第8話 5歳のお披露目会
「本当か?本当にあの変態おませ小僧が良いと言ってるのか?」
リヴァルド王が問う。
5歳のお披露目会……それは、フィオナの婚約者を決める、大事なイベントでも有ったのだ。
お披露目会の後、リヴァルド王の執務室では、
国の重鎮が8人程集まり姫の婚約者を決める会議が行われていた。
いや、この8人だけで決めるんじゃ無いよ?ちゃんと本人達の意思も尊重される。
公平を期す為、候補に上がっている5人の親は会議に参加していない。
そこへ顔を赤らめながらフィオナが入ってきた。
「……仕方ないの。皆んなの前であんな事されたんだから……
もうあの子と結婚するしか無いの!」
そう言うと恥ずかしそうに走り去った。
「抱きつかれただけだろ?5歳の子供のした事だから気にする事は無いだろうに……」
さっき変態おませ小僧とか言ってたのリヴァルド王では?
「子供のした事……しかし陛下、あのガキ許さんとか言って激オコだった気が……」
ハーゲンがジト目で呟く。
「いやまあちょっと……なんと言うか……ハハハ……」
「あの子はフェイト伯爵の御子息ですな。
とてつもない魔力を持っていると伝え聞いて居りましたが、
それを既にとんでもないレベルで使い熟しているいるどころか、何と武力もとんでもない様ですぞ。
勇気も正義感もあり、姫様にふさわしいかと聞かれれば……正に適任……
全くもって問題無いかと……」
「問題大有りだ!あの性格!それにしても魔力のことはワシも聞いておったが……
それ故、伯爵家とは言え候補に上がっていたが、
武力もなのか?ハーゲンお前、何か知っておるのか?」
「姫様は“仕方ないの”と仰っておりましたが、あれは多分照れ隠しかと……」
「何故そう思う?何か有ったのか?」
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間も無く、お披露目会が始まろうかという時。
5人の取り巻きに囲まれた、バンジャラス伯爵の嫡男コーリンが、下級貴族の子供を怒鳴りつけていた。
コーリンは弟のお披露目会に付いてきた、アルティス達より7歳上で12歳になる少年だ。
そして怒鳴られていた子供は、男爵家の嫡男カイル。
お披露目会をとても楽しみにしていたカイルは、少しはしゃぎすぎていたのか、
よそ見をしながら廊下を走っていて、コーリンにぶつかってしまった。
もちろん吹き飛んだのは、小さい身体のカイルの方だったのだが。
その勢いでコーリンもよろけてしまい、石柱に擦って少し服が綻びた。
それに腹を立て、怒鳴りながら転んだカイルを更に蹴り飛ばした。
体格差も有り、吹き飛ばされるカイル。
運悪く石柱の台の角に、頭を強く打ちつけたカイルは、頭から大量の血を吹き出
し、ピクピクと痙攣したかと思うと動かなくなった。
「な、なんか息してね〜ぞコイツ……」
コーリンの取り巻きの1人が、カイルを覗き込み、消え入りそうな声で、顔を青くしてそう呟いた。
打ち所が悪かったのだろう。
「なんて酷い事を……直ぐに助けなくちゃ……」
幼いながら天才と呼ばれていたフィオナは、既に回復魔法が使えた。
上のバルコニーから、その様子を見ていたフィオナは、慌てて駆け降りようとして立ち止まる。
何故なら、その時、目を疑う様な光景が入ってきたからだ。
「息をして無いだと?そんなはずは……」
そう言うとコーリンは動揺した様子で、倒れているカイルの胸ぐらを掴み、起こそうとした。
しかしその手はカイルを掴む前に、身体ごと何者かに片手で吹き飛ばされる。
誰もいなかったはずのカイルの横に、自分の弟と同じ歳ぐらいの男の子が、忽然と立っていた。
それがアルティスだった。
「この無礼者!」
無礼も何もこの2人は階級的に対等だ。格下にでも見えたのだろうか?
「自分より身分が低かったら、何をしても良いの?」
詰め寄るコーリンとその取り巻きにそう言うと、無表情に凍りつきそうな冷たいサファイア色の瞳で、静かに見据える。
静かなのだが、説明しようの無い威圧感に、コーリン達は凍り付き、動けなくなった。
その者には近づいてはいけないと、本能が告げているからだろう。
身体に力が入らなくなったコーリン達は、コテッと尻餅をつき股間を濡らし、そのまま後ずさる。
コーリン達が近づかない事を確認すると、カイルを振り返り、その手を頭にかざした。
少し離れているので、はっきりとは見えないのだが、アルティスの身体が光だした様に見える。
その光はアルティスの手からカイルの頭に流れ込んでいる様だった。
「ゴホ、ゴホッ!」
咳き込むカイル。
息を吹き返した様だ。
〝ふぎゃあ〜ん!〝
その泣き声に、何事かと人が集まり出した。
「ねえ〜ねえ? それ、恥ずかしいんじゃな〜い?」
ニヤニヤ自らの股間を指さしながら、悪い顔をしてアルティスが言う。
「それに大人の人達も集まり出してきたよ、大丈夫?」
顔を真っ赤にしてコーリン達は、その場から逃げ出した。
「何?何? すごい、すごい! 何なのあの子?いったい誰?」
フィオナの顔が薄っすらピンク色に染まっている。
5歳にして、早くもヒールが使える様になっているフィオナ。
皆んなから天才だと言われていたが、あの男の子とのレベルの違いはフィオナにも良く分かる。
怪我をした子は、一時、息をしていなかった様なのだから……
魔法なの? 神の
目で追う事さえ出来ない動きの速さ。
そして自分よりずっと大きな少年を軽く吹き飛ばすあの力!
それでいて尚、動揺する事が無い、あの落ち着いた雰囲気…… あの子……
落ち着いた雰囲気?フィオナは知らなかった。
この後、皆んなの前で盛大に抱きつかれる事を。
アルティスは怒っていたのだ。だが、自らの力を理解していたから、
怒りを落ち着かせようと、なるべく穏やかに話して自分を落ち着かせていたに過ぎない。
5歳にしてお互い一目惚れ……
後世に言い伝えられる英雄王アルティスと王妃フィオナの初めての出会いだった。
「〝可愛い〜僕のお嫁さんになって〜〝とか言って、いきなり抱きつくとか、性格がだな〜」
「イヤ、あの正義感、見た限り、あの子の持っている全てが、
これ以上無い程姫にふさわしいかと思いますが?」
ハーゲンは知らなかった、10年の後、アルティスにこれでもかと遊ばれる事を……ご愁傷様?
しかしハーゲンは、幼いアルティスが、多くの人の上に立てる器である事を確信していた。
この後、アルティスとフィオナの婚約が正式に結ばれるのだが、
満場一致でアルティスには伏せておこうと言う事になった。
アルティスがその事を知ったら?
うん、皆んなの頭痛の種は植え付けないでおこうと……
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