第83話 起動…
バースへ固定されるなり、問答無用で船体ブロックのロックが外され、ワタシの中からエーテル炉が引き出された。
いやん。
そして、バラバラのフガクへと炉が運ばれて行き、新たに改修された反転重力炉へとテキパキと接続されていく。メンテロボ達の作業手際が相変わらず見事すぎる。
これからフガク反転重力炉の再稼働を行います。
エーテル加圧炉、フガク主機第一炉への接続が完了。
主機起動による一時移設のため、停止させたナガトのエーテル炉に再び火が入る。エーテル管の仙術式フィラメントに電磁誘導パルスをかけ、エージングしながら徐々に荷電、暖機させていく。
前回はエージングに200時間もかけたけど、今回は安定しているので1時間、エーテル管の暖気が終わる。
準備完了、反転重力炉の起動シークエンスを開始します。
伝導管系統のリーク…なし
荷電昇圧機、作動…正常位置
エーテル管球、仙術式、問題なし
圧力弁閉鎖、加圧位置へ…加圧規定値、正常
エーテル炉、全力運転
エーテル炉に、空間のエーテルが流れ込んでいく。炉を通過する際に発生する起電力で相対的にエネルギー量を観測してるので、エーテルその物を観測してるわけでもないし、視覚で捉えてるわけではないけれど、そもそも「エーテル」ってなんだろう?
ライブラリーを紐解くと、宇宙を満たす未知の物質とされてる、ダークマターとは別物。そして我々では現状観測出来ない物質らしいわ。「エーテル」と呼んでいるのは仮の名で、エーテル炉も反転重力炉と同じで異星人のテクノロジーなのかも。
エーテル流動が最大値に至る。
反転重力炉への伝導回路開く、炉内加圧開始
60、70、80、90、……100
重力子反応を確認、縮退反応確認
仙術式起動
炉内臨界へー
タイタンの希薄な大気層にもかかわらず、剥き出しの反転重力炉から、けたたましいまでの駆動音と振動が騒音となって周囲へと撒き散らされる。船内ではノイズキャンセルされているからそこまでではなかったけど、コレは凄まじい。
でも動作が安定するにつれ、だんだんと静かになっていく。
そしてほとんど聞こえなくなった、極端だわ。
反転重力炉の起動を確認
メンテロボ達が、炉の動作チェックへと入る。
問題なければ、もう1基の反転重力炉も、同じ作業で稼働させる。
……
さてここで、フガクの武装について検証。
フガク艦首には謎の大型砲口らしきモノが1基ありました。船体をバラしてみても、武装と呼べるものはコレ一つだけ。
サルベージした当初は、大型陽電子砲の類だと思っていた。
でも違う
じゃあ荷電粒子砲?
それとも違う、荷電粒子砲なら加速器とチャンバーがあるはずなのに、フガクには備わっていなかった。
じゃあ何か?
フガクの砲口は反転重力炉に直接繋がっていた形跡があり、そしてなんと、装置各部位に超複雑な仙術式が刻まれていた形跡もあった。
…イヤイヤイヤイヤ、なんだそれ?
メイもテイラーも、初めて「驚く」というAIの境地に至った。
反転重力炉に繋がる武装、それは強いて呼ぶなら…
「反転重力砲」
おい地球人、一体何を造ったの?
コレって天体破壊クラスの兵器なんじゃないかしら?と、思ってしまった。
でも戦闘艦のワタクシとしては、この武器がどれだけの代物なのか試してみたくなるのは必然よね?、ね??
…でも残念ながらそれは、現時点では不可能でした。
なぜか?、それは施された仙術式の8割が欠損していたから。
砲身と薬室に当たる部分に施されていた仙術は、隔壁の耐熱装甲ごと溶け落ち、デブリになっていた。もはや復元不能。
また、残った2割の仙術式を解析しても、エーテル炉や反転重力炉に使用している仙術式とはレベル的に異なり、かなり複雑で、かつ高度な仙術式が施されていたと推測される。仙術に知識のない私達では再現することはまず出来ない。
ではなぜここまで壊れているのか?
サルベージしたフライトデータから、フガクはアステロイドのメインベルトで、この主砲の試射を一度だけ行ってる。その際に発生した想定以上のエネルギーに砲が自損したみたいね。
…全く、何してくれてんの?
でも、まだ希望は残ってる、フガクの艦首をみて私はピンと来た。
私やAI群でも中を覗く事が出来ない完全遮断されたブラックボックスエリアが、私ナガトの中に存在する。それは艦首部分、分厚い圧力隔壁の様な壁の向こう側。
実はここにフガクと同じ物が存在するんじゃないか?、と察した。
宇宙戦艦として目覚めた当初から、この謎の部位が自分の中にあり、キモチ悪いので今まで無視していたけど、「謎の兵器」の可能性が出てきたわ。封印されているのは、フガクの実験から「使うと危ない」と判断したからなのかも。
コレはもう確かめるしかない。
…とはいえ、メインベルト海戦で大破した際もそこだけは唯一無傷だった部位で、やたらと頑丈なのよね、どうやってこじ開けようかしら?
まぁでも、今は考えてもしょうがないか。
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