第13話 夜伽とプール工事②
サッキーに続いて、今夜はミーナが魔王様の夜伽に呼ばれた。
「いってきますにゃっ!」
うれしそうに夜伽に赴くミーナを複雑な胸中で見送る。
翌朝戻ってきたミーナの手には魔王様の羽が数本握られていた。
「それ、どうしたの? 魔王様にもらったの?」
思わずソファから身を乗り出してミーナに聞いてしまった。
「そうですにゃー。魔王様ったらサッキーちゃんの言う通りほんとにタフで、明け方まできゃっきゃウフフで楽しかったですにゃっ」
ミーナは大きな目をくるくる動かしながらとても満足げだ。
『明け方まできゃっきゃウフフ』って……わたしも魔王様とそんなことするんだろうか。
サッキーとミーナは、すでにそういう経験があったってこと?
ああ、気になるけど、恥ずかしくて聞けない!
わたしは今日も、早めに花嫁候補たちの話の輪から離れて工事現場に向かった。
浴場リフォーム工事はびっくりするほど進んでいて、部屋の壁はすっかり耐水仕様になっていたし、換気設備もばっちりだった。
肝心のバスタブ部分は、床をはがして掘り下げ、穴を広げているところだった。
穴の周りを固めて、バスタブというよりはプールのようにするのね?
魔王様の羽がもらえるという噂が広まったのか、昨日よりもさらに工事スタッフが多い。
「ああ、ハーピーさんの妹さん、ちょうどいいところに」
現場監督のメフィスト様に呼ばれた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
正体がバレていないことにホッとしながら挨拶をする。
メフィスト様はわたしのことを、すっかりハーピーちゃんの妹だと信じているみたいね。
うふふ、変装大成功だわ。
「この穴の中に立ってみていただけませんか」
「……? はい」
指示通り、わたしは堀り進めているバスタブになる予定の穴の中に立ってみた。
………これ、お風呂にしてはかなり深くない!?
わたしの首まですっぽりの深さだけど?
それなのにメフィスト様は、ちょうどいいですねとにっこり笑った。
「ついでに、そこに横になって両手両足を伸ばしていただけませんか」
再び指示通り、バスタブの底にあたる部分に大の字に寝そべってみる。
すると今度はメフィスト様が首を傾げた。
「う~ん、もう少し大きくしたほうがよさそうですねえ」
そしてツルハシを持ったスタッフたちを振り返る。
「もう一回り大きくしましょう」
もしかして……魔王様はこのお風呂で泳ぐ気なのかしら。
お風呂で泳いじゃうタイプ!?
海に住むわたしにはよくわからないけど、広いお風呂に浸かると泳ぎたくなるニンゲンや魔族がいると聞いたことがある。
ここで泳ぐ魔王様……ちっとも想像できないけれど、のぞき見したい気はする。
「ハーピーさんの妹さん、ありがとうございました。大変参考になりました。本日はこれで上がっていいですよ」
「えぇっ! あの、わたしまだ何もしてな……ひゃっ!」
メフィスト様は、穴からなかなか出られずにモタモタしているわたしを軽々と抱え上げて部屋のドアまで運んでくれた。
「採寸のお手伝いをしていただけただけで、こちらは大助かりです。はい、本日の日当と魔王様の羽です。お疲れさまでした」
わたしをおろすと、こっちが何か言う前にメフィスト様は有無を言わさぬ笑顔でそう言って封筒を手渡してきた。
「はあ……お疲れさまです。お先に失礼します」
素直に封筒を受け取ってそう言うしかなかったけれど、これでお金も羽ももらえるだなんてラッキーだ。
そう思うことにしよう。
お姉さま、魔王城のバイトはチョロいです。
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