第82話 仮設基地…
ユキカゼの改修が急ピッチに進む。
見ているだけでは何しているのかわからないほどに、恐ろしいスピードで進んでる。人間様には到底真似できない。
急ぎ進めているのは私の随伴艦として…ではなく、拠点防衛のため。
改修内容は、基本的に主機増設をメインとし、一旦主機をフガク内で改修してその場で稼働させる。ただし、フガクには前述の通りスターターが無いので、私のエーテル加圧炉を使用して起動させます。反転重力炉は半永久機関、一度動き出せば緊急停止でもしない限り発生する自己エネルギーを利用して動き続ける。…にも関わらず、フガクの2基の反転重力炉はなんらかの理由で、両方共に停止してしまっていたわ。制御の問題なのか、虹色サルガッソーのせいなのかそこは不明。
そしてフガクから稼働した反転重力炉を待機モードにして1基だけをユキカゼへ移設する。ちなみに反物質ロケットモーターは、取り敢えずそのまま残す事にしたわ。ユキカゼの高速機動性は維持したいからね。
フガクについてはとりあえず後回し、フガクは船体が複雑なモノコック構造のため、現状では切って貼ったが難しい。そこで、フガクは今回の作戦に使わないことを前提に一度完全にバラし、ワタシ達と同じアーキテクチャとなるブロック工法に改める計画。改修自体は、ユキカゼ改修後に粛々とテイラーに進めてもらいます。その防衛のためのユキカゼ改修。
私ナガトもユキカゼの推進器周りの形状が変更になるので、ドッキングシステムをタイタン衛星軌道上にてチマチマっと改修、こちらは既に完了しました。
…
ヒマ…じゃなかった、現在ワタシは、ゲッコウと共に自ら土星宙域を哨戒航行中。エンケラドス軌道より外側を、探索しながら周回しつつ、同時に虹色サルガッソー領域周辺に探査プローブをブイとして配置、マーキングしています。目的は領域の監視。
そこでわかったことが一つ
囚われている宇宙船群は、虹色サルガッソー領域全域に広がっているのではなく、3箇所、集中的に集まっている。これはメイとワタシが光学視認によるマッピングを改めて行い、可視化して判明したわ。さもラグランジュ点の小天体群のような感じで集まっている。だからと言って重力均衡地帯なのかと言うと、違う。周囲の天体配置からはあり得ない。そうなると、その3ポイントに、宇宙船群を捕え、引き寄せる何かがある(いる)可能性が高くなった。
とにかく行って見ないことには、外からではわからない。
するとゲッコウからプローブ設置完了と報告が入る。え? 早くない? 同じ数を配置してるんだけど? こちらはまだ3割残ってる。
併せて、宙域における索敵報告コードも送られて来た。
移動する物体…なし
敵影…なし
騒がしかった内惑星領域と違い、ここは静かなものね、虹色に輝く土星の輪も綺麗だけど、
…こちらも遅れて設置が終わったわ。
さて、どうやってあの領域に侵入し、脱出するか? 実は突入方法と脱出方法は、自分の中ではもう決めてある。後はマーキュリーズと協議するだけ。
さて、ユキカゼの改修が完了と、テイラーからコードが送られて来た。仮設基地建設から始まって、僅か72時間で完了とか…それ、大丈夫よね?
テイラーからは「万事順調、問題なし」とコード返信アリ。
君達はとにかく仕事が早すぎんのよ、褒めてんだけどね。
私はゲッコウと合流してタイタンへと戻る。そしてタイタンの大気圏へと突入し、エノシマ基地へと降下する。
仮設されたバース上でバラバラになって反転重力が剥き出しになっているフガクと、改修がほぼ完了し、主機ブロック部が開いてるユキカゼが見えてきた。その2隻の間に、ワタシ専用のバースが設けられている。
そこへ向かってゆっくり近づくと、バースの先端にある火の見櫓みたいな鉄塔の上で、メンテロボの誘導係が、空港の地上係員のごとく、赤色灯を振って接岸の指示を出してくれてる。なんてアナログなやり方なのか。なぜならば仮設基地のため、誘導システムが整っていないので、そんな事してる。でも有難いわ、ガタイが大きいので、細かい操船がムズイのよね。
微速降下
高度誤差−20
傾斜角修正5度
バース着底まで80…ロッキング用意…50、40、30、20…着底。
船底がガントリー懸架に静かに接触、地面に向けてアンカーを射出、船体がバースにロックされた。
ナガト主機、待機モード。
着底した私の船体に、ワラワラとメンテロボ達が取り巻いてくる。エーテル加圧炉とフガクの反転重力炉の接続作業が始まった。
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