ラストエピソード 祖母の宝物

私が働く前、祖母と二人で住んでいた事があった。

印象にずっと残っているその当時のドラマで見た場面が今でも忘れられない。


(初任給を貰った際に、茶封筒の一番上に入っている1万円札を両親にプレゼントするというもの。)


当時は給与も振り込みではなく、直接手渡しだった事も多かった事から、そんなドラマの場面が出来上がったんだと思う。

今ではほとんど有り得ない支給の仕方だが、その当時はそのドラマに感動したのを覚えている。


(これ、真似したいな・・・。)


そう思った私はその後、初めて勤める会社も決まり、ついに初任給を貰う日がやってきた。

勿論その会社も茶封筒で手渡し。

当時の初任給は10万もいかなかったが、ドラマの様に一番上に乗っていた一万円札を取り出すと、その夜祖母にそれを渡した。


祖母はとても喜んで

「ありがとう、ありがとう。」と、何度も私に言って笑顔を沢山くれた。


その数年後、祖母も亡くなり、その家を引き払う事になった。

私の両親と共に掃除をしていると母親から何これ?と尋ねられた。


そこには茶封筒に「〇〇からの初任給のプレゼント」と書いてあった。

私が祖母に渡した茶封筒がそのままの状態で綺麗に保管されていたのだ。

祖母は使わずにずっと家にしまっておいたのだと、その時に知った。

(使わないで取っておいたんだ・・・。)

そんなに大切にしてくれていたんだと・・・。

その封筒を見て、思わずその時の事を走馬灯のように思い出してしまった。


使えばいいのに、という気持ちが浮かんだのと同時になんだか心がほっこりするのを感じた。

茶封筒により思い出された祖母との共同生活。

凄く懐かしく、そして祖母を可愛くさえ思えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伊賀ヒロシ 「短編集 ~ITO~」 伊賀ヒロシ @takocher

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ