第3話 やべーストーカー
「何を言ってる。俺をエレ……ブル?みたいな名前をつけたのはお前だろ。もう忘れたが。」
「……??? 絶対人違いです。」
どんなイケメンでも、変な事を言い問い詰めてくるのは普通に怖い。それに、これまでの男の経験もあって恐怖しかなかった。新手のストーカーかな。
「この姿だから分からないのか?あの街の肉を食うにはこの姿が都合よくてな。お前が死んでから人間の姿を身につけた。」
「……いや、本当になんのことですか。」
私はサラッと言うと手を払いのけ逃げ出した。
「ちょっと意味が分からないです。さよなら!」
「待ってくれ」
彼の言葉を背後に私は走りだした。私の家は10分くらいの場所だ。後ろには誰も来ていない。広い田んぼ道を駆け抜けていく。
その時、大きな影が頭上を泳いだ。鳥とは比べものにならないくらいの翼、尻尾がみえてしまった。
「グギャアアアアアアア!!」
「いやああああああああ!!!」
そして、この世にいるはずのないドラゴンが当たり前のように翼を広げて前に立っていた。
あー、夢でもみてるのかな。
私の目は泳ぎながらも、生き抜くために後ろを向いた。しかし、足が絡まり転んでしまう。
痛みが確かにある。夢じゃない……だと……
食べられて終わるの?まあ変わった死に方だし。いいかもしれない。
私はただ死を覚悟して目をつぶった。しかし、ドラゴンは動かない。少し時間が経ち、擦りむいた痛みにうなされていると足音が聞こえ目を開く。
人が来た! こんな田舎に人が!田んぼしかないのに!助けてもらおう!そんな期待をすぐに裏切るように、さっきの男がいて、目が合った。
「……」
詰みだ。ドラゴンと新手のストーカーとか詰みの詰みだ。
「大丈夫か。」
「もう好きにしてください。なんでもいいです」
私は手を挙げた。白旗だ。
男は座り込み何かをしていた。何をされているのだろうと恐る恐るみると、擦りむいた傷跡が塞がっていく。
「お前、覚えてないのか」
「……」
男は少し寂しそうにしながら呟き頷いた。
「わかった。全て話す。俺の事もお前の事も」
そういうと、男は私を立てらせた。とりあえず、彼の誤解を解かなければならないが……それよりも強大なドラゴンとかいう難題がある。
「あれ……」
だが、ドラゴンはどこにも居なかった。
「さっきのドラゴンは?」
男は何を言っているのかと言いたそうに首を傾げていたが、何かを思い出したかのように微笑んだ。
「その名前、懐かしいな。それは俺のことだろう。人は俺をそう呼んでいた」
「なにいって……」
そう言うと、男は軽く息を吸い、目を見開くとさっきの姿になった。
「……」
「グギャ!!」
「どぅらぁごぉっん!!」
もうカオスだな。
ストーカーとドラゴンが合体したら、やべーストーカーとしか言いようがない。とんでもないものがこの世にきてしまった。現実にいたらいけないものが目の前に居るということか。
「あ、あの。わかったのでさっきのに戻ってください。」
「あぁ」
すぐに彼は姿を変えた。
「とりあえず歩きながら話してください」
「わかった。だが、そんなに長い話しではない。俺はお前と共に魔王を倒した。そして、お前が死んで、この世界で生まれ変わったから会いに来た。」
何を言っているんだろう。中二病としてはあっさりしてる。いや、姿を変えられるんだから中二病ではなく危ないやつだ。
異世界やらなんやらはとっくの前にブームが過ぎた。だが、世代は世代だったからなんとなくは分かる。魔王がいて、勇者が仲間を引き連れて攻略するんだよね。
「で、その勇者が私だと?」
「あぁ、俺はお前と共に生きてきた。間違える訳がない。」
男は確信があるように言っているが、私からしたら頭が痛くなるような話しだ。
「お前と出会ったのは、あの時」
なるほど。世界を違えてまで追いかけたくなるような深い理由が彼にはあるのかもしれない。私は息をのんだ。
「俺の親を殺し、孵化したばかりの俺をお前は盗んで餌付けした」
「……」
え、クソじゃん。勇者くそじゃん。
なに嬉しそうに語ってるんだよ。こいつ。
「俺の親は魔王軍の仲間だからな。だから、何の感情もわいていない。魔王は悪だ。泣きわめく俺にお前は色々正しいことを教えてくれたんだ」
「それってただの、洗脳なんじゃ……」
「お前との旅は楽しかったな。人はみな絶望していたが、俺とあいつにとっては楽しい日々だった。魔王の仲間を倒せば勇者は褒められ、魔王の仲間の獣を食えば褒められる。本当に良い日々だった。」
まぁ、そんなに楽しいかったなら勇者に会いたくなるのかもしれない。まぁ、道徳的に勇者はあれだけど。
「平和な世界になったら、お前は俺とゆっくり暮らしたいと言っていた。だが、人の体には旅は酷だったようでな。……だから、お前は言った。生まれ変わったらまた会おうと」
彼の想いも分からなくはない。確かに、家族のような友達がいなくなったら悲しいだろう。勇者もこんなことになるとは思うまい。
「……それでわざわざ来たと。あなた、家は」
「お前が残した家があるが、ここにきてしまったからな。もう帰れない」
どうしよっかなぁ。一人暮らしなんだけどこんな得体の知れない物を家に住まわせても良い物か。
そのとき、大学の生徒らしき人が横切った。
「待って待ってすっごくイケメンじゃない!?」
「えっ、もしかしてあの子付き合ってるの?いいなぁ」
こそこそ話しているが私の耳にはいってきた。そして、あの憧れの目線。
この引きつける魅力を持つ彼。この底辺で嫌なことばっかの私に現れた変な縁。
よし、使おう。このイケメンを。
「もう~仕方無いなぁ。じゃあ家おいで」
「あぁ、ありがとう」
こうして、クズの被害者とクズの線を反復横跳びする女の生活が始まった。
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