第3話 星を見た夜

「もう冷えてきた。帰ろうか、ルナ」

「そうね。それじゃあまた会いましょうね、サン」

去っていくサンの身体はやがて闇と溶け合い見えなくなった。

「サン。あの子はなんだか、あの空みたいだわ」

私はまた空を仰いだ。

数えきれないくらいの星が私を見下ろしている。

「私が星で、あの子が空……なんて、あの子のロマンチックがうつったかしら」

なんだかあの星が、今の独り言を聞いて笑っているのではないかと思ってしまい、少し恥ずかしくなった。

私も住処に帰ることにした。

夜風が身体を冷やす。

身を震わせながらとたとたと足を早めた。


「あ、お母さん」

住処につく少し前のところでお母さんに出会った。

「あら、ルナ。あなたも星を見ていたのかしら…?」

「 てことは、お母さんも?」

「そうよ……あの日を思い出すわ。ねぇルナ、あなた、覚えてるかしら。あの星の煌めく丘のことを…」

「…え!ききたい!私、ずっと知りたかったの!広い広い星空のこと!毎晩夢に見るの!ねぇ、教えて!」

「あら…そう……。じゃあ……教えてあげない」

「えー?!ど、どういうこと…?」

「いえね……。あなたがそんなに楽しそうに話すものだから……思い出は……幸せな形で残っているのが1番だわ…」

「それって…」

「なんでもないわ…。今の話は忘れて。あなたは綺麗な星空を見たことがある……それだけのことよ…」

「…お母さん…そんなこと言われたら…」

「ごめんなさいね…でも私には……もう寝なさい…きっと教えてあげるわ。ただ、今はまだ、やめておきましょう。あなたの目はまるで、あの星のように輝いているから…」

「……わかった…。おやすみなさい、お母さん…」

私たちは無言で寝床に向かった。


朝がやってきた。

鳥のさえずる声が聞こえてきて目を覚ました。

寝ぼけ眼を擦る私は、ゆるやかに過ぎていた時間がこの日から急速に動くことになることをまだ知らなかった。

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