第43話 魔王の心臓①

 魔王の仕事に関する『引継書』には、火山活動を鎮めるのはツノ、海溝の地殻変動と水質汚染には心臓を用いるのが最適であると明記してある。


 ツノは生え変わりのタイミングで折ればたいして痛くないからいいとして、スペアの心臓は体内にあり、取り出すときにそれなりの…いや、相当な苦痛を伴うらしく、引継書には『決してひとりで行わないでください』という小さな注意書きがあった。


 どういう意味だ。ひとりでやると痛みのあまり途中で気を失うとかか?

 怖すぎないか、それ!?


 なぜそこまでして、スペアの心臓を取り出さねばならないのか――真の目的は、心臓を隠しておくためらしい。(ここ、部外秘)


 パールに立ち会わせていいものなんだろうか。

 怖がらせてしまうかな。

 俺も怖いよ。


 メフィストも意地の悪い奴だ。

 先代の側近もしていたのだから、このあたりのことを熟知しているはずなのに「早く引継書を読み終えてください」としか言わなかったのだから。


 せめて、何ページ目あたりが重要だぐらいのヒントをくれていれば、パールがここまで思い悩む必要もなかったのに。

 しかし、パールを悩ませていた問題がこのことでよかった。

 もしも「わたし実はメフィスト様が好きなんです!」と言われたらどうしようとか、ちょっぴり思っていたのは誰にも秘密だ。



 魔王は勇者に滅ぼされるために存在している。

 それがこの世界の理だ。

 だから魔王は、勇者に倒される前にいかなる理由があっても死ぬわけにはいかない。


 それでも病気にかかったり不慮の事故に見舞われたり、誰かに命を狙われる可能性もあるわけで。

 そこで死んでしまわないようにスペア心臓を海溝に隠しておくのだという。


 え?スペア1つで足りるのかって?

 大丈夫、スペアを体内から取り出したあと、そこにまたスペア心臓が再生するらしいぞ?

 かなりの年月がかかるみたいだけどな。



 魔王は、勇者との最終決戦で2度の形態変化をする。

 ラスボスを倒したと思ったら「グハハハ」とか言って復活するアレだ。

 最終形態になった魔王は、それはそれは見るのもおぞましい諸悪の塊になるらしい。

 

 元の姿に戻れるのか?

 父上は戻ったらしいが、正直ちょっと心配だ。



 とにかく「魔王」という存在は、かなり特殊な体をしていて、体を張って魔界を維持し続けているわけだ。

 勇者が魔王城にたどり着き、聖剣を胸に突き立てられるその日まで。

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