第50話 平和な時間

 シンクが産まれ、三日が経過した。


 カグヤは、すっかりお母さん気分のようだ。


 シンクも、カグヤをお母さんだと思ってるのだろう。


 ずっと、カグヤの後を必死で追いかけている。


「ピー!ピー!」


「シンク、どうしたの? さっき魔力あげたばかりじゃない?」


「ピー!」


「はいはい、俺がやるからな」


 シンクを抱き上げ、魔力をやる。

 すると、あからさまに不機嫌な表情になった。


「ピー……」


「なんだ、その仕方ないみたいなツラは……」


 俺も嫌われているわけではないが、やはりカグヤの方が良いらしい。

 子供とは父親より、母親に懐くものか。


「グルルー!」


 すると『ご主人様には僕がいるのだ!』という気持ちが伝わってきた。


「そうだな、俺にはハクがいるもんな」


「ピー!」


「クロウ、もう良いって」


「おっ、そうか。ほら、遊んでこい。ハク、任せるぞ?」


 俺がシンクを床に下ろすと、ハクがシンクを咥えて庭に行く。

 その姿は、まるで子供を運ぶ親猫のようだ。


「ピー!」


「グルルー」


 ドラゴンとトラが庭で遊んでいる、よくよく考えたらすごい光景だな。

 空の覇者と森の王者が一緒にいるとは……野生ではあり得ないことだ。


「なんだか平和ね」


「なんだか平和だな」


 俺とカグヤの声が重なった。


「エヘヘ……」


「ハハ……」


「良いのかな? こんなに幸せで……」


「一つだけ言えることがある。戦場で生きてきた俺からすれば、休むときはしっかり休んだ方がいいということだ。まだまだ、問題は山積みだしな」


「そうよね……ずっと神経張り詰めてたらダメよね。本当に、クロウが居てくれて良かったわ」


「気にすることはない。俺とは違いカグヤは考えることが多いだろうからな。戦うことや守りに関しては任せておけ。カグヤの答えが出るその日まで、俺は君を守り続けよう。もちろん、答えが出た後もな」


「クロウ、ごめ……ううん、ありがとう……その時は頼らせてもらうわよ?」


 カグヤはモジモジしながら、言葉を選んでそう言った。


「ようやく、俺の扱いがわかってきたな? そう、それでいい」


「もう、クロウったら……あのね、私が何者でもクロウは側にいてくれる?」


 きっとあの宰相との会話のことだろう。

 どうやら、カグヤには何か秘密があるらしい。

 ……そして、この俺にも。


「ああ、もちろんだ……


「うん! エヘヘ……」


 カグヤの頭が、俺の肩に寄りかかってくる。


 俺には、自分では知らない秘密があるのか。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。


 俺の願いはただ一つ……カグヤを守ることだ。


 そのためだったら、俺はどうなろうと構わない。

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