第41話 深海の秘密④
魔王城へ戻ったわたしは、ホッとしたのか一気に疲れが出てしまい、ヘトヘトになってしまった。
専用プールは水の入れ替え中ということで使用できず、従業員のみなさんが普段使っているプールのほうへ連れて行ってもらったのだけれど、魔王様はどういうわけかプールにいたみなさんを閉め出して、わたしがプールに入っている間、一切の立ち入りを禁止してしまったのだった。
「パール様、お気になさらず。どうぞごゆっくり。私は先に執務室に戻りますので」
立ち去ったメフィスト様が笑いをこらえているご様子だったのも、理由がよくわからなかった。
冷たい水の心地よさに身を委ねながら鼻歌を歌うわたしを、魔王様はイスに座ってずっと見守ってくれた。
「魔王様、ツノのない魔王様のお姿は、なんだか新鮮です」
今朝、ベリアル様に左側のツノを折られた魔王様は「折れたついでに行かないといけない所がある」と言って、お出かけしたのよね?
そのあと、離宮で再会した魔王様は右側のツノまで失くしていた。
バランスが悪いから自ら折ったと言っていたけれど、痛くなかったんだろうか…。
魔王様はにぃーっと笑うとプールの縁までやってきて、わたしに頭を寄せてきた。
そして、髪をかきわけて「ほら、ここを見てみろ」と指さすあたりをよく見ると、そこには小さなツノの先端が顔をのぞかせていた。
「ちょうど生え変わりの時期だったんだ。知ってるか?魔王の血を引く者は、体のパーツが再生したり、複数持っていることが多いんだ。勇者が倒しに来る前に魔王が病気や事故で死ぬとマズイだろう?」
もしかしてそれって…先代の魔王様に教えてもらったことが頭をよぎる。
離宮を発つ前に質問したのだ。
海溝の地殻変動や水質汚染を止めるのは魔王様の心臓が一番効果的だと聞いているが、前回は体のどのパーツを使ったのか、と。
先代様は少しキョトンとしながら「もちろん心臓だが?」と言った。
その返答に今度はこちらがキョトンとして、「心臓を使って、なぜ死ななかったのですか?」と質問すると、先代様はようやくこちらの言いたいことを理解してくださったらしく、そういうことか、なるほどと言いながら豪快に笑った。
「安心するがよい、パール。おまえのその悩みを、そのまま素直に魔王に打ち明ければよいだけだ」
わかったような、結局何もわからなかったような返答だったけれど、強く背中を押してもらったのは確かだった。
だから魔王様がプールで、魔王様の体の秘密について語った時に、今が打ち明けるチャンスだと思って、口を開こうとしたところで、口づけが降ってきた。
わたしが魔王様のお顔をじっと見て何か言おうとするとすぐこうなってしまう。
「パールが可愛いのがいけない」
責めると必ずそう言われてしまうのだけれど。
そして、プールから上がった後、今は片時も離れたくないからわたしを膝の上に乗せたまま仕事をするとゴネ始めた魔王様は、「今日のあなたはポンコツすぎて使い物にならないので、もう下がってください」とメフィスト様に冷たく言われて、わたしを抱き上げたまま寝室へ押し込められてしまった。
「邪魔ですので、明朝まで出てこないでくださいね」
そう言い放った側近の表情は、強い口調とは裏腹になんだかとても優しかった。
お姉さま、魔王様が過保護です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます