第39話 深海の秘密②
漆黒の魔王と重なるふわふわの金髪を、離宮の窓から三つの影が見守っていた。
「いつまで赤ん坊のままでいるつもり?それにしても、久しぶりに会う弟が赤ん坊のままで全く成長していないってことに、あの子は気づかなかったのかしら?」
「いいえ、母上。兄上はちゃんと気づいていましたよ。僕がパールちゃんのおっぱいを揉み揉みするたびに、物凄い形相で僕を睨んでましたからね」
「パールさんの可愛らしいお顔に小さな切り傷がついてしまって申し訳ないわ。あなたがついていながら、何てザマなの?役に立たないわねえ」
「大声で泣いて父上を呼んだでしょう?そのあと速く走れるようにパールちゃんの足に強化魔法をかけて、彼女が池に入ったら一帯を燃やしてやろうと思っていたら、あんな凄まじい歌声…いま思い返してもゾクゾクする。純粋で、優しくて、強い。ほんと、兄上にはもったいない女性です」
少年の姿に戻ったベリアルは、パールが飲ませてくれた甘酸っぱいオレンジの味を思い出しながら、ふふっと笑ったのだった。
◇◇◇◇
時間は遡って、魔王城―――
「魔王様、ツノが……」
朝からずっと出かけていた俺が、プールでのメフィストとのやり取りの後に執務室に入ると、サッキーが驚いた顔で俺を見ていた。
「ああ、これか?今朝、左のツノが折れてな、バランスが悪いから、右側は自分で折ったんだ」
執務机にドカっと座りながら答えた。
というわけで、いま俺の頭にはツノが無くてつるんとしている。
つるん、と言ってもハゲているわけではない。
でもツノが無いと、なんとなく落ち着かないのも事実だ。
「折ったツノは活火山の火口に投げ入れてきた。これでフローラの故郷も当分火山活動の被害を受けずに済むだろうな」
「それは今朝折れたツノで鎮めればよかったのでは?」
メフィストが口を挟んでくる。
いちいちうるさいヤツだ。
「あれはフローラに渡す約束をしていたから、そうした。フローラがそのツノで火山を鎮めようと思っていたんだとしても、それはそれ、別の話だ。手元にツノのスペアがあれば、またいずれ噴火したときに使えるからフローラも安心しただろ、きっと」
ようやく全て読み終えた引継書に書いてあったのだ。
魔界の自然災害は魔王の体の一部を使えば収まると。
魔王の羽がなぜ人気なのかもようやく理解した。
みんな、自分の故郷の環境を守ることに必死なのだと。
「まったく、妙なところで真面目というか頑固というか…」
メフィストのため息が聞こえたが無視した。
「あとはパールに案内してもらって深海に赴いて…ん?そういえばパールとベリアルはどうした。まだ帰って来てないのか?」
今朝、チョウを逃がしに城の外へ行くと言っていて、さっきプールにもいなくて…?
「はい。パール様とベリアル様は、迷いの森でマンドレイクとトレントに襲われまして…」
「はあっ?なんだそれ!?早く言えよ」
俺は思わず立ち上がって、メフィストを睨みつけた。
ということは…さっき帰り道に迷いの森の魔物たちが寝ていたのって…?
「なあ、俺がさっき親切に起こしてやったあのマンドレイクとトレントたちが、パールを襲ったってことか?」
「ええ。ですからさきほど『あなたの頭は飾りですか』と申し上げたんです」
メフィストは、ボルドーの瞳を冷たく光らせて俺を睨み返したのだった――。
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