第14話 1000RTされたら女装する

 処置を終えて保健室を出たところで、僕はまた改めてつゆりに頭を下げて謝罪をした。

「ほんっとにごめん! あんな痛い思いさせて、許してもらえるとは思えないけど、僕にできることならなんだってする」

 つゆりの態度からして、とっくに僕のことを許してくれているとは思うが、ケガをさせてしまった以上、なんらかの形で償わなければ僕の気持ちが済まない。

「ん? 今なんでもするって言いましたよね? じゃあ、セッ――」

「一応僕のできる範囲でのことだ。えっちなことはダメだぞ?」

 つゆりが目を輝かせて、おかしなことを口走りかけたので、僕は先制する。

「そうですか。うーん、残念ですね」

「どこが残念なものか」

 そうは言いながらも、もしそのままつゆりの言葉に応じていたら、どうなったのだろうと、思わないでもない。

「朔くんのできる範囲で、やってほしいことですか。うーん」

 つゆりは顎に手を当てて考え込んでいたが、なにかひらめいたようだった。

「あ、いいこと思い出しました。じゃあ、この約束を果たしてもらいましょうかね」

 つゆりはスマホを操作すると、一枚のスクリーンショットを見せてきた。

 Xのアカウント「SK」のツイートである。ツイートの内容は以下の通りだ。

『僕に彼女なんかできるわけないだろw 賭けたっていい。もし彼女できたら女装してやるよw』

「これは、朔くんが『崇徳院すとくいん』というユーザーとのやり取りの中でツイートしたものです。崇徳院からの『SK殿は顔がいいから、彼女くらいいてもおかしくないであります』という内容のツイートへの返信ですね。もちろんご本人は覚えておいでだと思いますが」

「たしかにこれは僕のツイートだけど、厳密に言うと君はまだ仮の彼女だし」

 僕が反論すると、つゆりはぴしゃりとこう言った。

「うるさいです。つべこべ言わずに女装してください。なんでもするって言ったのはどなたでしょうか」

「えっちなことだけじゃなくて女装も除外しておけばよかったな」

「朔くんみたいなかわいい男の子の女装はえっちだと思いますけどね。えへへ。ご飯が何杯でもいけちゃいそうです」

 なにを思い浮かべているのがニヤニヤとするつゆり。

「じゃあ、除外でいいか?」

「違います! 女装だけなら健全です! 全年齢向けです!」

「健全なのかなあ。それにしても、なんで君はそんなに僕を女装させたいんだ」

「そんなの決まってるじゃないですか。朔くんの女装を愛でたいからですよ!」

「実にシンプルな答えだな。トートロジーかよ」

「あとは、朔くん自身のためですね」

「僕のため?」

「私思うんですけど、罰ゲームとして女装を出してくる男は心の底では女装したがってるんですよ。本心では女装したいけど、そう表明するのは変態みたいで抵抗があるから、罰ゲームという大義名分が欲しいわけなんですね。我々には彼のその想いを汲みとって女装させてあげる義務があるんですよ。あと、このツイートも忘れてませんからね」

 我々って誰だよとツッコむ間もなく、つゆりはスマホの画面をスクロールして、また別のツイートのスクショを見せてきた。

『1000RTされたら女装する』

「複数アカウントで爆撃して1000RT突破させてあげたんだから、とっとと女装してください!」

「嫌だよ。てか、普段のツイートなら全然RTもいいねも付かないのに、なんでこれに限って1000RT行くんだよ」

「いやー、人助けをすると気持ちがいいですねえ」

「見るからに爆撃垢っぽいのからRTされるなと思ったらお前かよ!」

「というわけで、女装しましょうね♡」

「なんでもするって言った以上、しょうがないけど、嫌だなあ」

「そんなこと言って、実は『女装したら僕かわいいかも』くらい思ってますよね。鏡を見たり、自撮りをするのも嫌なくらい、自分の顔に自信がないのに女装したい、かわいくなりたいというその男心、わかりますよ」

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