第9話 創造神との出会い

「まあ……その〜 貴方の知らないところで、そんな事になっていたのよ……

 あっ、貴方に皆んなの前で抱き付かれたから……仕方無くなんだからね……」

 顔を赤らめながら、アルティスとフィオナの、婚約の成り行きを説明された。

「マジ〜〜?ヒナ、俺のお嫁さんになってくれるの?」

 アルティスの顔が弾ける。

「だ〜か〜ら〜 フィアンセ だ・っ・たって言ってるでしょ?

 貴方10年も行方不明だったのよ?アル……死んだものとみなされるでしょ?普通」

「オーマイゴー!」

 ゴットはじいちゃんだけど……


 フィオナは何年も頑なに婚約解消を拒んだ。

 しかし王家としてはそれでは困るのだ。王が独断で解消を決めた。

「あのオッサン!許さん……」

「あの後大変だったのよ。フェイト伯爵家を継いだ貴方の叔父さん!

 アルティスの代わりに我が息子バルトをと、しつこいしつこい!まじあいつ生理的に無理」


「姫様、アルティス様に、ご面会を求めている方がいらしているのですが?」

「どなた?」

「フェイト伯爵と奥方様、御子息です」

 噂をすれば……

 一瞬で部屋の空気が凍りついた……

 10年前、年上の悪ガキ少年達を、凍りつかせたアルティスの、

 サファイア色の瞳……身体から滲み出る冷気……


 王家を始め、他の貴族も薄々気付いてはいた。

 フェイト伯爵家の行方不明の犯人。

 誰が得をしたのか?そして、その者がどういう人となりかを考えれば、

 誰の目にも明らかな事だった。

 ただ証拠が何も無かっただけだ。


「うわ〜高〜い!」

 アルティスは初めて乗る、魔道飛行船ではしゃいでいた。

 叔父家族に連れられ、南の大都ラグナルに向かっていた。

 親戚筋の結婚式に参加する叔父。そして執務に忙しい父の代理のアルティスだった。


 アルティスは、この叔父一家の事が、あまり好きでは無かったのだが、

 幼いながらこれも貴族の務めだと諦めた。

 甲板の手摺りから身を乗り出し、はしゃぐアルティスの後ろから、気配を消し近付く者がいた。

 気配を消して忍び寄る……それはアルティスには通じない、気配を感じ一瞬身体をこわばせる。

 だが、それが叔父のラグナルだと気付くと、警戒を解いた。

 それが不味かった。いきなり突き落とされるアルティス。

 普段のアルティスの身体能力ならば避けられた筈なのだが、

 まさか叔父が、そんな事をするとは思いもよらず、油断してしまった。

 ニヤリと薄汚く笑うラグナルの顔が、遠ざかっていった。

 落ちる落ちる!

 〝うわ〜〜〜〜〜〜!〝

 叫びながらもアルティスは、魔力を高める。


 地面に叩きつけられる寸前、〝ふわ〜っ〝 何とアルティスは浮いた。

 そして宙を飛ぶ。

 出来た!実は今迄、何度練習しても、ほんの少し浮くことは出来ても、

 飛ぶ事はもちろん、安定すらしなかったのだ。

 それがこのピンチに初めて成功した。

 ……と、喜ぶのも束の間。ドラゴンが集まって来た。


 ここは〝呪われたドラゴンの谷〝と呼ばれ、人々から恐れられている場所だ。

 入ることは出来ても、決して出る事が出来ない、強力な結界が張られている。

 言い伝えによると大昔、大量発生し、王都にまで被害が出てしまったドラゴンに対処する為、

 大賢者が、ドラゴンの大群を誘い込み、結界を張って閉じ込めたと言われている。

 ドラゴンがアルティスを襲って来る。

 避けるにも今は未だ、上手くは飛べない。

 目前のドラゴンの牙を、ギリギリ避けると、後ろから別のドラゴンが、鋭い爪を伸ばして来る。

 傷だらけになりながらも、何とか地上に降りる事が出来た。


「地上の方が早く動けるもんね〜」

 アルティスには全く悲壮感が無い。この状況を楽しんでる様にすら見える。

 それから1時間、だんだん上手く避けられる様になり、

 ドラゴンは攻撃をかすらせる事も出来なくなった。

 しかし逆に、何も武器を持っていないアルティスの、

 たまに当てる事の出来たパンチ、キック等、ほとんど効いている様子がない。


 段々と体力が削られていった。

 だがアルティスには、不思議と焦りは無い。

 しかし、次から次へと来るドラゴンに、イライラが溜まり限界に近かづいていた。

「しつこいな〜こいつら! い!い!か!げ!ん!に!しろ〜〜〜〜!!」

 アルティスは感情を爆発させた。

 いや本当にアルティスの、強大な神聖力が暴発し爆発が起きてしまった。

 〝ドッガガガガガガーン!!!〝

 結界をも割り砕く強力な爆発!

 アルティスも自分で起こした爆発に呑まれ、遠くへ吹き飛ばされる。

「いててて……」

 ようやく土埃が落ち着き、辺りが見える様になる。

 呪われたドラゴンの谷のドラゴンは、1匹もいなくなっていた。

「呪われたドラゴンの墓場に名前変更!」

「ぶっわっ〜はははは!あれだけのドラゴンに襲われ、尚、楽しそうとは……面白い奴よのう!」

 いつの間にか、アルティスの背後に、白髪の老人が立っていた。

 これが初めてアルティスと、創造神が出会った日だった。

 いや、実を言うと、創造神はアルティスが生まれた時から、この強大な神聖力を感じて、

 神界より見守ってきたのだが……

 周囲50kmが吹き飛んだ大惨事、周囲が砂漠地帯だったが為、人的被害は無かった。

 叔父一家を乗せていた魔道船も、ぎりぎり巻き込まれずに済んだ。

 上方に向け爆発した為、この程度で済んだが、5つ有った上空の月の1つが吹き飛んでいた。

 この力が地面に向いていたら、この星が大きなダメージを負ったに違いない。

 〝人類滅亡を奇蹟的に免れた大爆発〝

 後にここを調べた学者達がそう呼んだ。

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