第19話 サンドウィッチ(ひよりさん特製)
つゆりが顔を洗って戻ってきたところで、僕らはいつものように連れ立って屋上へ向かう。つゆりはずっと寝ていたおかげか、スッキリとした顔をしていた。
「やっぱり新作は徹夜で描いたのか?」
「昨日の夜8時くらいに描きはじめたんですけど、止まらなくなって勢いのままに完成させた時には外が少し明るくなってました」
「絵に描いたような徹夜だな」
「実際、絵を描くための徹夜ですし」
「創作活動に励むのはいいことだけど、睡眠時間はちゃんと取れよ。下手すると死ぬぞ」
「それはわかってますし、身体のこと考えてエナドリも飲むのは辞めたんですけど、描いてるとつい楽しくなっちゃって」
「LINEだと見ない可能性があるし、今日から毎晩9時に電話をかけることにするか」
「お願いします。朔くんの声を聞きながら寝たら、夢に出てきてくれそうですし」
「電話越しにお経を唱えてやれば寝れるかな」
「成仏でもさせる気ですか?」
「寝不足が続くとほんとに仏になるぞ。なりたくないならちゃんと寝ろ」
今日の昼はサンドウィッチだ。たまごサンドにツナサンド、レタスサンドと普段の弁当と比べるとカラフルだ。だが、パンが不揃いだし、具がちゃんと混ざっていなかったりで、こう言っちゃ失礼だが全体的に雑な印象を受ける。
「今日はパパが忙しかったので、お姉ちゃんがつくってくれました」
「ふーん」
「お姉ちゃんは料理ができないので、失敗のしようがない料理ということで、サンドウィッチにしてもらったんです」
「なるほどな。道理でパンの形が歪なわけだ」
「そのままにしとくと、暗黒物質の玉子焼きをつくられたり、塩の代わりに重曹を入れられたりしかねませんから」
「昔のラブコメの料理下手ヒロインかな?」
「昔、パパにお弁当をつくっていったら、食中毒でパパが病院送りになったことがあります」
「それ、シャレにならなくない?」
「お姉ちゃんは、動画でネタにしてますよ。案の定炎上しましたけど」
サンドウィッチですら、つくらせるのが怖いわ。
「安心してください、このサンドウィッチは家族全員の監視下でつくらせたものですから!」
「それ、もう他の誰かがつくった方が早いんじゃないか?」
「つくらせてから気付きました」
サンドウィッチをつまみながら、僕はつゆりに尋ねる。
「そうだ、今度の日曜なんか予定あるか?」
「特にないですけど。デートのお誘いですか?」
「いや、デートではないんだけど……」
僕は今朝の友人たちとのやり取りを説明する。
「私の新作がきっかけで朔くんがまた女装することになったなんて、徹夜で描いた甲斐があるというものです。日曜日が楽しみですね、えへへ」
「でもさ、どこで女装するよ。アイツらに女装を見せるにしても、僕や君の家に連れていくわけにもいかんだろ」
つゆりとあいつらは直接面識があるわけじゃないし、かと言って僕の家で女装するわけにもいくまい。
「そんなの簡単ですよ。私の家で着替えて、そのまま女装でお出かけすればいいんです」
「正気か?」
「大丈夫ですよ。朔くん、もとい、さっちゃんなら、かわいいから男だとバレませんって」
「さっちゃん言うな」
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