エピソード5 バングラデシュ人の「ジョニー」
クラブへよく踊りに行っていた頃の話。
彼と出会ったのは当時かなり人気のあったクラブだった。
友人と遊びに行った私は、ふと片隅に一人立つ彼を見付けた。
どうしても気になり話しかけると、たどたどしい日本語で話してくれた。
それが、バングラデシュ人の「ジョニー」との出会いだった。
余程、話し掛けられたのが嬉しかったのか、友達になって欲しいと言われ、携帯番号を交換したが、周りの友人からは「怪しいからやめなよ」だけ言われた。
ある日知らない番号から電話が鳴る。
声の主はあの日本語も儘ならない「ジョニー」だった。
私の住んでいる駅名を出会った時に伝えてあったのだが、そこまで来たという。
たまたま休みだった私は慌てて駅まで走って彼が本当にそこにいるのか確かめようとした。そこにはあの「ジョニー」がニコニコして立っていた。
驚いた私は彼に、
「お昼食べたの?」と聞くと
「マダナンデスー」と返してきた。
行きつけの定食屋さんに連れて行くと食べられるのが煮物定食だけだった。
おばちゃんが出してくれた煮物定食にタバスコをいきなりかけたのが今でも懐かしく思い出される。
「仕事はしてるの?」
と聞く私に彼は、
「コンビニノオベントウヲ、ツメルシゴトヲシテイマス」
と答えた。
色々話すと、やはり東京で家を借りるのも仕事を探すのも難しいという事だ。
私がご飯をご馳走すると、彼は申し訳なさそうに何度も何度も
「アリガトウ、アリガトウ、ヤサシイデース」
と頭を下げていた。その仕草がむしろ心にしこりを残した。
日本でもっと気軽に住めたり働けたりしたらいいのにな・・・と。
最後に彼が私に言ってくれた。
「ゼッタイコンドゴチソウサセテクダサイ!」と。
一か月後彼から連絡があった。
待ち合わせの場所で会うと、いつものようにニコニコしている彼が立っている。
「キョウハ、キュウリョウハイッタノデ、ゴチソウサセテクダサイ」と。
私はお腹は減っていたが申し訳なくて、ファーストフードのお店に入ってドリンクだけご馳走してもらった。
彼は、何度も「タベナイノ?ダイジョブ?」と聞いてくれたが、その言葉が心に刺さった。日本人以上に律儀だなと感心した。
その後、数日経って彼から私の仕事場に顔を出したいと連絡があった。
何となく、無垢な彼と会う事が楽しくなっていたが、周りの人間はそれを胡散臭そうに見ていたのも事実だった。
当日彼から電話があった。
「イマ、エキデスガ、ケイサツガタクサンイテ、モウスコシジカンカカリソウデス。ゼッタイイキマス、マッテイテクダサイ」
結局その電話が最後で、「ジョニー」と会う事は二度となかった。
日本人以上に情を持ち合わせた彼が、今でも懐かしく思い出される。
いつまでも待っているから・・・。またいつか・・・。
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