第2話 戦力の確認

話を円滑に進めるため、力の代償にこの世界の記憶がなくなってしまったと伝えた。2匹は辛そうにしていたが、これで気にすることなく知らないことを聞ける。


まずは戦力の確認だ。


俺は何もできそうにない以上、ネズミとスライムが死んだら詰みだ。背水の陣ってやつ?絶体絶命と言う方が正しいか。


ともかくこいつらがどの程度できるか確認することが最優先事項というわけだ。幸い、視野だけでなく、会話も遠くから可能だった。


ただ、もと人間だからかわからないが、広げた視野をすべて見れるわけではないし、会話もスライムたちと違い、目視していないと難しい。要は俺の意識を飛ばして確認できる範囲は、人間のころと同じぐらいな認識だ。


集中して頑張る?ともっと広げられそうだが、難しそうだ。やはり、人間だったころ行動可能だと認識していた範囲というものが、無意識にあるのかだろう。今後の課題としておいておくとする。


「食事、でしょうか?」


「そう。人間を襲う前に、まずは体力をつける。」


「わかりました。」


聞いたところによると、俺が作り出した魔物は食事や休息を必要としないらしい。なんでも、俺の作り出した核が活動に必要なエネルギーを供給し続けるためだとか。何かしらエネルギーを発生し続ける構造になっているらしく、『絶命時は自爆最後の輝き』が生み出された魔物に本能として備わるのだとか。


ただ、外部からのエネルギーや物質の取り込みをしないため、欠損部の修復や成長は行えない。裏を返せば、食事をとることで修復と成長が可能ということか。


「魔王ってすごいんだな。」


「歴代でもありえない技術だと、聞いております。」


「さすが魔王様!」


俺の復活にこの二人が同行していたのは、優秀な核を保持していたからだったようだ。ただの雑魚じゃなくて安心。というか、生まれたばかりなのに、どうしてそんなこと知ってるんだ?


「最高幹部様とお話ししましたので。」


どうやら、俺が復活したとき、付き添いで最高幹部がいたらしい。前の魔王が死んで復活を確認した後、そいつの転移でここに逃げて、そいつの肉体で俺の復活が完了したのだとか。最高幹部が吸収されるまで、スライムとネズミと話していたんだな。


「我々は魔王様から生み出された、魔王様の一部のようなものでして、最高幹部様のように栄養の代わりとはなれませんでした…。」


状況の整理ができたところで、進展があった。


いい知らせと悪い知らせだ。


いい知らせは人間を見つけた。辿っていくと、いくつかの村と、大きめの城もあるほどの国を1つ。村の方は武装もしていない平和ボケした村だ。狩りや花摘み、水浴び、etc。とにかく少人数で孤立することが多いため、状況によっては各個撃破は可能だろう。国は…今は考えるのはやめておこう…。


悪い知らせは、こいつらの大きさだ。前世と同じこぶし大の大きさしかない…。踏みつぶされたら終わりじゃないか!


食事もてっきりそこら辺の獣を食い殺すのかと思ったら、呑気に木の実を食ってやがる!ただの喋るネズミじゃねえかよ!!


スライムも問題だ。食ったら大きくなるかと思って期待したらこいつ、分裂しやがった。ネズミより少し小さいぐらいのスライムがいくらいても、人間を襲えるわけがないだろうが!食った内容物を吐き出しているとか何とかで、要は排泄物に近いらしい。吸収しろや!


「合体…ですか?」


無理ですよね!俺もうんこは食いたくない!


観察していた人間が不安そうにあたりを見回すことが多くなってきた気がしていた。


「なんか人間がキョロキョロしてる?」


「それは魔王様の魔力を感じたのではないですか?」


視野を広げるイメージは手を伸ばすのと同じだと話したが、それで気が付かれたのだろうか?


「人間もそういうのわかるんだ。」


「何をご冗談を。魔力に乏しい人間などほとんどいないではないですか。」


あはははは。


笑えるか!!


聞くところによると、魔力とは知力を根底とした意識の拡張なのだとか。そのため知能の高い人間のほとんどは魔力に適性があり、当然の如く魔法を使えるのだとか。想像より事態は最悪なんじゃないか?


「じゃあ、お前たちはなんで魔物って呼ばれてるの?」


「本来力があるはずのなかった物や動物に魔力が宿った物の総称ですよ。魔力が起因の物は全て魔物と呼ばれます。」


「…魔王っていうのは?」


「極稀に魔力自体に魔力が宿ることがあります。イレギュラーであり矛盾であり、異常事態です。なにより忌むべき存在だと人間どもは考えているようですね。」


「そうなんだ…。お前たちも思ってんの?」


「魔王様は魔王様です。」


「言わせてもらえるのでしたら、奇跡と。」


こっちのふるまい関係なく好意を向けられるのは想うところがあったが、やはりこいつらのことは割と好きだな。こいつらの期待に応えてあげたい。


「お前たちは魔法使えないの?」


「使い方を知りません。」


エネルギー使えばとかも思っていたが、魔法の原理などそもそも知らない。核のエネルギーを使えるわけでもなし、忘れよう。


なんとなく状況はわかった。


ネズミとスライムはRPG序盤を彩る代表モンスターなだけあって、雑魚だ。それに対して、人間様は勇者を筆頭に平均値の高さを感じさせてくる。


いいだろう。やってやろうじゃないか。


馬鹿とハサミは使いようだ。こういったことを考えるのは嫌いじゃないしな。


「お前ら得意なことは?特技みたいな。」


「得意でしょうか?命令されればどんなことでも。」


こころざしは一丁前だな、スライム君。忠誠心〇と。こいつは増えるし爆弾として運用してやろう。


「その他齧歯類げっしるいと差がございません。強いて言うならば、魔物として認識されることはない程度でしょうか。お役に立てず申し訳ございません。」


意思疎通が可能なネズミね。


「他のネズミとか操れないの?」


「不可能ではないかと。ただ、知能が低い故、命令を認識できるかどうか…。」


ネズミの話を聞いて、スライムが再度話し出す。


「私の分体は核こそございませんが、単一命令により魔物ではなく液体としての活動が可能です。」


どうやら、思考の放棄により、人間が認識できない行動を起こすことが可能なようだ。ていうか、核がないってことは、爆弾としての運用も難しいのでは?ううむ…。


「液体に魔力を流して命令してるの?」


「はい。」


「単一命令ってのは?」


「前に進め。などです。反応による命令は難しく、刺激を受ければ飛び散る程度のみでしょうか。液体に魔力無しで指向性を乗せるため、それ自体も成功確率は低いかと。あまり期待はできないと思われます。」


なるほど、思ったよりできることは多いな。まだ諦めなくていいようだ。


「また詳しく聞くけど、今回は確実にいくとしよう。」


「「ご命令のままに。」」


この日を境に魔王が消滅し、人間の時代の幕開けとなった。未来に黄金時代だと謡われる時代が来たのだ。一方で魔物の被害などとるに足らぬ程の大勢の死者が確認されており、そういった人、場所、選ばぬ災害のような奇妙な事件の多発は、世の人々に不安というストレスを与え続けた。


講じられた対策を嘲笑うように次から次へと問題が発生したこの期間について『魔王以上に恐ろしい何かの攻撃を受けていたのではないか?』と吹聴する歴史学者が後を絶たなかった。根拠のないオカルトチックな考えは当然真向から否定され、信じられることのない考え方ではあったものの、黄金などではなく暗黒時代だと囁かれるほどには、人間にとって悪夢の時代となった。

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