第40話 深海の秘密③
メフィストから一通りの経緯を聞いた。
迷いの森の魔物たちがパールとベリアルに敵意むき出し?
そしてパールは今、両親が隠居する離宮にいるだと?
はあ?なんだそりゃ。
「だから、あいつに『パールのことを頼む』と言ったのに、何をやってたんだ!役に立たん弟だな」
苛立ち紛れに拳で机をドンと叩いた。
「おや、ご存知だったんですね。てっきりお気づきでないのかと思っておりました」
メフィストが意外そうな顔をした。
「当たり前だろう。いくら成長がゆっくりとはいえ15年ぶりに会う弟がいまだに赤ん坊のままだなんて、さすがにおかしいだろうが。さしずめ、俺の花嫁候補たちの品定めをするのに赤ん坊の姿のほうが都合がいいと思ったとかだろう?
あいつめ、さんざんパールの胸を揉み揉みしやがって、しかも役に立たなかったとか、ただの『揉み逃げ』じゃねーか!次会ったときは覚えてろよ、コノヤロウ」
ベリアルには感謝している。
弟のおかげで花嫁候補たちの本音が見えたのも確かだった。
サッキーは俺にも家族にも興味がない。
ミーナは資金集めが一番の目的で、俺とは友人以上の関係になれそうにない。
フローラは口では俺のことを好いていると言う割に、俺の仕事にも家族にも興味なし、おまけに腹黒い。
そしてパールはいつでも献身的で可愛い。
「パールを迎えに離宮に行ってくる。留守を頼む」
メフィストとともに執務室を出た。
「はい、いってらっしゃいませ」
くすくす笑うサッキーの声が聞こえた。
離宮の門番にパールを迎えに来たことを告げ、待つことしばし、パールがひとりで出てきた。
半日離れていただけなのに、久しぶりに会うような錯覚にとらわれながら自然と足が前に動いた。
「魔王様!」
パールが嬉しそうな笑顔を見せながらこっちに駆け寄ろうとしてつまずき、転びそうになるのをどうにか受け止めた。
「パール、派手にやらかしたらしいな」
やわらかい体を抱きしめて、ふわふわの金髪に顔を埋めながらささやいた。
パールは楽しい土産話がたくさんあるらしく、ここ数日の沈んだ声ではなく、とても元気な声で話し始めた。
「はい、魔王様。最後は、先代様に助けていただきました。ご夫婦ともにとってもお元気で、素敵で、仲がおよろしくて、わたし…」
ああ、もうダメだ。
可愛すぎる。
話はあとだ。
俺はパールの話を途中で遮って、唇を重ねた。
パールを迎えに行く前に、迷いの森の面々には釘を刺しておいた。
「誰を襲ったかわかっているのか」と。
「次はないと思え」とも。
もしもこれでわからないようなら、さすがの俺でも次は許さない。
「きっと、わたしたちがチョウを連れて森へ入ったのがいけなかったんです。フローラさんもチョウのことをとても怖がっていたのに、わたしったら気遣いが足りなくて…」
しょんぼりするパールをベッドの上で強く抱きしめた。
「気にするな。それだけが原因ではなさそうだから、パールのせいではない」
背中をトントンと優しく叩いてやると、パールは落ち着いたようだった。
メフィストははっきりとは言わなかったが、おそらくフローラが関係しているのだろうという俺の推測は、はずれてはいないと思う。
活発な火山活動のせいで棲み処の環境がおびやかされている現状にしびれを切らしてやって来たのなら、ただそう言ってくれたらよかったんだが…。
うん、「早く引継書ぐらい全部読めよ!」というお叱りは甘んじて受け入れよう。ごめんなさい。
パールもフローラと同じなのか?
可愛らしく「いってらっしゃいませ」と言ったあの笑顔も、「わたしは嫉妬深い」のだと言ってこぼしたあの涙も全て嘘だと?
大事な話がある――そう告げようとしたときに、パールのほうから言われた。
「魔王様、お話ししたいことがございます」
悪い内容……にしては、パールの表情が明るいということは、期待してもいいんだろうか。
「わかった。…ただし、どのような内容の話であっても、今夜はとっておきの子守唄を歌って共寝すると約束してくれないか」
ネイビーブルーの瞳がキラキラと輝いて、ふわふわの金髪を揺らしながらパールは笑った。
「仰せのままに。魔王様」
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