第4話 マウント!元彼退治!

 という事で、私は彼を家に入れた。

「――!?」


 しかし、彼は玄関で固まったままだ。そこまでピンクピンクしてないし、白色をうまーく混ぜている部屋なのだが、ダメだったのだろうか。


「なんだここは」

「部屋。家の中の」

 そう言ったが、男は少し考えこんでいた。


「俺達の家は藁とベッド……あとは財産入れと宝だけだった。」

「これが普通だよ。ほら入って。」

 動揺しているが気にせず中に入らせる。よく見たら裸足だな。



「適当にくつろいで」

 私は彼を座らし、いつもの癖でユーチュットラを起動した。



「なんだこれは」

「ユーチュットラだよ。動画サイトっていう動画がみえるんだよ。サブスクもあるよ」



「ユーチュットラ?サブスク……」

 男は人の声が聞こえるタブレットを興味深そうに覗いたり、触ったりしていた。


「なんか飲む?」

「なら、水がほしい」

 コップを渡すと、彼は犬のように舐めていた。イケメンだが、結局中身はドラゴンという訳だ。



 さて、この男とどう暮らしていけばいいものか。

「私の名前はスミレ。で、貴方の名前は?」

「ない。アイツみたいに好きな名前で呼べばいい。」


 うーん、どうしよっかなぁ。

 コロとかポチみたいな犬の名前はなんかなあ。なんかカッコイイキャラクターみたいな感じでもいいが。


 その時、スマホとタブレットが同時に鳴り出した。誰かしら電話をかけてきたらしい。


 アイコンを見た私の顔は反射的に引きつった。


「どうしたんだ?これが変な動きをしているが」

「あー大丈夫。そのままにしといて」

 男は変に警戒して牙をタブレットに向けているし、こいつはこいつで出ないと何回もかけてきてうるさいんだよなぁ。



 私は仕方無く電話を取った。

「なに?」

「あーあ俺俺、寂しいかなって思ってな。お前まだ俺のこと好きだろ?」


「あ?」

 太く低めの声を出し、明らかに嫌っているオーラをだす。相手はそう、元カノのユイトだ。


 あの男は大学の初期に付き合っていたが、最初に言った通りバイトの女に恋して振るとかのクズだ。


 そして、定期的に俺のことをまだ好きなんだろ?みたいなことを言い、自分の自己肯定感を振った女で満たすとかいうクズのクズだ。



 その女と付き合ったのかは知らないが、この様子を見るにまだっぽい。

 前まではあんなに好き好き言ってたのに今ではこのザマだ。



「最近何してるの?聞いたよ、今日色々あったんだろ?話聞こうか?」

「……」

 クズ男のテンプレを言うとは完璧なクズっぷり。お前に話す事はないが、ストレスのサンドバックとしてたまに使っている。


 それで変に勘違いさせたままなのかもしれないが。


「学親会やめたってだけ」

「え、あんなに働いてたのに?お前っていい聞き役じゃん」

「もうあの空間無理だから。私いなくなってもなんとかなるでしょ」

 この男は私のことを分かっているという雰囲気を出すのが好きだ。まぁ1年ちょい付き合ってたからバレなくはないが、あんなことをしておいてその態度は腹が立つ。



 そして、目の前にいる男は何があったのか心配そうにしている。



 ……この時、アイデアが降ってきた。

 流石に電話でニヤニヤと喋るこいつを泳がしすぎている。そうだな、そろそろ切りどきだろう。


 このイケメンがきたのも、私のご先祖様がその男の息を止めてボコボコにしろと言っているのかもしれない。



「あー、そういえば私彼氏できたから。もう電話しないでくれる?」

「は?どうした?妬いてほしいのか?」

 私はそのまま電話を切り、男に向かった。



「そのままで、動画の方見てくれる?」

「わかった」

 私はすぐに写真を撮った。肖像権はドラゴンだし無いだろうがいちよう取るか。この情報社会だし。


「これ使っていい?」

「いいが。俺を絵に描いたのか?速いな」

「これは写真って言って一瞬で絵が描けるようなものね」


「なるほど。」

 タブレットに共有すると男は物珍しそうに見て、拡大したり他の写真を見たりしていた。


 その様子を見るにこの世界のこと色々と教えてあげないといけないな。



 まぁ許可も撮ったし、私はすぐに写真を送り付けた。

 あの自分のこと好きだろ?とかいうナルシストくんには自分よりの上のイケメンを殴りこませ、そこからは触れないで冷たくするのが吉。



 そうマウントだ。まぁユキトが自分のこと好きすぎたら意味ないかもしれない。あいつはまだ彼女いないから見せつけるようなイチャつく感じが良いかな。


 そうだな。その線もある。

 私はすぐにドラゴン男の元に行き片腕で肩に手を回し写真を撮った。


「どうした」

「少しね。これも使っていいでしょ?」

 許可を取り、それを送り付けて、「2度とかけてくんな負け犬。だから中々付き合えないんだぞ。これ以上言うなら毎日送ってやるわ」

 よし。


 しばらくして見ると、既読がついたっきり何も来なかった。

 なにを考えてるかはしらないが、来ないということはまぁ勝ったという訳だ。


 ユキトなどこの世にはいなかったんだ。うん、ならその名前をどう使おうが構わないだろう。



「よし、貴方の名前はユキトね!」

 私がクソ元カノを退治し、1つの過去を乗り越えた勝利の証だ。まぁやり方はアレだが、これでよしと。


 あいつを潰せるならどんな手でも使ってやろう。まぁしばらくリア充っぽい事をするのも楽しいかもしれない。何ヶ月か一人っきりだし。



 そんなことをしていると、もう七時になっている。そうだ、ハロープの半額セールの時間だな。ご飯の材料も足りないし、勝ったお祝いにしゃぶしゃぶでも食うか。


「よし、ユキト。行くところがあるからついてきて」

「あぁ、構わない」

 こうして私達はハロープに出かけていった。こうしてしょうもない戦いをしょうもない方法で制したスミレは笑顔でユキトの手を引いていた。

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