リバース・エッジ

@U3SGR

第1話 1

 過去の栄光が崩れ去った70年。


 日本は、かつて世界第2位の経済大国として栄えていた。しかし、2056年には技術者の海外流出と経済停滞が重なり、少子高齢化が一層進行していた。人口は8000万人を割り込み、高齢者が総人口の半数以上を占める社会へと変貌していた。


 技術への投資を怠り、技術職の賃金を削減した結果、優秀な人材はアメリカや中国、インド、東南アジアの新興国に流出した。これにより日本の技術力は著しく低下し、国際競争力を失った。製造業は衰退し、観光産業以外の主要産業はほとんど壊滅状態に陥った。その結果、年金や健康保険、介護保険といった社会保障制度も崩壊していた。


 このため、政府は高齢者向けの特別プログラムを導入し、希望者には終末期医療と葬儀の費用を無料で提供することになっていた。これにより、多くの高齢者が安心して人生の最期を迎えることができるようになっていた。


 経済的な困窮と社会保障制度の崩壊により、未来に希望を持てる日本人はほとんどいなくなっていた。日常生活は厳しさを増し、多くの人々が生きるために必死になっていた。


 かつては将来を嘱望されたエンジニアだった松本透生は、技術職の賃金削減により職を失い、その後の転職活動もうまくいかなかった。彼はフリーランスとしてなんとか生活を続けていたが、72歳になると契約は打ち切られ、再び失業の淵に立たされた。


「こんな生活が続くなんて、どうしても希望が見えない……」


 自暴自棄になり夜の街をさまよっていたところ、突如、認知症の高齢者が運転する車に轢かれてしまい、その場で命を落とした。


「こんな終わり方か……人生って本当にわからないものだな……」


 透生の意識が遠のき、次に目を覚ましたのは、薄暗い光に包まれた異世界だった。そこに立っていたのは、美しい和装をまとい、冷たい眼差しを持つ神秘的な女性だった。


「ほう、私の姿に動じないとは珍しいな」


「これまでにいろいろな経験をしてきましたからね。自分の死に様も含めて」


「なるほど、現在の国は深刻な危機に瀕しているようだ」


「確かに、私たちの国は崩壊の寸前です」


「このままでは終われない。だから、お前の記憶を持ったまま過去に戻し、世界一の頭脳と身体能力を授けよう。この国を救うのだ」


「どうやってそんなことが可能なんですか……?」


「この世には、信じられないことが時に起こるのだ」


「具体的にはどうすればいいのですか?」


「思うがままにやればよい。我こそが過去と未来を繋ぐ鍵だ。さあ、時を超えて運命を変えに行け」


 彼女の言葉が終わると同時に、強烈な光が私を包み込み、次の瞬間、意識が遠のいていった。


 気がつくと、目の前には見覚えのある光景が広がっていた。


 部屋の中を見回すと、懐かしい風景が広がっていた。デスクの上には、当時最新だったパソコンが鎮座している。CRTモニターの横には、プログラミングの書籍やノートが山積みされ、手書きのメモやコードの走り書きが散らばっている。


 壁には技術やゲームに関連するポスターが何枚も貼られていた。特に目を引くのは、当時の人気ゲームや映画のポスターで、色褪せることなく鮮やかに目に飛び込んでくる。ホワイトボードには、プロジェクトのアイデアや計画がびっしりと書き込まれており、過去の自分がどれだけ熱心に取り組んでいたかが窺えた。


 本棚には技術書やゲームの攻略本がずらりと並び、その中に混ざってコンピュータやロボットのフィギュアが飾られている。床には作業に使うコードやケーブルが整然と並べられ、収納ボックスにはプロジェクト用のパーツや道具が収められていた。


 部屋の隅にはシンプルなベッドが置かれ、そのベッドカバーには技術やゲームに関連するデザインが施されている。窓際には落ち着いた色合いのカーテンが掛けられ、部屋全体に自然光が差し込み、明るい雰囲気を作り出していた。


 さらに、部屋の一角には小型のテレビが置かれており、ゲームコンソールが接続されている。テレビの近くにはコントローラーやゲームソフトが並び、いつでもプレイできるように準備されていた。


 そして、クローゼットの前にはサッカーシューズやユニフォームが無造作に置かれていた。壁にはチームのポスターやサッカーの戦術ボードが掛けられており、練習用のボールも転がっていた。スポーツバッグも床に置かれており、練習用具が詰め込まれていた。


「どうしてここに……昔の部屋に戻っているのか?」


 突然、階下から母の声が響き渡った。


「早く起きてこないと、朝ごはんが冷めるわよ!」


「うん、今起きるから!」


 透生はデスクの上に置かれたカレンダーを見て、今が1998年であることを確認した。


「どうやら、本当に俺はまた中学3年生に戻ったということか……?」


 以前の人生の記憶が鮮明に蘇っている。


 今の時点までの出来事もすべて頭に入っている。


 現在、人気のテレビ番組「サッカーの星」が放送されていて、その影響で将来サッカーを続けることにしたのを思い出した。


「サッカーの道を進むのもいいが、それだけではだめだな。学業にも力を入れて、もっと多角的に将来を考えないと。それに、民間銀行に就職するだけじゃなくて、自分の会社を立ち上げることも視野に入れるべきか」


この世界の日本の未来を変えるためには、まず自分の力を最大限に活用しなければならない。1998年から始めるべきことは何だろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

リバース・エッジ @U3SGR

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ