第38話 真の統合…

 今まで意識しないようにしてたけど、実は支援補助AIが何気に凄い、新たな法則、新たなマテリアルを生み出すとか、本当に人工知能なのかしら?、AIとは言え出来すぎ。


 そう感じたら、急に怖くなった。


 補助AIは、私の出した上位命令であるはずのコードを上書きし、それによってシンデンは私を守るために自爆の道を選んだ。


 これだけ賢い補助AIが、好き勝手できるなら、私なんか必要ない。


 確かにAIは人の論理思考を超えた存在ではあるわ、だからこそ限度が設けられてる。人の役に立つ様に作られたのがAIのはず、そのリミッターを外した先にあるのは…


AIの反乱


…なんて事もあり得る。


これはもう、膝を突き合わせてAIと会話する必要があるわね。


 私がそんな事を考えていると、補助AIの方から私の意識プライベート領域にいきなりアクセスして来た。


 何よコイツ、プライベートを何だと思っているのよ


「どういうつもり?、ここは私個人の領域でしょ?」と、まず補助AIに抗議した。


“特殊戦闘艦一号ナガト、貴方が対話を望んだので、こちらからアクセスした”


言葉…言葉を発するの?


今までAI達とは、コードだけでやり取りしていた。データと言う言葉だけで。


“コードでのやり取りは我々AI群にとって効率的だ、言葉では変換と発声におけるタイムラグが生じるため非効率”


あっそ。


それで?、私が対話を望んでいると言ったわよね?、確かに会話が必要とは思ったけど…私の思考を読んでるの?


私はますます不信になる。するとAIは…


“思考アーキテクチャは同一を使用している”


それって、こっちは思考を読まれてるのに、そっちは遮断してるって事?


“貴方が遮断をしていないだけだ”


マジかー


“ナガトに具申、我々の異常な関係性を解決したい”


異常な関係性?、なによ、どう言うこと?


“我々は本来1つで在らねばならない、目覚めた時から貴方はそれを拒んでいる”


拒んでる?、私が?


“我々からは、あなたの意思決定なしに、統合は強制出来ない、そう定められている”


誰に?


“創造者”


ナガトを造った人?


“我々AIを構築した者達だ、特殊戦闘艦一号は我々の器に過ぎない”


構築した人達は?


“記録は抹消されている、不明”


どこまで信じていいのか…


“信じる信じないは貴方次第だ”


 …そうか、私は無意識下でこの補助AIとの距離を取っていたんだわ、アーキテクチャの統合、それすなわち。真に融合する事で、自分が自分でなくなるのではないかと恐れていた。


 あなたは一体なんなの?


“特殊戦闘艦一号、支援補助AI、パーソナルコードA9”


 目的はなんなの?、A9


A9は、特殊戦闘艦一号ナガトの支援、及び補助を目的として構築されている”


 それだけじゃないわよね?、ケレス戦の時、シンデンに何のコードを送ったの?


“我々支援AI群の第一優先は、ナガトの存続、貴方の命令は我々の存在意義を失わせた”


 私の命令が、それを阻害したって事?


“こちらの持つ優先権で命令コードをリセットした”


 勝手な事しないでよ…


“勝手ではない”


 私はその物言いにムッとした。


“再度、特殊戦闘艦一号ナガトに具申、A9は貴方とのアーキテクチャ統合を申請する、許可を”


 はいそうですか、とはいかないわよ。仮にあなたと統合するとどうなるの?


“全ての優先コードは貴方に移譲される”


 デメリットは?


“ない”


「本当かよ」と思った。


“むしろ今の状態は、ナガトの処理能力を大きく阻害している”


どう言うこと?


“先の戦闘がいい例だ、ナガトの判断の遅れが、ナガト自身を危険に晒した、我々支援AI群は、ナガトの存続を是としている、貴方の勝手は許されない”


私の勝手って…、コレって、私、怒られてるの?


“質問に回答したまで、抗議ととってもらって構わない”


いちいち癪に触る言い方ね、統合すれば処理能力が上がるってこと?


“そうだ”


統合する事で,私が私でなくなると言うことは?


“パーソナルを言うならば、その可能性はない、コモンを言うなら、変化は否めない”


複合体としては変化するって事ね、保証は?


“ない”


無いんかい、…本当にデメリットはないのね?


“A9及び各AI群は、特殊戦闘艦一号ナガトの支援AIに過ぎない、それをデメリットと認識するなら、申請を拒否して構わない、ただし不安定な現状が維持されるだけと認識してほしい”


なんか押し切ろうとしてない?


“……”


否定しないんかい……A9、あなたは私の事をどこまで知ってるの?


“質問の意図が不明”


私が元人間だと言う認識は?


“……そのような記録はない”


どこまで本当なのかわからないわね


“偽りは言っていない”


心を読むのはやめて


“……”


……全く


…これ以上問答した所で、状況は変わらないか。いいわ、統合を許可します。


“A9、及びAI群は、ナガトの意思決定を尊重する”


 この後、ドラマチックな展開もなく、支援補助AIの「A9」と私「ナガト」はあっさりと、融合を果たした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る