第8話 私、星になる…

 私の船体はブースターとドッキングして全長800メートルにもなった。


 いやもうこんな生物見たことないわ。って、生物じゃねーわ!、私は宇宙戦艦よ!


 …誰もいないので1人ノリツッコミとは虚しい…


 …んん、さて行きますか、宇宙そらへ!


 本来なら海の上を地面効果で滑走して加速し、音速をはるかに超えた第一宇宙速度で衛星軌道に上がる。でもその海がない、どうにかして初加速時にブースター本体を浮かせなければならない。そこで考えたのが信管を外した極超音速ミサイル20本をブースター下部に取り付け、後は私自身の反重力を使ってブースターのお尻を持ち上げる作戦。極超音速ミサイルのロケットは大気中で最大マッハ28まで出せる出力を誇る。どんなロケットモーターを積んでるのかしら?


 少しでも脱出速度の助けになるよう、地球の自転方向に頭を向ける。ブースターさえ最後まで耐えきれば計算上はいけるはず。


 ドキドキするわ、心臓ないけど。


 冷却機能が働かないからブースターが耐えられるかは博打、せめて海水でも有ればぶち込むんだけど、そんな物はないしこのままやるしかない。

 幸いにも他は問題なし、冷却剤以外の燃料供給漏れなし。

 ナガト、行きまーす!


 点火30秒前


 風速25メートル強風、追い風、いい感じ

 進路クリア


 点火10秒前


ターボポンプ作動、燃料供給開始。同時に20本のサブブースターを点火、轟音を轟かせ、船体がゆっくりと浮き上がる。


 …メインブースター点火5秒前、4、3、2、イグニッション


 ロケットエンジンが点火され、爆発的に吠える、その勢いは後方の地面を吹き飛ばした。


 スタート・オブ・グライド


 全長800メートル、総排水量12万8000tの巨体が、加速を開始した。


 地上の岩石を吹き飛ばし、あっという間に音速を超える。その衝撃波ソニックブームは恐らく災害に近い。こんなものを、当時の地上で使おうとしてたの? 考えた人達は頭おかしいわ。


 ブースターの水平翼フラップが駆動し、艦首が上を向く、脱出速度のマッハ30まで一気に加速、…でもメインブースターノズルが限界を超えた高温になってる。ヤバイ。


現在高度45,000


 補助目的で取り付けた20基のミサイルブースターが燃焼終了、ここで切り離す。少しでも軽く…でも船体そのものが重い、スタートから8分経過、普通のロケットなら宇宙空間へ到達してる時間、でも通常より初期滑走距離を伸ばさざるをえなかったので、弾道角度を低く設定されている。まだ高度が足りない。修正計算では衛星軌道到達まで後5分かかる。ブースター周囲の耐熱装甲板が溶け始めた、後付けミサイルブースターで稼いだとは言え、メインブースターの燃料消費が計算より早い、どこからか燃料が漏れ出してるのかも、最早時間との勝負。


薄くなった大気の上、宇宙空間が見えてきた。あと少し


高度100,000、カーマンラインへ到達


メインブースター君、後7秒耐えて欲しい…


 でもそんな私の願い虚しく、次の瞬間


警報!、振動と衝撃


ブースター2番、4番、6番がいきなり爆散した。ダメージコントロール!、…燃料が大量に流出、このままだとブースターが爆発してこちらも巻き込まれる!、ええい仕方ない!!


ブースター緊急パージ!


 爆発ボルトが作動し、大型ブースターを切り離した。ふぅ、外れなかったらどうしようかと思った。


 火を吹き落下して行く巨大ブースター、ここまで運んでくれて「アリガトウ」


 うー、でもあともうちょいで宇宙なのに……僅かに高度と速度が足りない、やむ負えないとは言えブースターを予定より早くパージしたのが痛い、このままだと地上に舞い戻ってしまう。


 その時だった、切り離したブースターの残存燃料が引火した。凄まじい大爆発が下方で発生する、まるで核爆発。

 熱と衝撃が下から突き上げて来て、船体が僅かに加速する、それがちょっとした助けになった。


 ここぞとばかりに自身の主機を壊れそうになるほどに全力運転。


 私の心臓が吼える、私は再び第一宇宙速度に入り、高度350,000到達、ギリギリ衛星軌道に乗る事に成功した。

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