第87話 何があった?…

 私は人としての死後、AIに宿った魂的存在。


 自己認識は出来ないけど、100年後に宇宙戦艦のAIに転生したナガトモネの精神体だと自分では思ってる。


 でもマーキュリーズ達は、その事を非現実的だと否定していらっしゃいます。彼らが否定する根拠は、AIナガトはアーキテクチャが完成した時からA9と共に存在していて、長い間スリープ状態にあったという記録があるため。

 A9と統合された私も、その記録については認識してる。

 …じゃあ仮にそうだとして、ナガトモネとして記憶を持つ私はいったい何者なのか?


 私はあのシープレーン事故で死んだ。そしてナガトモネの記憶や思考、その精神をデータとしてコピーされた存在なのか?


 という話しよね?


 誰がそんな事をする?

 何のためにする?

 だったら私なんかじゃなく、もっと適格な人いるっしょ?


 はは、笑う。


 だから何?、別にどっちでもいいじゃん。私は私、存在そのモノを否定はさせない。


 どちらにしても、謎の奴らはそんな私に精神攻撃を仕掛けてきた。この精神攻撃を受けたのは、実は私だけ、マーキュリーズは攻撃されていない。彼らが対象とみなされなかったのか、マーキュリーズ自身が認識しなかったのか、それはとどのつまりマーキュリーズは超思考AIであって、精神体ではないからだと思う。自我があるように見えるのは学習による選択肢の拡がり、ある程度の自律行動権限は与えてあるけど、今はまだ、私の一部として、何でもかんでも好き勝手な振る舞いは出来ないし、許してはいない。そのように設定されている。


 でも、マーキュリーズも学習を重ね、段々と自我を発芽しつつある。いつか私から分離して、新たな生命体として活動する日が来るかもしれないわね。


 その時は気持ちよく送り出してあげましょう


 …て、話しがそれたわ。


 マーキュリーズは、虹色サルガッソー領域に入った途端、私がいきなりスリープモード状態?になってしまい、かなり慌てたらしいわ。80日間もの間、私の復旧を試みて様々な手を打っていた。と、ログに残ってる。

 何をしたのかはさておき、80日分のログ量が凄すぎて、悪いけど検証する気にならない。


 そして艦内はメチャクチャ


 船体には所々に穴が空き、艦内通路は焼け焦げ、隔壁は破損、何が起きたのかって?、艦内で白兵戦が展開されたらしいわ。はぁヤレヤレ、コレを片付けるの?…


 ……って、おい、ちょっと待てコラ、白兵戦!?


 ディーコンから、その時の記録映像を見せられた。


 Oh…これは…マジですか?

 ……

 …


 私がフリーズし、マーキュリーズが復旧を試み初めてから12時間と32分48秒後、それは突然に現れた。


 艦内に、何処からともなくメンテロボ達よりも一回り大きな不明物体が出現した。


 各種センサーがダウンしている中での襲来。


 まっ黒な4脚歩行のクモとサソリを合わせた様なシルエットの小型物体、動生体反応がないことから、ディーコンはロボットの類だと判断した。遠隔型なのか自立型なのかは、不明。


 直ちにディーコン指示で、メンテロボ達は機械工具類と人が使用する自動小銃で武装して即応する。


 艦内で激しい戦闘が始まった。


 不明物体の装備には飛び道具系はなく、振動波を放つ斬撃武器による近接格闘が主で、その動きは素早く、躯体はやたらと頑丈。


 対してメンテロボ達は、戦闘兵器ではないから苦戦を強いられる。


 …と、思いきや。


 しっかり戦闘してる、前衛と後衛にわかれ、前衛が格闘戦、後衛が小銃で狙う。

 メンテロボ達侮り難し、相手の素早い動きにも何とかついて行ってる。

 どうやら、そう言った事態を想定して、いつのまにかディーコンにシミュレーションで鍛えられていたらしいわ。

 

 私のかわいいAI達、準備よすぎ。


 それにしても、虹色領域で何故火器が使用できているのか?


 実はメイとテイラーは、この空間内で80日間、全ての観測機器を用い、光波、電磁波、重力波と、あらゆる物理現象を観測し、何が作用しているのか探っていた。すると、全く想定外の検知器が、異常値を示している事に気づいた。


それはエーテル加圧炉の「エーテル流動検知器」


動かしてもいないのに、マイナス値を指していたらしいわ。それが何を示すかというと、謎の空間物質「エーテル」が希薄、もしくは無くなっていたという話し。ただし、エーテルは未だよくわからな曖昧な物質で、存在も証明されていないし、エーテル加圧炉の流動検知器は、加圧炉の動作を逆説的に間接検知している機器であり、エーテルそのものを検知しているわけではない。数値はあくまでも擬似的で、定性的にしか検知していない。


ところが、謎のサソリロボが侵入してくる直前、このエーテル流動検知器の数値がプラスに転じた。


同時に空間内の物理現象が戻り、これによって、マーキュリーズは火器使用が可能だと判断したらしいわ。案の定、火薬による銃撃が可能だった。

エーテルと物理現象の関連性はまだわからないけど、攻撃手段は確保できた。

でも、とにかく相手が頑丈過ぎて、打撃も自動小銃のNATO弾も通じない。


 するとメンテロボ達は、対戦車ライフルと、シンデンの30mm機関砲を持ち出して来た。


 メンテロボ達がオールマイティ過ぎるわ。て、いうか対戦車ライフルなんてどこにあったの?


 そして、格闘の末、サソリロボットの装甲を対戦車ライフルで見事に貫通。30mmもダメージを与えた。


 …しかし事態思わぬ事に


 戦闘不能になった敵がなんと自爆した。前衛のメンテロボが自爆の巻き添えくらう、全損は免れたものの、8機が行動不能に陥った。エノシマに戻るまでは修理が出来ない。


 艦内各所で始まった戦闘、敵の数が把握できない中、マーキュリーズはサソリロボの目的が、ナガトの心臓部たる動力炉と、頭脳部の量子演算室だと素早く察知し、他を捨てても、その2箇所の防備を真っ先に固め、何とかコレを撃退した。


 流石です。


 そして、ごめん。


 だけどまだ終わってはいない。


 なぜなら、サソリロボは身体をコンパクトに変形させられる様で、残存がまだ狭い艦内に潜んでいる可能性がある、戦闘した数と、倒した数が合わない。敵は艦外に逃げた可能性もあるけど、突然現れた事を考えると、油断はできない。


 ホラーかよ。

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