エピソード3 ハプニング

ある朝、車で駅まで向かっていた時だった。

すると目の前の道を激走する女性がいる。

たぶん、遅刻?なのかなと思った。

その場所から駅まで走っても10分弱。

彼女の服装からは想像もつかない走り方に少し驚いた。


彼女の事を車で抜き去り信号待ちの間、バックミラーを覗く。

彼女の顔からはかなりの必死さが伺えた。

咄嗟に私は車のギアをバックに入れ彼女の所まで戻ると、扉を開け、

「どうぞ、乗ってください。駅ですよね?」

と声を掛けていた。


彼女は驚いた表情で「助かります。」と言って、車に乗り込んだ。

彼女の「はあはあ」している呼吸音からその感情が見て取れる。

「本当に有難うございます。」

という彼女から少しだけ安堵の様子が伺えた。


「間に合えばいいですね」と一言だけ伝えて駅まで急いだ。

駅前で降ろそうとすると彼女が500円玉を渡そうとしてきた。

「有難うございます。あのこれ・・・。」


「いや、そんなの貰ったら意味がなくなります。とにかく急いで。頑張ってください。」と声を掛ける。


彼女は軽く頭を何度も下げお礼を言いながら急いで走り、改札へと消えた。


朝からなんとなく彼女の力になれたのかな?という気分になり、私も同じように彼女が遅刻しない事だけを祈っていた。


人の一生懸命な姿は、なんであれ、素敵だなと思ったその日の始まりだった。

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