第5話

「さてルル、今日は何をする? この大きくて強くてかっこよくて美しくて心の広いボク様が、どこにだってエスコートしてやるぞ!」

「うわしつこい」


 得意満面の顔でドヤっと胸を張ったガーくんに、思わず本音が漏れてしまった。ほんの小さな声でだけど。

 ただ、ほんの小さな声であったおかげで中身まで聞かれはしなかったらしい。

 ガーくんは、きょとんと小首をかしげる。


「ルル? 今何か言ったか?」

「ううん、何も。それとね、ガーくんが大きくて強くてかっこよくて美しくて心が広いことはよーくわかってるから、いちいち言わなくても良いよ」


 私は、ごまかしながらそう言ってみた。

 本音としては、『しつこい。ウザい。もういい加減にしてくれ』だけど。そんな事を言ってしまったら、ケンカになるので言わない。


「ふはは、わかってるじゃないかルル! ボク様のこの姿を見れば、みんなが当たり前にそう思うよなぁ!」


 ガーくんはごまかされてくれたらしく、鼻高々だ。

 ちょっとイラっとするけど、もう『大きくて強くて~』と言わないなら何でも良い。


「うんうんそうだね。それでねガーくん、おばあちゃんがお昼ご飯にお弁当を作って置いて行ってくれたでしょう。今日は天気も良いし、ピクニックがてら、西のお山に薬草を取りに行きたいわ」

「西かぁ。あの山の中には、白雪の女王の国との境がある。うっかり国と国との境を越えてしまわないよう、気を付けて行こうか」

「ああ、そうなんだっけ。いつもおばあちゃんと薬草を取りに行っているあたりまでは、平気なのよね?」

「うん。あそこともうちょっと先までは、この国の中だ。万能の魔女様の土地でもある。まあ、全部ボク様に任せろっ! ルルは、山では特に、ボク様の言うことをよく聞けよ! ちゃんとしないと、あっちの国の兵士に捕まっちゃうからな」

「はーい」


 土地がどうのとか国と国の境がこうだとか、よくわからなくて。

 視線をうろうろさせてしまっていたら、ガーくんが雑にまとめてくれた。

 そうそう。ガーくんに任せておけば、間違いはない。

 わたしがなにか間違ったことをしそうになったら、ちゃんと止めてくれる。


 ガーくんは、けっこう長生きだし、とっても賢いのだ。

 普段はあんなぬいぐるみみたいなかわいい姿をしているけど。

 本当に賢いのかなー? と思う時もあるけど。

 実はパパとそんなに変わらない年で、頭も普通の大人並みどころか学校の先生だってできるくらい、らしい。本当かなぁ……。


 まあとにかくそんなこんなで、わたしとガーくんは、西の山に向かった。



 ガーくんの背に乗って、一っ飛び。

 ついたのは、西の山のてっぺんに近い所。

 もう高い樹はなく、この辺にしかない草が多い。


 ガーくんは、いくら大きくて強くてかっこよくて美しくて心の広いと言っても、馬なので。

 どうしたって人間ほど器用な手を持ってはいないのだ。

 おばあちゃんの魔力をたっぷりもらったので、今のガーくんは魔法が使えたりもする。けれどそれだって、ムダづかいをいくらしたって大丈夫ってわけじゃない。

 薬草を一つ一つ取るのにまで魔法を使っていたら、すぐに力を使い果たしてぬいぐるみサイズに戻るだろう。

 なので、ガーくんが薬草を取るのは難しい。

 だから、わたしが一人でせっせせっせと薬草をとるしかない。


 今、わたしはあっちこっちを見て回って、その中から薬草を探している。

 ガーくんは、広く平らになっている場所に腰を下ろして待っている。

 ガーくんの隣にはしき物をしいて、お弁当の入ったバスケットと、持ってきた荷物を置いてある。

 地べたに生えている薬草をとるには、どうしてもしゃがまなければいけない。

 それをずっとずーっとつづけていると……。


「あーもうダメ! 疲れた疲れたつっかれたー! やすむー!」

「こらっ、地べたにねっころがるな、ルル! あんまり汚れたら、ボク様の背中に乗せてやらないぞ!」


 わたしはストンと地面に座って、そのまま後ろにねころがっちゃえ! としたところで、ガーくんにしかられた。


「ほら、ルル、休むのならしき物の上にしときな。あ。乗る前に尻はよく叩いておけよ!」

「はあーい」


 ちょっとうるさいなぁとは思ったけれど、まあその通りなので。

 わたしはガーくんの言った通りに動く。

 しぶしぶ立ち上がって、スカートについてしまっていた砂をパタパタ叩いて落としながらしき物のところまで歩く。

 ようやくついたーと、もうそのままお尻からごろーん! としたところで、ギッっと怒った目になったガーくんと、目が合ってしまった。


「あっ、ルルのバカっ! クツはぬいでから……、いや、やっぱりぬがなくて良い。緊急事態だから。クツごとそのしき物の上にのれ。ボク様がどうにかするから、ルルは静かにしとけよ」

「えっえっえっ、どうしたのガーくん」


 急に変な事を言いだしたガーくん。

 わたしはなんなのか聞きたかったけれど、ガーくんはけわしい表情で、山のてっぺんの向こうをにらんで、ちっともわたしの話なんて聞いていなそう。


「シッ。静かに。ナニか来るぞ……!」

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