、わたしがなるのは空の魔女に決まっている。


「まあ、まとめると。こいつはルル。空の魔女見習い。万能の魔女様の孫で、あのお方に魔法を教えてもらっているのは事実。だからまあ、弟子といえば弟子だね。優秀さじゃなくて、孫ならではのかわいさでなった弟子だけど」

「もう、ガーくんってば、また見習いってつけた! しかも、弟子と言えば弟子とか……、もう!」


 ガーくんは勝手に雑な感じにまとめて、わたしはそれに怒りの声を上げたけど、ガーくんはツンとすました顔だ。


「なるほど、ルル嬢は……」


 アルバートくんが何か言いかけたが、あまりに気になったので、途中で口を挟む。


「アルバートくん、【嬢】なんて、そこらの子どもは使わないよ。同じ年の女の子を呼ぶんだから、【ルルちゃん】で良いの」

「……なるほど。では、そのように。ええと、ルルちゃんは魔女で、ガーくんはその使い魔、ということだね」

「そう。で、ボク様はさっきまでの大きくてかっこよくて美しい姿が元々の姿。ルルが未熟……ああごめん。嫌な言い方だった。ええと、ルルがまだ成長途中の魔女だから、負担をかけないよう、ボク様もこのちまい省エネ姿になってるってわけ」


 アルバートくんの確認に、ガーくんが答えた。

 わたしが未熟と言われてちょっとうつむいてしまったから、ガーくんはちょっと焦ったらしく、後半はとても早口だった。

 うん。わたしはまだ、成長途中なだけだから。いつか、ちゃんとガーくんをのびのび活躍させてあげられる魔女になるから。絶対に。すぐに。

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