第6話 勇者死亡
「…ん?…う、うわあああ!頭!頭が!!!」
スフレゾンビの蹴りでとれた頭が近くで寝ていた4人の護衛の1人を起こしてしまう。すぐに3人が飛び起き、お互いが持っていた武器を構える。
「ああ?こいつ死んだの確認してるぞ?」
「人間じゃなくなってる。魔物になったのかな?」
「重力。」
スフレが地面に倒れ込む。
「魔王様、勇者は1人ではなかったようです。」
陣形ができた瞬間、重力の固有スキルを持つ勇者を守るように2人が前に出てきた。勇者が2人もいるなんて聞いてない!ていうかポンポンと強力な能力を出してくるなよ!
「春奈、行け。」
「空間移動。空間移動。」
合図とともに、一回目でスフレの背後へ、もう一回で、スフレゾンビと女が消えてしまった。空間移動だと?そんな能力を持っていたのに、なぜ老人を逃がした?
「剛!」
いつのまにやら戻ってきた空間移動の勇者、多分春奈?が、重力を操る男へ声を掛ける。男はすかさず持っていた盾を投げ、重力と言ってピタッと止めると、上を見上げて再び口を開く。
「重力。」
能力を持たない男が前に進み出て盾を構えると、盾が転がっている場所にダンッという音と共に何かが落ちてバラバラになる。よく見なくてもわかる、スフレゾンビだ。念のためスライムに…。
「死にました。」
「気を抜くな?来夢を殺したんだ。不死身か再生能力を必ず持っている。」
警戒を怠らない4人。パーティの半分が勇者でこんな慎重だったら誰だって負けるだろ。
「魔王様、申し訳ありません。」
「気にするな。時間停止は殺したし、他の人間が勇者だってこともわかった。」
勇者はバラバラになったスフレの死体を1つ1つ魔法で燃やし始めた。最初は大きな声で驚いていたのに、今は淡々と作業をしているのを見ると、すこし狂気を感じる。仲間が1人が死んだんだぞ?誰一人泣かないし、ほっとして少し笑みを浮かべている者まで…ゲーム感覚でやってるのか?
見てられなくなり、こちらに視界を戻すと、ネズミから連絡が来た。
「魔王様、国へのネズミ輸送が終わりました。」
おそらく状況は知っているだろう。とりあえず報告を聞いておく。
「2つ目の村は?」
「行きでは取り立てて報告することはありませんでした。現在、人間が極度におびえております。」
「…本当だな。」
ざっと見た感じだと、血痕が多いことが気になるな。後は…生命力かな?人間独特の力の塊って感じではなく、燃えカスみたいに結構弱っているように見える。
「勇者が怖い、勇者があんなに野蛮だとは思わなかった、勇者に人の心はないのか、と言った会話を確認しており、勇者が何かしたと思われます。」
この惨状が勇者によるもの?だが見た感じ弱っているが、死者は出ていない。
勇者に視界を戻す。来夢が生き返ってる!?
「スライムが死体を操ってた?」
「あれスライムじゃねーのかな。魔力辿って殺したのに死ななかった。」
来夢の首には、本当に頭が取れていたのかと思うほどに傷が残ってない。腕もついている…。
「即死させることができないってのは厄介だな。どうするリーダー。」
「村に帰る。春奈、いつも通り村の近くまで飛ばせ。」
「探索諦めるってこと?」
「諦めない。時止めが効果を発揮できない以上、寝不足で前進する意味はない。一度休む必要があるが、ここは危険だ。結界と肉壁のある村で態勢を立て直す。」
全員が納得したかのように頷いて、村へと転移していく。
リーダーと呼ばれた男が別格過ぎる。能力を明かしていないだけで、こいつも絶対勇者だろ。となると、来夢の頭を持ってどぎまぎしていたやつも勇者か?
「勇者って死ななかったりする?」
「わかりません。ただ、歴史上勇者の死は確認されていません。」
「さすがに老衰とかでは死んでるよね。」
「勇者は歳をとりません。」
こいつらが死ぬまでスローライフってこともできねーのかよ…。俺の悩みの種はというと、丁度村に入っていくところだ。勇者が歓迎されない村なんて初めて見たかも。店員が金持ってなさそうなお客さんの接客してる感じ。
「ネズミ、3つ目の村に向かってくれ。」
「承知しました。」
大丈夫だとはわかっているが、ネズミを村から逃がしておく。いやあ、引き返してくれたことは幸いだったな。人の睡眠は大体7時間とかだったか。ゴブリンたちは起きたばかりだから安全に行動を起こすには絶好のチャンスだ。
「ゴブリン。すぐにお前たちが住んでいた村へ行け。病で変貌した人間だと言い張り、人間と交流しろ。」
「承知しました、魔王様。」
まずはスライムと共にここを離れる必要がある。山の向こう側へ。先遣隊は既に送っているから、そこまでは安全に進めるだろう。気になるのは俺の移動エネルギーだが…。
1日中飛び回っても問題ないぐらいにはエネルギーがある!心当たりは…やはり勇者の殺害か?とりあえず、飛行というか少しは移動できるように足とか生やしてみる。
…。
スライム人間が下手くそに拍手してくれる。
生えるもんだな。これで俺もエネルギーの消費を抑えて移動が可能となったわけか。
…。
これ、核作って魔物とか作れたりしないかな。俺の一部だから栄養にならない―だとか言ってた気がするし、足が作れたなら新しい核が作れても不思議じゃない。なにより俺が復活したときにスライムとネズミを作成したってことは、能力として備わってるってことだよな?
テキトーに作って…あ、待った待った。あいつら倒せる魔物を考えよう。
「スライム。勇者の固有スキルについてなんか知らない?」
「基本的に魔法とは別系統の力であり、勇者一人につきスキルは1つのようです。」
スキル1つね。そうでなくては本当に困る。2つ目のスキルの存在は除外して考えてもよさそうだな。
確認した勇者の固有スキルは3つ。
『時間停止』『重力』『空間移動』
並びがやばい。厨二心をくすぐられてしまうな…。能力が判明していないと思われる2人の人間は一旦置いておくとして、こいつらの対策を考えるか。来夢とか言う人間を殺した時のことを思い出す。
んー殺しても生き返るなら意味ない気がしてきた。絶対勝てないだろ。
少し投げやりすぎるか。俺も魔王じゃなくて勇者になりたかったな。そしたら好き放題魔物倒して、尊敬とかされちゃってモテたりとかして、あいつらみたいに…村人から恐れられる…。
なんで村で安全に休んでる?夜襲われても安全だから?死なないようにしてるから?生き返るのに?死ぬことに何かしらデメリットがあるのか?
誰かの固有スキルだとしたら?
俺は来夢の様子を確認する。やはり傷一つついてない。装備も新品当然で、腕が千切れたのに服まで新品同然だ。
新品。他の勇者は新品じゃな…こいつだな。来夢の生首を抱えていた男。こいつの装備や身辺が妙に清潔だ。勇者固有の何かであれば全員が綺麗になっているはず。魔法であっても共有しない理由がない。考えられるのはこいつの固有スキルだ。
「時間逆向」「修繕」「新品化」
装備の補修。来夢の蘇生。二つの要素を考えるとスキルはこの辺だろうか。結局こいつは戦闘に参加しなさそうだから、魔物作成には関係ないだろう。
だが、これは爆アド。こいつを殺せば勇者が生き返らない可能性が出てきた。いや、生き返らないと断言して話を進ませてもらう!
ぬくぬくと気持ちよさそうに眠る勇者たち。クソ!今に見てろよ!!
俺の持つ魔物作成というこのジョーカー。
これを活用して俺はこいつら人間を滅ぼしてやる!!
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