第4話 母の行方

「おはよう、お母さん」

そこらへんに寝てるはずのお母さんに声をかけた。

「お母さん?まだ寝てるの?お母さーん」

返事はない。

昨晩お母さんが向かった方向に行ってみる。

草が折れている。ここで寝ていたのだろう。

だが、お母さんの姿はなかった。

「もう出かけちゃったのかな?」

私は住処を離れて歩いてみる。

「やあ、ルナ。お散歩かい?」

「あらサン、昨日はどうも。お母さんを探しているの」

「へぇ、お母さんか。やっぱり君に似て、真っ白でふわふわしているのかい?」

「そうね、お母さんも私と同じ。白くて毛が多いわ」

「じゃあ一緒に探そうか」

「悪いわよ」

「いいんだよ。それが君といられる口実になるしね」

「またそんな…」

「 別にふざけてないよ。ほんとのこと」

「…じゃあ、一緒に行きましょ」

「うん!出発だ!」

しばらく探していたが、依然としてお母さんは見当たらない。

「うーん…どこに行ったんだろ…」

「ねぇルナ……もしかして昨日何かあった…?」

「いや、そんな… …いや、もしかして…」

「なにか心当たりがあるの?」

「昨日ね…夢の話をきいたの。星を見る夢。母さん、あの星の煌めく丘のことを憶えているかって」

「星の煌めく丘…」

「私が夢に見るって言ったら、教えてくれなかったわ。思い出さない方がいいみたいに」

「それは…なにかあったのかな。でもお母さんがいないことと何か関係あるのかな?」

「わからない。でもお母さんは、なんだか悲しそうだった。私が生まれてすぐのことなのかしら。もしかすると、お父さんが関係しているのかも」

「君のお父さんは、近くにいるのかい?」

「……お父さんは、いないわ。私は1度もみたことがない」

「…そっか。じゃあ、星の話を思い出して、お父さんのことも思い出して、それでお父さんに会いに行ったってのは考えられないかい?」

「お父さんに会いに行くって……それがどういうことなのか、サン、あなたわかっているの?」

「もしかして、ルナ、君のお父さんは…」

「ええ。この近くにいない、どころか……きっともうどこにもいないわ」

風が吹いた。

私は少し嘘をついていた。

お父さんはこの世にいないみたいな言い方をしたけれど、私はただ知らないだけ。

でも信じたくはない。

私に1度も顔を見せたことないお父さんがまだこの世にいるんだなんて。

「…と、ごめんなさいね。急に変な話して」

「ううん、こっちこそ、変なこと言ってごめんね」

「それにしても本当にいないわね…」

「ここら辺はもう探し尽くしたね…」

「探し物かい?」

急に誰かに声をかけられた。

振り返った先にはお母さんではない別の誰かがいた。

翠色の瞳と薄く紫がかった毛色。

頭には先のとがった何かを乗せていた。

「あなたは…」

「やぁやぁ、ボクはアミィ。アミィ・ユノンさ。ん?この帽子?珍しいでしょ。太洋の時代の文化だからねぇ。あ!もしかして、ファミリーネームも珍しい?!だよねだよね~。ボクもこんな古臭い名前引き継がなくていいんじゃないかって思ったんだけどさぁ。うちの家系はなんだか特殊らしくてね~」

突然まくし立てるように話し始めたが、この子の言ってることはほとんどわからなかった。

「おっと、混乱してる?そうだよね~。突然こんな美少女が割り込んできたら言葉も出なくなっちゃうよね~。……なんちゃってだよ?!あれ?もしも~し。なんで無視するの~?!寂しいよ~!」

「…ご、ごめんなさいえっと……あなたは…何者?」

「ふっふっふ~!このボク、アミィちゃんは~……なんと!探し物のプロフェッショナルなので~す!見たところ困っているみたいなのでちょっと声をかけさせてもらったのさ!」

「ちょっと変わってるけど今の状況にはちょうどいいんじゃない?ルナ!」

サンの言うことももっともであるが…。

この子は少し言ってることがわからない。

「ボクのこと、信用出来ない?まあそうだよね。唐突に出てきたやつにあろうことかここにいやしない。お母さんのことを探したげるなんてそんなことを言われてもね。でも安心して!ボクはすごいんだから!キミのお母さんのこともきっと探してみせるよ!」

「えっと…それじゃあ、お願い」

「任せて!」

「あ、そういえば、私はルナよ」

「僕はサン」

「うんうん、覚えたよ~。じゃ、始めるね」

アミィは地面に何かかき始めた。

「……むにゃむにゃ…」

何かを唱えながらかいた模様の上に色々と置いたり撒いたりしている。

「はぁっ!……ふむふむふむ…むむっ!これは…っ!」

「ごくり…」

「……上、だね」

「……上?」

「そう、上」

「…北のこと…かな?」

「ううん、上、だよ。文字通りの上さ。つまり君のお母さんは……高い丘の上にでもいるのかもしれないね。そうでないとしたのなら…あまり考えたくはないものだね…」

「ちょっとアミィ、それって…」

「ボクたちはね、やがて空へいくんだよ」

「急に何よ」

「いいかい?ルナ。星の煌めきは、命の瞬きなんだ」

「どういうこと?」

「ボクたちがこの身体を失った時、ボクたちは還るんだ」

「……あの空に?」

「そう。そしてあの星になるんだ」

「ねぇアミィ。私、知ってるわ。直接聞いたのよ。あの星から」

それを聞いた時アミィは一瞬驚いたような顔をした。

でも次の瞬間には笑っていた。

「はははっ、ルナったら。いくらボクがなんでも知ってるからって張り合おうだなんて思わなくってもいいんだよ?」

「別にそんなこと思わないわよ。ただね、この間夢を見たの。私が空に浮かんでいって、あの星のひとつとお話するの。私はいつかあの空に行くんだって」

「…ふぅん…もしかして…ルナ、キミは星の巫女なのかもしれないね」

「星の…巫女…?」

「やっぱりボクの勘はすごいね!お母さんを探してるって言ってたけどそんなキミたちに話しかけたからこそ星の巫女は見つかったんだから!むっふっふ~!これはお手柄だぞ~!」

「…ちょっと、わかるように説明してくれないかな?」

サンが少し興奮したようにまくしたてる。

「いいよ~。じゃあ、説明したげる」

アミィは星の巫女について語り出した。

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