終章 フォロワーから正式な恋人へ
こうして僕らは仮ではなく正式に付き合いはじめたわけだが、では具体的になにがどう変わったのかというと、特になにが変わったわけでもなかった。
仮交際なのにお互いの家には行き来していたし、キスもしていたからだ。これ以上の関係になるとすれば、身体の関係を持つことになるわけで、さすがにそれはまだ早いかなという気がしている。
強いて言えば嘘をつくような後ろめたさを感じずに「つゆりと付き合っている」と堂々と言えることくらいか。
むしろ、初恋の少女とつゆりが同一人物だと知ったことで心置きなく付き合えるようになったという面の方が大きいかもしれない。
さて、キスをした後の僕らだが、心のつかえがとれたせいか、恋人と同じ部屋で隣同士という特異な状況にも関わらずぐっすりと眠ることができて、目が覚めると外はすっかり明るくなっていた。
「ねえ、朔くん。せっかく正式に付き合いはじめたことですし、今日はデートに行きませんか?」
起きてまずつゆりが目をこすりながら聞いてきたのはそんなことだった。寝乱れたシャツが捲れてあちこち見えている無防備な姿から僕は目を逸らし気味に答える。
「デートに行くのはやぶさかではないけど、今日はゴールデンウィーク中だぞ。どこ行っても人ばかりなんじゃないか? せっかくのデートを人混みに揉まれた思い出にはしたくないんだよな」
「うげー、言われてみればそうですね。人混みに酔いそうですし、並ぶのも嫌なんで、デートらしい行き先は避けた方が無難かもしれないです」
「それでどこに行く? つゆりの行きたいところなら僕はどこだって行くけど」
つゆりは顎に手を当てて「うーん」と考え込む姿勢を見せたが、やがてポンッと手を打った。
「日本橋に行きましょう! 普段よりは人多いでしょうけど、難波の方に近づかなければ大丈夫なはずです」
「よく考えたら最初のオフ会以来行ってないもんな。と言ってひと月も経ってないわけだけど」
「私たちのリアルでの関係が始まった記念すべき場所なわけですし、初デートの行き先としてはピッタリじゃないですか! そうと決まったら支度ですね」
起き上がるなり無防備な格好でドタバタしているつゆりを僕は軽くたしなめる。
「支度より先にまず朝食と布団の片付けだろ。日本橋まで急いで出てもまだ店は開いてないだろうし、先にそっちをするぞ」
「朔くんとのデートが楽しみ過ぎて朝食のことすっかり忘れてました!」
舌を出して「てへ」とおどけてみせるつゆり。寝起きとは思えないテンションの高さだ。
呆れつつもかわいらしい仕草にいちいちときめいてしまう自分がいる。
「朔くん、これから毎日楽しみですね!」
僕の二年来のフォロワー、そして昨夜から正式な彼女になったつゆりは今日もかわいい。
〈おわり〉
オフ会から始まるラブコメ 逆瀬川さかせ @sakasegawa
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