第76話 実験…

 私達は「サルベージ作戦」遂行のため、あらゆる事を推測、想定し、事前に準備を進める事にした。


 さてどうするか?


 ヒントはSS1が送信し続けている識別ビーコン。エネルギーが強制的に無効化される領域でありながら、それだけが送られて来てる点に着目した。


 ビーコンは主エンジンからの電力供給を失っても、内臓バッテリーで連続1000時間は単体駆動出来るようななってる。このバッテリー駆動が虹色サルガッソー領域の影響を免れている可能性がある。

でも何故?、電気だってエネルギー。

どうしてだけは無効化されないのか?、それに電波、電波はまさにエネルギー放射、微弱過ぎるので対応出来ないのか、それまでシャットアウトしてしまうと、何か都合でも悪いのか?、…何となく後者っぽい。

虹色サルガッソーは、何者かによる人工的な領域だと考えてる。そうなると領域内で何らかの通信帯域を確保しているとのではないかと推測した。SSはその点に気づいて発信していると考えると、辻褄があう。メイも私の考えを可能性の一つとして支持してる。


ただ、同じビーコン帯域を使って、こちらから発信しても、SSから反応は返ってこない。

ビーコンは自動発信、SSはスリープ状態にあるのかも。


SS1が知らしめてくれたわずかな情報から、蓄積電気が使えると考えらなら、予めバッテリーに蓄え、電力を用いた推進力を用意すれば良いのでは?


 …と考えるところでは有りますが、その電気だけで、どうやって推進力を得るか?、と言う話になった。


 電気による宇宙空間での推進となると、イオンロケット。キセノンやアルゴンなどのガスを電気によりプラズマ化して噴射する事で、推進力とする。確かに電気式イオンロケットは、化学式ロケットより燃料が少ない量で推力が得られる。これは「比推力」というモノで定義され、イオンロケットは、化学式ロケットの10倍程度効率が良いとされてる。でも、今必要なのは単純に「推進力」、土星の重力圏を脱出するには、瞬間でもいいから爆発的な加速が必要になる。イオン推進機は地球の航宙艦でも運用していたけど、惑星重力を脱出するほどのパワーはないわ、だから航宙艦は燃料式ロケット推進も併用していた。

そもそも推進力としてプラズマを放出した時点で、領域に無効化される可能性が非常に高い。


 バッテリーについては直接推進力にする事は考えないことにしたわ。だからと言って、SS1のしてることを否定するつもりはないし、意味がないとは全く思っていないわ。蓄電の有用性がわかったのは非常に大きい。宇宙空間を移動する方法は、他にも幾つか手があるというだけ。


サルガッソー領域には他になにが有効で、何が無効なのか、どんな作用が起きるか、まず調べたいと思う。そこでいくつかの実験を行うことをマーキュリーズと協議した。


 実験にあたり、目標の領域を大雑把に区別する。


虹色サルガッソー領域外側、エネルギーが無力化される不可視の領域をα、そして拘束される虹色領域を、βと呼称する。


 まず最初に、光子魚雷。

 反物質ロケットモーターならばどうか?

 β領域の干渉を観測するために発射した。


 すると光子魚雷は、α領域に侵入した途端に推進力を失い流された。そのままβ領域に突入し捕らわれた。そして爆発もしない。どうやら反物質を無力化された様だわ、光子魚雷の起爆の仕組み上ありえない、何をどうすればそうなるのか…


 荷電粒子砲、並びに陽電子砲はどうか?


 α領域だけでも5,000キロも幅がある、β領域までは射程外、それでも試しに撃ってみた。するとどうか?、エネルギーがα領域内で霧散しましたわ、んー全く持って問題外。


 では極超音速ミサイルはどうか?、2発全く異なる撃ち方をする。


 ちなみに打ち込む弾頭は、地球では禁忌とされる「熱核反応弾」です。炸裂すれば土星リングを僅かにでも吹き飛ばせます。

 

 諸元を入力、起爆座標はα領域とβ領域の境界付近


 発射!


 1発目は、小細工無しの通常通り、炎の尾を引き、真っ直ぐに飛び、マッハ27に達する。

 しかしβ領域に入ると、ロケットモーターが緊急停止してしまった、燃焼推進にも作用するの?、なんだそれ?、起爆は?

 惰性で流れていったミサイルは…α領域に入ると、一瞬光った。

爆発…と思いきや、ミサイル本体はバラバラに砕け散っていた。

どうやら一瞬だけ、核分裂反応が起きたみたい。

でも、中性子線などの放射線は、私の方では観測されなかった。


ウソでしょ?、核反応をキャンセルした???


えーと、こんなのどうしろっていうのよ?、とは言え、今考えても仕方がない。


 次発を撃つ、諸元は同じ。


ただし、初期加速したのちにロケットを停止、そのまま惰性でα領域に突入させる。1発目と同じようにミサイルはそのまま真っ直ぐ飛ぶ、そしてβ領域に入る前で起爆


 でもミサイルは、α領域の時と同じ様にβ領域でもバラバラになった。


マジですか…ログは?、…チッ、残って無いわー

んーむむむ。


 次に岩石を試す。倉庫に置いてあった半壊したスイカ級からサンプル採取してあった直径1mほどの普通の岩石。今まで使い道もなく放置されていて、どこかで捨てようと思っていたので丁度良かった。

 シンデンで加速し、マッハ20で打ち出した。


 …考えてみたら、これってもはや隕石よね?


 α領域は通過する、β領域は?……通った!?


 そのまま、土星リングを構成している本来の岩石や氷塊と混じり合い、行方がわからなくなった。


これは有効そうだわ。


 結果から、サルガッソー領域は、放射的なエネルギーに対して、何か反作用的な事象を起こすみたいだわ。また、隕石の様なただ天体運動している物体には、作用しないみたい。その点はメイと意見が一致した。

 

 さて、どうしようかな?


 まぁ、色々確認したところで、私の中では答えは一つなんだけどね。

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