第28話 隠し子騒動⑦
サッキーへのプロポーズを盗み聞きしてしまったわたしは、ベリアル様の泣き声を聞きつけて執務室のドアを開けた魔王様と目を合わせることもできなかった。
その場でベリアル様をお返ししようとしたけれど、しがみついて泣き続けるベリアル様を無理やり手放すのも気が引ける。
きっと眠たくてぐずっているのだろう。
だから、寝かしつけまですることにした。
ベッドにおろして「とっておきの子守唄」を歌えばイチコロのはずだ。
案の定、コテンと寝てしまったかわいいベリアル様にスライム柄のブランケットをかけて、ベッドを離れる。
歌うことでわたし自身の気持ちも少し落ちついてきたところだったのに、魔王様に抱き寄せられて再び心に高波が立った。
互いにプールでの出来事を謝罪して、「ただいま」「おかえりなさいませ」と言ったときについに涙腺が崩壊した。
魔王様が涙を流し続けるわたしの頬に寄せた唇を、さらにわたしの唇に重ねようとしているのに気づいて、両手で強く魔王様の胸を押して体を離す。
「魔王様、わたしはとても嫉妬深いんです。だからわたしは、側妻には向きません」
たとえ平等に扱うと言われても嫌だ。
ほかの女性を愛した手や唇でわたしに触れてほしくない。
そんなことをされたら、わたしは嫉妬心に焦がされて魔王様の胸に短剣を突き立てるかもしれない。
本来の目的はそれだったはずなのに、わたしは何をやっているんだろうか。
唇を震わせて泣き続けるわたしを、魔王様は再び抱きしめた。
抗おうにも力が強すぎて、どうにもできない。
「パール、落ち着け。あまり興奮するな」
なだめるように静かに言われても、落ち着いてなどいられない。
「いろいろ誤解があるようだが、俺は妻を何人も娶るほど器用な男ではない。これまでずっと独身だし、パールを娶るとしたら、俺にとっては生涯ただひとりの妻だ。側妻って、一体どこからそんな発想になったんだ?」
びっくりして涙が引っ込んだ。
おそるおそる聞いてみる。
「ベリアル様は、魔王様のお子様ではないのですか?」
「………」
しばし固まった魔王様は、次の瞬間、あはははと大声で笑いだした。
「なんだ、そういうことか。心配するな、あれは俺の弟だ」
えぇぇぇー! まさかの弟!
だからお顔がそっくりだったのね!?
「これで誤解が解けたか?」
覗き込んでくる魔王様に、もうひとつの懸念を突きつけた。
「まだです。サッキーにプロポーズしていたでしょう? 『おまえのことが必要だ』って」
魔王様はうろたえることなく、ん? と首をかしげただけだった。
「それ、どこからどこまで聞いてたんだ?」
虫のいいことを、から、サッキーがOKするまでだとわたしが説明すると、魔王様はまた笑いだして、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「パール、いちいちかわいすぎるだろ。その前に俺がサッキーに何て言ったと思う? 『俺はパールの尻に敷かれたいから、おまえを嫁にできない。それでもここにとどまって仕事を手伝ってくれないか』と言ったんだ」
「え……」
呆気にとられるわたしに、魔王様は今度こそ唇を重ねてきた。
熱くて甘い唇に溶かされそうになった。
お姉さま、魔王様はパールの尻に敷かれたいそうです!
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