第2話

「お父さんと、お母さん、が…?」



 何年も会っていない両親


 そんな人たちにお願いされて…?


 理解ができなかった


 なんの理由で、この人をここに呼んだのか…


 その時、チラッと華鋏と目が合った


 華鋏はニコッと笑い、言う



「詳しいことは、どこか雨宿りできる場所にしようか。この雨の中で立ち話なんて、あなたの綺麗な服がびしょびしょになってしまうから」



 そこでようやく気がついた


 朝顔は慌てて頭を下げて、門を開ける



「ごめんなさいっ!やだ、私ったら…雨の中お客様を立たせっぱなしで…ごめんなさい。中に入ってください。温かい紅茶を準備しますので…」


「お構いなく…」



 そこで朝顔は気がついた


 地面にも『朝顔』が張り巡らしていることを…



「あっ…だめっ!」



 咄嗟に華鋏を止めようとした

 だがそれは間に合わない


 華鋏の足が『朝顔』を踏みつける


 はずだった


 華鋏の足が近づいた瞬間、『朝顔』たちの方から逃げたのだ

 朝顔が歩く道を開ける時と同じように


 驚きでしかなかった


 だって今まで『朝顔』が朝顔以外にそんなことをすることがなかったから…



「どうかしました?」


「へっ?あ、ごめんなさい…その…『朝顔』が避けると思ってなくって…」


「ん?あぁ、これですか。多分、私の体質のせいですね。それもこの後説明させていただきます」



 また、やわらかく笑った


 始めてのことだらけで頭がこんがらがっているが、どうにかこうにか家の中に案内する



「ごめんなさい。お客様を家にお招きしたことがなくって…あっ、そちらの椅子に座ってください。すぐ紅茶をお出ししますね」



 朝顔はパッパッと服についた水滴を払うと、そのままキッチンにお湯を沸かしに向かう


 家の中はとても温かかった


 優しい、誰かに守ってもらっているような…



 華鋏は家の中にまでツルを伸ばす『朝顔』を見た

 『朝顔』は、普段は椅子やテーブル、台所や灯りにまで巻き付いているくせに、



「お待たせいたしました。レモンティーです。砂糖とミルクもあるので、よければお使いください」



 白に水色の柄の入ったティーセット


 温かい紅茶を一口飲み、華鋏は言った



「まずは…どこからお話ししましょうかね。依頼…か。まず、私は先ほど見てもらったように『摘花師』です。簡単に言えば、『花』を摘み取る。詳しく言えば、朝顔さん、あなたから咲いているその『朝顔』を摘み取り、『朝顔』の成長を遅らせる仕事です」


「『朝顔』を、摘み取る?でも、この花は…」



 どうやっても摘み取ることができないのだ


 昔両親が切り取ろうとしたが、まるで石に刃を入れてしまったかのように鋏が砕けてしまったのだから


 薬をやってみても枯れることがない、永遠に咲続ける『朝顔』



「先ほど朝顔さんも見たでしょう。『朝顔』が私を避けたところ」


「そういえば…今まであんなことなかったのに…」


「この世の中には、あなたのような『花』に魅了された少女たちがいます。少女たちが咲かせる『花』は普通の鋏では剪定できません。ですが…私は、魅入られた少女たちの『花』にとても嫌われている体質で…いわば天敵のようなものですね。そのおかげか、その『花』たちを剪定することができます。それが、摘花師です」


「じゃぁ…この子たちを切ることができるんですか…?」


「はい。私なら、あなたを囲んでいる『朝顔』たちを剪定することができます。ですが、これだけは忘れないでください。『花』に魅入られた少女たちは『花』から完全に解放されることはありません。摘花師といえど、そこまでできる技術がありません。ただ、咲続ける『花』の成長や開花を遅らせる。それだけなんです」


「そう…ですか…」



 どこか心の奥で、ほっとする自分がいた


 それが何故かは、分からないが



「…朝顔さん、摘花を、してもよろしいでしょうか。あなたが嫌であれば、私は強制することはしませんよ」



 優しい言葉


 朝顔の中で、解放されたい自分と、このままでもいい自分がいた


 でも、ほんの一瞬だけ、両親の顔を思い出した


 全く出会うことのない両親の顔を


 また、見たいな


 一緒に暮らしたいな


 そうして、決心する



「華鋏さん…」


「はい」


「…摘花を…お願い、します」



 途切れ途切れで言う


 華鋏は、柔らかく微笑み、



「お任せください」



 と言うのだ

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