第20話 夜伽の真実⑤
寝室で待っていても、一向にパールが来る気配がない。
プールへ行くと、まだ水に浸かったままだった。
俺の姿を認めて慌てて上がろうとするのを止めて、パールが泳ぐ様子をしばらく眺めた。
そんなにこのプールが気に入ったのなら、なによりだ。
眺めながら、パールにはそうと気取られないように防音の魔法を施しておいた。
水の中で活き活きと泳ぐパールの艶やかな白い肌と、小さな貝殻ビキニをつけただけの胸がぷるんと揺れる様子がなんとも扇情的でそそられてしまう。
ひとしきり泳いだ後プールから上がったパールは、すぐに服を着てしまった。
ああ、残念。
かわりに、白くて小さな翼に顔を寄せる。
その柔らかな感触と、くすぐったがるパールの様子が何ともかわいらしくて、唇を奪わずにはいられなかった。
熱を吸い取ったあの時とはちがう。
愛おしくて仕方のないこちらの気持ちはパールに伝わっているだろうか。
もっと深い口づけを……と、パールの頭に回した手に力をこめたのを見透かされたように、パールが体を離してしまった。
嫌だったかと聞くと、不慣れでよくわからないという。
ならばいっそ、こちらに全て委ねてくれればいいものを……いや、急ぎすぎては怖がらせてしまうだけか。
顔を真っ赤に染めて目を瞑るパールの様子が、またかわいい。
こちらを煽っているんじゃないなら何なんだ、これは。
雑念を振り払うように翼をバサッと広げると、その音でパールが目を開く。
「わぁっ、魔王様の翼は立派ですね」
「随分と羽の枚数が減ったけどな」
「それって、ここの工事でたくさん配ったからですか?どうしよう、魔王様の翼がハゲちゃったら……」
翼を揺らすと、羽がたくさん落ちた。
「違う、いま換羽期で抜けやすいだけだ。あれは自然と抜け落ちた羽を配っただけだから大丈夫。でもさすがにこれ以上スカスカになるとフローラを抱えて飛べなくなるかもしれないから、当分ミーナには自然に抜けた分しかやれないな」
するとパールが首をかしげた。
「え?」
「ん? 聞いてないのか?」
てっきり花嫁候補者同士で情報交換しているものだと思っていたが。
「皆には何がしたいか聞いて、その通りにしてやってるんだ。フローラは光合成に月の光が必要だって言うから、霧の上まで連れて行って月光浴びを。ミーナは俺の羽で金儲けがしたいって言うから、ただ与えるだけなのもつまらんと思ってゲーム形式にしたら盛り上がりすぎて明け方まで……」
そこまで話したところでパールが俺の両腕を掴んできた。
しまった、ほかの女の話をするのは野暮だったか……。
「サッキーは? サッキーとの夜伽は何をされているんですか?」
パールが真剣な顔で聞いてきた。
「ああ、サッキーは……。ちょっと恥ずかしいんだが、仕事を手伝ってもらっている」
正直に話すと、パールは妙な叫び声をあげる。
「えぇぇぇ! なんですかそれ」
そしてしばし呆然としているではないか。
「やっぱりヘンだよなあ、うん、俺にもその自覚はあるんだが、サッキーのたっての頼みだったから断れなかった。次はもっとたくさん書類をためておいてくれて構わないって言われて、試しに1回目の倍の量の仕事を昨日やらせてみたら、明け方までかかったけど見事終わらせてくれて、なかなか使えるんだよな」
サッキーは淫魔サキュバスだから、夜伽ではてっきり誘ってくるんじゃないかと思って、パジャマのボタンを多めに開けてベッドで書類を読みながら待っていた。
しかしサッキーは、俺のセクシーな胸元よりも仕事の書類のほうに興味があったらしい。
ホッとしたような、ガッカリしたような、複雑な気分だった。
「サキュバスだからって四六時中『あっはん、うっふん』言っているわけじゃないんですのよぉ! 仕事だってバリバリできるんだぞってところを見せてやりたいんですの!」
と鼻息荒く語るサッキーに、一体誰にその姿を見せたいんだ?とは思ったものの、ためしに他種族の書簡の翻訳をやらせてみたら、驚くほどの早さでそれを片付けたのだ。
過去にいろんな種族のオトコと付き合った経験が活きているらしい。
それもちょっと複雑ではあるが。
「あのっ! それじゃあ」
パールがさらにずいっとにじり寄ってきて、サッキーとの一連の回想から引き戻された。
「どうして、わたしにはキスしたんですか?」
おう、意外とそういうことだけはストレートに聞いて来るんだな。
「して欲しそうだったから」
そう言うや否や、またもやパールの顔は真っ赤に染まった。
本当は、その顔を見たいからだと白状するのはまた今度にしよう。
そう思いながら、かわいいパールと唇を重ねた。
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