第24話 隠し子騒動③
「おお、いいところに。パール、ちょっと頼まれてくれるか」
わたしの姿に気づいた魔王様が、赤ちゃんを抱っこしたまま近寄ってくる。
その一方でわたしは、魔王様ソックリのお顔をした赤ちゃんから目を離すことができずに言葉もなく立ち尽くしていた。
「緊急出動要請が来てしまってな、コイツの面倒をみてやってくれないか。赤ん坊は苦手か?」
「……いえ、セイレーンは一族みんなで子育てをしますから、苦手ではありません。どちらかというと得意なほうです」
そう言うと、魔王様はパッと顔を輝かせた。
「そうか! それは助かる。なるべく急いで戻るから留守の間よろしく頼む。寝かしつけは俺の寝室を使ってくれていい」
魔王様から赤ちゃんと荷物を受け取った。
「えっと、あの……この子って……?」
「ああ、名前はベリアルだ」
いえ、名前を聞いたわけではありません!
名前も大事だけど、この子は魔王様のお子様なんですかと聞きたかったのに!
足早に行こうとする魔王様にもう一度声をかけた。
「魔王様」
立ち止まって振り返る魔王様に向かって咄嗟に出た言葉は
「お気をつけていってらっしゃいませ」
だった。
すると魔王様は、にぃーっと牙を見せてとても嬉しそうに笑った。
「ああ、行ってくる」
ベリアル様を連れて応接室に戻る。
「んにゃ~っ! パールちゃんには隠し子がいたのにゃ!?」
ミーナが驚いて毛を逆立てた。
「いいえ、違うわ。お顔をよく見れば誰の子かわかるでしょう?」
「「「まさか、魔王様の!?」」」
サッキー、ミーナ、フローラの声がぴったり重なった。
「はっきりとそう言われたわけではないんだけど、たった今そこで魔王様から預かったの。留守の間面倒みてくれって」
説明しながらベリアル様をソファーにおろす。
預かった荷物を確認すると、中にはオムツ、おしりふき、ミルク、哺乳瓶、赤ちゃん用おやつ、着替え、ガーゼ、パステルカラーでスライム柄のブランケットが入っていた。
「髪の毛の色以外は、魔王様にそっくりですわね」
フローラがのぞきこむと、ベリアル様はいきなり彼女の頭の花をむんずと掴んでぐしゃっと握りつぶした。
フローラは悲鳴を上げながらいつもの優雅でのんびりとした動きとは打って変わった凄まじい速さで飛びのき、花びらが半分ほど散ってしまった頭の花を押さえてガタガタと震えている。
ベリアル様がフローラからむしり取った花びらを口の中に入れて食べようとしている。
「この花って食べても平気なの?」
焦りながら聞いても、フローラはガタガタ震えたままだ。
「知りません……」
とだけ言って、ついには泣きだしてしまった。
おとなしい植物タイプの魔物には悪魔の赤ちゃんは刺激が強すぎたらしい。
なんにせよ、花は食べさせないほうがよさそうだ。
「ベリアル様、それは食べてはいけませんよ。ペッしましょうね、ペッ!」
そう言い聞かせようとしたところで、吐き出してくれるわけもなく。
ミーナは爪が鋭いから不向きだし、ここはひとつ、同じ悪魔タイプのサッキーに……!
と期待しながら振り返ると、サッキーはふいっと目をそらした。
「私、留守の間の事務作業をメフィスト様から言付かっているんだったわ! 悪いわね、あとはよろしく~」
サッキーは、わたしたちに投げキッスを残して行ってしまった。
仕方ない、わたしがやるしかないわ!
「ベリアル様、失礼します!」
わたしはベリアル様の口に指を突っ込むと、花びらをかき出した。
途中何度も指をかまれたり、口を開けてくれなくて仕方なくベリアル様の鼻をつまんで息苦しさで口を開けさせる作戦をとったり、すったもんだでどうにか花びらを全て回収したのだった。
お姉さま、赤ん坊の面倒はどの種族も共通して大変です!
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