エピソード9 初めてのスーパー

子供の成長を見るという事は、人間の「初めての体験」を目の当たりにするようなもの。それは時にとても愉快だ。

まだ娘が分別のつかない位の年の時、多分その日が彼女にとっての「お店に置いてあるものは、お金というものを渡さないと貰えない。」というのが分かった日、だったと思う。

それまでは子供を連れてお店に行っても抱っこしていたり、寝ていたりとその体験をした事が無かったような気がする。

ある日の事、彼女も少しは歩いてうろうろする事を覚えた時期に、スーパーのお菓子売り場の所を歩いていた時だった。

レジに向かった私の横に娘がいない事に気付く。

「少し待っていてください」

という私に、レジの方はニコっとして返してくれた。

直ぐに走って娘を探すと、先程のお菓子売り場の所にちょこんと座ってお菓子を食べている姿が。

その姿があまりにも滑稽で思わず笑ってしまった。

「そうか、お金を払わないと食べられない」という事を知らないもんな。

と思った私は食べている娘をそのまま抱きかかえレジに向かう。


「すいません、娘がお金を払うというのを知らなくて開けて食べてました。本当にすいません。このままレジ打ってもらえますか?」

という私の言葉を聞き、笑いながらレジの方も娘のお菓子のバーコードをそのまま読み取ってくれた。

抱き抱えた娘の口元の近くで「ピッ」という音がする。

私とレジの方は笑いながら頭を下げる。

そんな事も知らずに、娘がお菓子を食べ続けている姿が周りの人達にも笑顔を与えた。


これが人間が「お金を払ってからじゃないと物が買えない」という初体験だったのかも知れない。

それ以来、娘が通路でお菓子を開ける事はなくなった。

自分のどこかでまた通路でお菓子を食べてしまう娘に期待している自分がいた。


人間の進化を目の当たりにすると、なかなか面白い。

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