第17話 ラグランジュ点へ…

 アルファ基地を飛び出す前、基地の発令所で無駄と知りながらもう一つ調べたことがある。それは…私が乗っていた高速水上滑空旅客機シープレーンの事故情報。大きな事故だったはずなので、ニュースソースぐらいはあるかもしれないと。

 ちなみに、ナガト艦内のメディアライブラリにはなかったわ、娯楽関係は潤沢にあるのにね。


 …調べた結果は言うまでもなく、アルファ基地の全記録を手繰っても、地球のニュースソースそのものがなかった。


 でも私はなぜか思う

 「まぁ、そんなものよね」…と


 何もかもが消失した世界。地球が栄えた文明を、存在ごと消そうとしてる意思を感じる。


 誰が?、地球人が?、異星人が?、もしくは……その答えはまだ見つからない


 発令所で入手した星図情報から、まずは第一目標のラグランジュポイントL5へと向かいましょう。


 ラグランジュ点『L5』

 そこは、月と地球の重力、そして慣性力の均衡が取れている場所。L5はその一つ。位置的には月の公転軌道上にあたる。

 その場所に、アルファ基地で発見したマップに謎のマーカーが記されていた。今の私なら一足飛びで辿り着ける距離。


 何せ主機の出力がデタラメに上がったので、巡航速度が秒速1万キロ、単純計算で地球から月まで僅か30秒で行けるんです。ですよ? フッフッフッ、地球の重力どころか太陽重力圏を振り切るためのスイングバイとか最早必要無いのですよ。


 さて、光学視認。

 L5地点に何か見えてきた。……かなり大きめの天体?、センサー分析の結果、小惑星クラスの天体を確認。…でも星図データにはそんな情報はない。分析するとその天体は、岩石タイプであり、サツマイモの様な形状をしてる。最大長約5キロ程もある小天体。…その小天体には何箇所か人工物が設置され、小天体の周囲には複数の金属物質反応、それが漂ってる。人為的に何処から運ばれてきた…と見るのが自然よね。


 減速して小天体まで距離100キロメートル手前まで近づく。コレでも警戒しての距離、そして索敵レーダーの範囲を広げ周囲を索敵する。


 超高精度分解能の光学望遠で目標の天体を観測すると、その地表面に一際大きな物体がめり込んでいた。それは基地とかではなく『航宙艦』、艦影で照会すると


 ……国連航宙艦隊北米同盟所属

「U.S.Sエンタープライズ」


 わぉ、メディアライブラリにある「宇宙大作戦」に出てくる深宇宙探査船?でも同じなのは名前だけ、円盤樽型じゃ無いし…、月で見たソ連艦と同じく、艦橋を低くしたイージス艦な姿をしてる。

 核融合エンジンは稼働してない、動生体反応は……やっぱり感じない。


 私はエンタープライズへ向け、ドローンを載せたゲッコウIIを飛ばした。



ゲッコウが目標に近づく。

岩石小天体に近づき過ぎないよう、周りを巡りまずは観測させる、確かに航宙艦が艦首から天体に突き刺さってる。艦尾に艦名を確認、平仮名で「えんたーぷらいず」と、刻まれてる…


は?なんで?平仮名?

 

 エンタープライズの状態についてだけど、兵装群は完全に破壊され、艦体中央側面には溶けて開いた大きな穴、艦橋指揮所部はもぎ取られたかの様に上層部まで抉られて消失してる。明らかに戦闘の傷痕が見て取れる…


 詳細に確認するため、ゲッコウからドローンを発進。ドローンをエンタープライズへと接近させ、ゲッコウは念のために退避。


 破壊された艦橋指揮所を探照灯で照らして見ても人影は見当たらない。ドローンを側面の穴へと向かわせ、今度は中を捜索する。残骸と塵が漂う船内、…しかし遺体はどこにも見当たらない、全員脱出したのかしら?


 CIC…戦闘指揮所

 扉は開かれてた。中に入ると装置類は全て破壊されていたわ。

 …んー、指揮所は戦闘による破壊というより、人為的に壊したような感じがする。ここまでやるなら、自沈させるのが手っ取り早いけど、脱出を優先したのかしら?


 私はドローンで、接続出来そうな端末を探した。どれも壊れていてダメだったけど、ある1箇所だけ、接続出来る箇所があった。そこは恐らく艦長席、その椅子の脇に、「イルミコン」と呼ばれる長々持続性発光体で作られたステッカーがほんのりと光ってた。その下にコネクタがある。国際宇宙標準のインターフェース。ドローンからコネクターを伸ばし接続する。


 私はそれが罠とも気づかずに…

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