第30話 陰謀②
両親が旅行に出かけるとかで、半ば強引に弟を押し付けられた。
こっちは忙しいというのにまったく……ラブラブで羨ましいじゃねーか!
ベリアルはパールをとても気に入った様子で、結局夜の寝かしつけもパールにお願いしてしまった。
礼として簡単に着脱できるワンピースでも作らせてパールに贈るとしようか。
ベリアルの滞在中は、夜間の花嫁候補たちの相手も中止だ。
というか、俺の一存としては花嫁はもうパール以外は考えられない。
だからサッキーにはそのことを伝えて、今後は秘書として仕事を手伝ってもらうことにした。
今夜は、フローラにもそのことを伝えようと思って月光浴がてらフローラと上空にいるわけだが……。
フローラはずっと小刻みに震えていた。
「頭の花がグシャグシャだな。ベリアルの仕業だろう? すまなかった」
謝罪すると、フローラは大きな茶色い目を潤ませた。
「いいえ、ベリアル様は悪くありません。ベリアル様はまだ赤子ですもの。けしかけたのはパールさんですから」
どういうことだろう。
黙ったまま頷いて先を促す。
「しかもパールさんったら、わたくしが『その花びらは毒があるかも』と言ったのに、ベリアル様に食べさせようとしたんですよ。怖い方です。わたくし、パール様の前では必死に普通でいるように努めておりますが、とても怖いんです……」
そう言ってフローラは俺の胸にしがみついてくる。
執事からは、フローラが頭の花をベリアルにむしられたことで怯えて、ずっと部屋にひきこもっていたとだけ聞いている。
俺は無言のままフローラの背中をトントンしてやった。
この状態では、故郷へ帰れとは言えそうにない。
結局、月が白むまでフローラに付き合わされることになり、自分の寝室に戻れたのは明け方だった。
俺のベッドでパールとベリアルがすやすやと眠っている。
パールのふわふわの髪をそっとなでて、後ろから抱きしめる形でベッドに入って眠りについた。
髪を強く引っ張られる感覚で覚醒した。
ベリアルが「だぁだぁ」言いながら引っ張っている。
知りません、痛くありません、ボク寝てます。
パールの髪に顔をうずめて目を瞑り直したときだった。
ゴリッ! という嫌な音と鈍い痛みが頭に走る。
「テメー! 何しやがるっ!」
俺は飛び起きてベリアルの頭を掴んだ。
痛い、左側のツノ、折れたんじゃないだろうか……。
もう片方の手で確認してみると、ツノがぐらぐらしている。
コノヤロウ、弟だからって許さねーからな。
ベリアルがギャーギャー泣き出して、パールが身じろぎし始めた。
まずい、また叱られる。
咄嗟に手を離してベリアルがポテっとベッドに落ちたのと同時にパールが目を開けた。
「おはようございます。朝からにぎやかですね」
上半身を起こし、んーっ!と伸びをするパールがかわいくて、ぎゅっと抱きしめる。
「おはよう、パール」
唇を重ね合う寸前、またもや髪を引っ張られて頭が後ろに傾いてしまった。
おのれベリアルめ、後で覚えてろよ。
「ベリアル様もおはようございます。オムツ替えて、ミルク飲みましょうね」
パールは俺から離れてベッドをおりると、ベリアルのことを抱き上げた。
甲斐甲斐しく弟の世話を焼くパールを眺めながら、いつかパールと子を成すことができたら、こんな感じだろうかと、ふわふわした気分で思いつつ、寝不足で気だるい体を再びベッドに横たえた。
フローラがどういうつもりなのかイマイチ掴み切れなくて引っかかるものがあるけれど、俺とパールが互いに想い合っていれば大丈夫。
このときは、そう思っていた――。
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