第8話 水棲魔族用プール②
「なあ、
「はい、なんでしょう?」
メフィストは書類に目を落としたまま返事をした。
「何すればいいんだ?」
「…………」
無言でゆっくり顔を上げたメフィストは、俺の顔をじーっと見つめたまま何も言わない。
「今夜から、そのー……俺の寝室に呼ばないといけないのだろう?」
「ええ、そうですね」
「それで?」
「……それでって、魔王様。もしかしてあなた……どう」
「待て! 断じて違うからなっ!」
メフィストが言いかけた言葉を慌てて遮った。
「そういうわけじゃない。ただ、まだ候補の段階でそういうことをしないといけないのかってことだ。相手は初めてかもしれないのに……挙句に嫁にできなかったら申し訳ない」
「魔王のくせに変なところで情に厚いのですね」
くくっとメフィストが笑う。
「花嫁を決めるための一環なんですから、何でもいいではありませんか。ただ話をして共寝をするだけでもお相手のことをよく知るいい機会になるのでは?」
なるほどなと頷きかけたところで、メフィストがとんでもないことを言いはじめた。
「個人的には体の相性も大事だとは思いますけど。もしもお相手がその気で迫ってきたら応えて差し上げたらいいでしょうし。呼ぶのはひとりずつという決まりはありませんから、全員まとめてとかでもいいかもしれませんね。何なら私もお手伝いしますが」
「どういう意味だ、ケダモノめっ」
「ええ。だって私、悪魔ですから」
舌なめずりをやめろっ!
ここでノックの音が響き、執事が入って来た。
妙な空気になったところへ執事がやって来て助かった。
花嫁候補たちの朝の様子の報告だったが、パールがまた熱を出しているのだという。
桶に水を汲んできてほしいと言ったらしい。
「魔王城の空気が合わないのかもな」
それとも体が弱いのだろうか。
「パール様は普段のお住まいが海ですからねえ」
メフィストの言葉にふとひっかかるものを感じる。
魔王城にはほかにも海や湖を棲み処にしている魔族がたくさん働いているはずだ。
「でも、ここにはほかにも水棲魔族がいるだろう? 半魚人とかケルピーとか。あいつら普段どうしてるんだ? 単純にセイレーンよりタフなだけか?」
いままであまりそういうことを気に掛けたことがなかった。
「水棲魔族の水浴び用の施設があるのをご存知ないんですか?」
メフィストは、なにをいまさらとでも言いたげな顔だ。
「……知らん。案内しろ、見てみたい」
俺は立ち上がった。
その施設をパールに利用させたら、熱も出なくなる気がする。
「そういうことでしたら、こちらを片付けてからにしましょうか」
メフィストが俺の机の上に書類をどっさり置いた。
「そのほうが落ち着いて視察できるでしょう?」
紫色の薄い唇をにんまりさせながら言う側近の顔を見つめながら「この悪魔め~っ!」と心の中で叫んだ。
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