第45話 最終話

 その日の夜は、魔王様の胸に耳を寄せて規則的な鼓動を聞きながら、少しウトウトしては目が覚めてを繰り返しながら過ごした。


「パール」

 いつの間にかぐっすり眠ってしまったわたしの耳元で、掠れた低い声が響いた。


「パール」

 もう一度呼ばれて、それが魔王様の声だとようやく気付いて跳ね起きると、上半身を起こした、まだ少し顔が白い魔王様が笑っていた。


「魔王様…魔王様!」

 涙があふれてそれしか言えずに抱き着いたわたしに回された腕は、いつものように温かかった。


「ただいま、パール。今後、ふたりきりの時は『魔王様』ではなく名前で呼んでくれ。ルシファーと」


「……はい、ルシファー様」

 魔王様の耳元でささやくと、ぎゅーっと強く抱きしめられたのだった。



◇◇◇◇◇


 花嫁衣装は、魔王様に合わせて黒いドレスにするのがしきたりらしい。

 しかし魔王様は「パールのドレスは純白で」と、そこだけは譲らなかった。


 デザインに関しては、事前の打ち合わせでどれを見せても「可愛い」「きっとパールによく似合う」としか言ってくれず、全く話にならないためにサッキーとミーナに協力してもらった。


 魔王様のツノは、どうにかみっともなくない程度に生えそろったけれど、その裏ではせっせとカルシウムを摂取したり、成長促進魔法をかけつづける魔王様の涙ぐましい努力があったらしい。


 式当日の朝には、フローラから綺麗なお花が大量に届いた。

『祝福と感謝とお詫びをこめて』

 そう書かれたカードが添えられていたらしい。


 お詫びってどういうことだろう?と首をかしげたわたしだけれど、周りのみなさんは納得のいく文言だったらしく、うんうんと頷いていた。


  

 予定時刻になっても、控室からわたしたち新郎新婦がなかなか出てこなかったのは、魔王様が「パールのこの可愛い姿を誰にも見せたくない!」と駄々をこねたためで、メフィスト様が青筋を立てて「あなたのことを一瞬でも見直したと思った私が愚かでした」と怒っている様子を、わたしとサッキーとミーナはくすくす笑いながら眺めていたのだった。



「魔王様、出てきたときは不機嫌だったけど最後はデレまくってたな~」

「パールちゃん、可愛かったもんな」

「あれ?おまえフローラちゃん推しじゃなかったか?」

「あれは一時の気の迷いだ。坊ちゃんとお似合いなのはパールちゃんだけだって」

「シッ!『坊ちゃん』言うな。聞こえたらツノ折られるぞ」



 みなさま、ありがとうございました。

 パールは、魔王様の花嫁になりました!



 おしまい!

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魔王様の花嫁候補になりました 時岡継美 @tokitsugu

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