第18話 夜伽の真実③
「魔王様、非常に申し上げにくいのですが……」
メフィストの歯切れが悪いときは、最悪の知らせであることを知っている。
「なんだ、言ってみろ」
「パール様のあのプールのお部屋の件で。防音工事が必要かもしれません。見積もりがこちらです」
1枚の紙を受け取って目を通し、その金額に愕然とする。
防音工事、高すぎないか!?
今日、あの部屋から漏れ聞こえるパールの歌声で、セイレーンの誘惑に耐性のない下級の魔物たちがバタバタと倒れたらしい。
まあ倒れたと言っても、しばらく眠っていただけなのだが。
あの心地のいい歌声は、俺だってうっかり眠りに誘われそうになったぐらいだ。
いろんな意味であれはヤバイ。
身を削るしかないか……?
「髪とか爪も売れるのかな。いや、羽より安いよな、きっと。とりあえず音を遮断する魔法で凌いで、金が貯まったら工事するか」
あれこれ考えながらボソボソつぶやくと、メフィストが眉をひそめた。
「パール様はまだ花嫁に決定したわけではありません。魔王様がそこまでされる必要もないとは思いますが、いかんせん財政難で……」
そのメフィストの言葉を遮った。
「いいんだ。俺がそうしてやりたいだけだ」
やっぱりツノ売るしかないよな~と思いながらメフィストを見ると、驚いたような顔をしてこちらを見ている。
「どうした。そんなに妙なことを言ったか?」
するとメフィストは、そういう趣味がない俺ですらドキっとするような艶っぽい微笑みを見せた。
「いえ、親子だなあと思っただけです」
「親子? 父上のことか?」
「はい。先代様も全く同じことをおっしゃったことがあるんですよ」
ハイエルフである母を魔王城に迎え入れた時のこと。
ここの淀んだ空気が合わない母のために、父は手の込んだ、そして常に己の魔力を消費し続けなければならないような魔法を施して母の周囲だけは常に森林の中にいるような空気に保っていたらしい。
そこまでしなくても……という側近たちに対して、父は穏やかに笑って言ったという。
「余がそうしてやりたいだけだ」と。
初耳だ。
だから母上のそばにいるとあんなに爽やかな気分だったわけか!
「そうか」
仲睦まじい様子だった両親の姿を思い浮かべて自然と笑みがこぼれる。
「防音工事は金の目途がつくまで保留だ。ほかの仕事を片付けるぞ」
仕事を早く片付けて今宵はかわいいパールとのんびり過ごしたい。
メフィストがくつくつと笑うのが聞こえたが、俺はそれを無視して机に山積みになっている書類の処理にとりかかった。
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