第22話 隠し子騒動①


 ふわふわの金髪が鼻をくすぐり、目が覚めた。

 パールは無防備な様子ですやすや眠っている。


 まいったな、かわいすぎるだろ。

 まだ起きたくない。


 パールの髪に顔をうずめて二度寝しようと目を瞑ったところで寝室のドアが控えめにそっと開く気配がした。

「魔王様……?」

 伺うようなメフィストの声が聞こえる。


 知らない、聞こえない、ボクまだ寝てます。


 メフィストがくつくつと喉を鳴らす音だけが聞こえてドアが閉まった。

 俺はそのまま本当に二度寝して、次に目を覚ましたのは、パールが焦った様子で「魔王様、そろそろ起きてください」と言いながら俺の頬を触ったときだった。


◇◇◇◇◇◇


「魔王様、次に私が狸寝入りを許すのは初夜の翌朝だと、ご承知おきください」

「おまえには主の恋をそっと見守る鷹揚さがないのか?」

 俺は書類に目を通し、ペンを持つ手も動かしたまま言い返す。


「あるからこそ、今朝は見逃して差し上げたんです。随分とあの娘に入れ込んでらっしゃるご様子ですが、セイレーンの誘惑は魔王様をもメロメロにさせるほど魅力的ですか?」

「花嫁候補が俺を誘惑しても問題ないだろう? んふふっ、かわいいよなあパールって」


 よく寝たおかげか、今日は書類の処理スピードが速い気がする。


「サッキーを正式に秘書として登用するのはどうだろう。俺の花嫁になる気などまったくないようだから」


 夜中ではなく、昼間にここでメフィストと机を並べて事務処理をしてもらったら、もっと仕事がはかどるにちがいない。


「いいですね、セクシー秘書。私も大歓迎です」


 そうか、メフィスト。おまえは、ああいうのが好みか、やはり大人だな。

 俺の好みはもっとかわいらしい娘だ。


 そう思いながら書類から顔を上げてにやにや笑うと、メフィストが心底嫌そうな顔をした。

「魔王様、口元が緩みすぎていてみっともないですよ。自重なさいませ」

「仕方ないだろ、パールがかわいすぎるのが悪い」


 メフィストがため息をつく。

「魚人型の種族との婚姻ですと、お世継ぎはなかなか難しいと思われますが?」

「構わない。常に一緒にいたいと思える伴侶と添い遂げたいだけだ。自由に恋愛する暇もないのだから、それぐらいは許せ」

 世継ぎなど知るか。

「それに、子を成すことができなくてもいいだろう。だいたい、俺にはアイツがいるんだから」


 憮然として言い返すと、メフィストが突然何かを思い出したように胸ポケットから封筒を出して俺に差し出してくる。

「危ない危ない、忙しすぎて話題に出なければ忘れるところでした」


 俺は封筒から出した手紙に目を通して固まった。

「おい、なんでもっと早く言わなかったんだ」

「この件で今朝魔王様を起こしに行ったのに、あなたが狸寝入りなんてするからいけないんです」


 そこへ、ノックの音が響き、執事が入ってきた。

「魔王様にお客様です」


 おい! 来ちゃったじゃねーか!

  

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