第4話 回収した人間
棚から牡丹餅だな。
現在、一部見た目が崩れてしまった人間とスライムの融合体が洞窟内で待機している。
結果として、スライムが人間の脳を奪い取ることに成功をした。人間の殺害と、脳の吸収がスライム自身の処理能力を上げたとかで、死体の操作が可能となった。
一方で、死体を操ることにより死体がスライムに吸収されたと認識されてしまったようで、体の一部がスライムに変質するものがほとんどだった。
折角ネズミに頼み分体を取り込んだ人間の身辺や性格を調査させたのだが、2人しか残せなかった。
1人は生殖器がスライム化した老人だ。見せる相手も、身寄りもいない。飯は食うが何もできないため、人語を操る猿ぐらいに思われている。
もう一人は完全な人間だ。強力な魔力耐性を持っていたようで、脳の消化に苦戦したそうだ。なんなら、分体を飲み込んだにもかかわらず、平気で農作業をおこない、狩りも行っていた。ネズミも言われるまで、捕食対象だとわからなかったようだ。
その甲斐もあってか、他の分体から脳の消化のデータを取得できたからか、完全に脳との同化に成功していた。
消えた人間の捜索が行われるが、捜索にはこの人間も参加するとのこと。しかも、俺達のいる洞窟をこいつ一人という好条件で引き受けたのだとか。
「あ、楽にしてください。」
思わず敬語。好青年かと思ったら、アスリートのような女性だった。
「いえ、魔王様。私たち人間の行いは到底許さることではありません。この命をもって謝罪の意を示したく思います。」
「うわ、待ってください。」
戸惑うスライム人間とネズミを横目にスライムに話しかける。
「どういうこと、私たち人間って。ふざけてる?」
「いえ、実は同化に成功したのですが、主導権を握られてしまいました。そのため、重要な情報を刷り込みまして。」
つまり、人間をうまく説得して単身でここまで来たのは、こいつの意思だったと。
「重要な情報?あー人間への殺害欲求みたいな?」
「いえ、魔王様への忠誠です。」
あーはい。そういうことですか。
「じゃあ、ここには魔物がいたけど倒したって報告してきて。」
「いない、ではなくですか?」
「愚か者!貴様らはスライムの分体を捕捉しているだろうが!そのスライムがどこにもいないとなれば、問題になるであろう!」
「失礼しました。」
気分だったんだけど、まあいいか。
「そういえば名前は?」
「失礼いたしました。スフレです。以後お見知りおきを。」
「お前らも名前つけた方がいいかな。」
スライムはともかく、ネズミは他のネズミと区別したいよな。
「いえ、我はこのままで結構です。」
「ネズミはともかく私は問題ないかと。」
ならいいか。
とりあえず、兵力の増強はできたので、一度戦力を整えることにした。
ネズミは2つ目の村へ行き、情報収集に加えて、全ネズミを国へと移動させるよう命じた。
スフレと老人は今まで通り生活をし、スライムとの同化がばれないにしてもらう。老人はスライムの意識下にあるから、実質スフレとスライムか。
というかこのスフレ。なんか強そうだと思っていたら、身内から勇者が出ているのだとか。化け物過ぎる…。
スライム人間は性能を確かめることとなった。と言っても分体はスライムの意識下。スライムが同時に操れる数にも限界がありそうだと思っていた。
「いえ、何体かは私の意識下から脱しております。」
計10体のスライムが操ることができなくなったスライム人間…。
「待たせた、魔王様。」
こいつらはやはりスフレほどではないが、魔力耐性を持つ個体のようだ。消化までのラグがスフレ同様発生していたため、同化を試みた集団のようだ。その結果、人間の脳とスライムの思考が織り交ざり、知能が低くなってしまったようだ。
なんか、スライムだった部分が少なくなったというか小さくなって、皮膚がスライムの色に近くなってないか?これは…。
「命令だ。スライムである部分を無くせ。」
俺の予想がそのまま的中したら、俺は彼らをゴブリンと呼ぼう。知能が低いためか、ことあるごとに彼らは繁殖をしたがっているようだ。スライムの部分がなくなって、少し増えたら適当に村を襲わせてみよう。
奴らのいい所は、人間性を保ちつつ、魔物に落ちていることだ。液化分体であった名残であるのか、その程度しか魔力を有さず、存在としてはほぼ人間だ。結界の素通りは容易に想像できる。
人間を20程葬ったからか、俺も少し力が付いた。人間を殺すと魔王は力が上がるのかもしれない。俺は本体の浮遊が可能になった。しかし疲れる。少し浮いただけで半分ほどの力を使ってしまった。残りは残しておこう。
隣では人間の死体を操るスライムの姿。難しいようで、肘や膝など怪我をしやすい箇所はスライム化していた。俺も人間の体欲しいな。
ひとまず、ゴブリンとスライム人間はまだ使い物にならなそうだ。さて、どうやって残り2つの村を…いや、1つ目も滅ぼせてないのか。
俺が次の策を考えていると、スフレと老人が歩いてきた。スフレ?あれ、村に溶け込むようにって…。
「魔王様。村の掃討が完了いたしました。」
「マジか。」
「大丈夫です、魔王様。全員病による病死です。」
あの後、老人とスフレで俺の飲料水作戦を続行したらしい。村で配られる食事が決め手になったのだとか。やるなあ…。
「じゃあ隣の村に向かってくれ。到着するころには、ネズミから情報がもらえると思うから、再度指示を出すよ。」
「承知しました。」
この村も流行り病について話して同じように殺してしまおう。懸念点はもう一つの村と国だ。時間的にもスフレたちを受け入れるとは到底思えない。
そういえば、今は山のこっち側に絞っているが、向こう側も見に行かないとだよな。今のうちに向かわせとくか。
「スライム。分体を数体山の向こう側の捜索に当ててくれ。スライム人間も1人同行させよう。分体は道中で数を増やすように。」
「承知しました。」
やみくもに操作の練習するよりも、何か目的をもって練習した方がはかどると思う。ゴブリンと違いスライムに近いため、保有する魔力で人間でないことはばれてしまうが、ないよりもましだ。スライム人間もそのうち戦力になってくれるといいな。
翌日。
「魔王様、見て!」
ゴブリンが子供を見せてきた。嘘だろ。昨日の今日で出産しやがった。
「私の分体の生成に近いですね。」
なるほど、そういえばスライムと人間が混ざってできたんだったな…。この生産量だったら1週間もすれば3つ目の村の人口をはるかに上回る数になるだろう。
「魔王様、このままですと、全ゴブリンを養うことは難しくなると思われます。」
「スライム同様、何でも食えるわけではないの?」
スライムはそこら辺の土喰っても増えるじゃん。ゴブリンもいけないのかな?
「スライム人間はまだしも、ゴブリンのベースは人間です。多少の毒耐性は有しておりますが、私程融通の利く身体構造をしており居ません。」
となると、食料難か。滅ぼした村まで少しかかるよな…。取りに行くのもそうだけど、戻ってくるのにも時間がかかるだろうし、知能の低いゴブリンを行かせて商売、現状を知っていたのなら調査に来た人間に遭遇してうまくやり過ごせるとは思えない。そうなるとスフレの立場が危うくなる。ならば…。
「スライム、滅ぼした村にまだ分体残ってる?」
「はい、現在死体をの処理のため待機させておりました。」
そうだった。病死した村の死体をどう処理したものか。残していても、ゴブリンとスライム人間になった人間の死体はないのだから、証拠にできるはずがない。
にしても、ゴブリンの見た目がどんどん醜くなっていくな。人間らしさがなくなりゴブリンに近くなっているというか、禿げた老人というかて、俺の想像通りの姿に…。もしかして俺の意思の影響を受けてたりするのかな。
老人か。
「スライム、スフレと老人を呼び戻せ。」
そういえば他の老人はあの村に居なかった。というか老いぼれた老人はどの村を見てもいない。老人になる病なら、多少知能がおかしくなっても話が効くかもしれない。スフレは身内が勇者から出るのだ、どうとでも言い訳は聞くだろう。
魔王の隠れ蓑として機能するか、この村にゴブリンを住まわせてみよう。
「ゴブリンは老人と合流後、もとの村で生活を続けてくれ。死体はゴブリンが埋葬すること。スライム、老人を通してゴブリンの指揮を取れ。村を人間と交流させる。」
仮に人間がゴブリンを受け入れなければ、今まで通り行けばよい。
だが、人間がゴブリンを受け入れたのなら。
そのままゴブリンを繁殖させて、ゴブリンの村を量産する。そのうち人間の領地にも入植する。どんなに汚い手を使ってもよい。彼らが人間と考えるゴブリンで、人間の住む場所をむしばむのだ。
「緊急です、魔王様。スフレが討ち死にしました。」
「話が早いって!」
スフレは道中遭遇した勇者と対峙し、無事名誉の戦死を遂げたと報告が入った。
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