第86話 ゆりかご…

そこは全天が星に満たされた白い宇宙空間のような場所、私はただただたゆたう。


四方から発せられるノイズが心地いい。


まるでゆりかご


ああ、ここは安らぎに満たされている…


…ノイズに混ざって、不思議な音が聞こえてきた。


 唄のような声のような……、声?、でも言語としては理解出来ない、それなのに囁いてくるような音に私は誘われる。


 誰?


♬Y〜


 …私の名前?


私はナガトモネ

サガミノ国、ヨコハマミドリ管区居住

…26歳、独身

大手通信会社、執行取締役員第一筆頭秘書…


♫🎶♪


 …死んだ?……ああ、そうか


 私、死んだのか…じゃあここは天国?……でも、何かしてたような…


 🎶タダシクナイ


 何が?……そうね……そうだわ、ここは私のいるべき場所じゃない、…私は…ワタシは、存在として在り方がタダシクナイ


 ソウダ、タダシクナイ


 某方はことわりカラ外レタ存在

  真理ノ破滅ヲ呼ブ者ナリ

   ココニテハナラナイ

     ココニテハナラナイ


 🎶ココニハナラナイ

 ………

 ……真理、アッテハナラナイ

 私の意識は深く深く沈んでいく、全てが無に…

バヂっ!!


ぎゃっ!!、痛いわっ!テイラー!!


突然襲った電撃に叩き起こされた??

微睡んでいた私は、何者かの名を呼び目が覚めた。


??? テイラー? って誰?

……? テイラーは、マーキュリーズ?


いや私、何してたんだっけ?……土星?

…そうだわ虹色領域に突入して…マーキュリーズ! なんで忘れてた!?


気がつくと、いつのまにか周囲を照らしていた星々の如き輝きなどなく、妙なノイズも消え、黒一色に染まっていた。それなのに周囲は明るく、下方には更に黒々とした漆黒の闇が見える、そちらに向かって私は、ゆっくりと進んでいた。


その進む先、漆黒の闇の中に何かがいる。


目を凝らすと闇の中から、赤黒い何かが湧き出していた。


存在シテハナラナイ

   存在シテハナラナイ

      存在シテハナラナイ


グネグネウネウネと、ミミズみたいなのが、うねってる。


うわっ!、キモっ!!


ふざっけんな!!、私は私なのよ、存在の否定なんてさせない!


ソンザイシテハナラナイ


 やかましい!、真理だ?、破滅だ?、そんなの知ったこっちゃないわよ!!、私の人生は一度終わってんのよ!、どこの誰よ!!、何様よ!、キモチワルイのよ!!


私は叫ぶ、でも抗うことが出来ない、闇に向かってどんどんと加速していく。


漆黒の闇が、私を捕まえようとキモチワルい触手を伸ばして来る。


ああ、もうダメだ…


…そう思った時、ガツンとコードが送られて来た。これは…ディーコンからだわ!、私は即座にコードに刻まれたプログラムを起動する。


目の前に突如として顕現する、旧日本帝国海軍大戦艦「長門」


これってイメージ? 

……うん、わかったわ、ありがとうマーキュリーズ。


艦首回頭0-9-0、おもーかーじ

私の号令で、戦艦長門が、右へ回頭する。


それに合わせて、長門の主砲、41ンチ連装砲4基が連動して、闇の中心部にその砲身を向けた。


 闇の先に潜む何者かに、私は吠える。


私は”宇宙戦艦ナガト”、思考する戦闘艦、何人なんびとたりとも、私の進路を邪魔するやつは排除するのみ!!


ウチーカタ、ハジメ!!


連装砲が轟音を放つ、火炎と黒煙を吐き出した主砲身から飛び出した対艦砲弾が、蠢く闇へと着弾し、爆発。


そのままバンバン撃つ、装填速度を無視した、あり得ない連射で撃って撃って撃ちまくる、砲身が赤く染まっていく。


ギィヤアアアアアアアアアッ!!


ついに闇が悲鳴を上げ、閃光を放ち爆散した。


ふん、ざまあみろ


 ばんっと突然に光が戻った。一瞬わからなかったけど、いつものナガトの中に戻ったわ。


ん?


私が意識を失う前に各種センサーに連打していたコマンドが一斉に返って来ていて、ログが勢いよく流れていく。


 What?


 マーキュリーズ達のコードも受信した。彼らも健在、こちらも物凄いデータ量


 え?、うへぇ!?


 思わず間抜けな声を出してしまったわ、でも私はログのタイムスタンプを見て驚愕する、領域突入から、なんと2,000時間も経過していた。


 なんで!?


 ほんの数分間だと思っていたのに、実時間は80日も経過していた。


 マーキュリーズから送られてくる大量のコードは、私へのシステムチェックを要求するコード、私は対応仕切れなくて慌てた。


 ちょっと誰か状況説明してよ、一体何が起きてたの!?

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