第48話 仲間との再会
出かける準備をし、治療院へと歩いているのだが……。
卵を抱えたカグヤは、すこぶるご機嫌な様子だ。
「ふふふ〜ん、この子の名前は〜なにかな〜? レッド君〜? レッドちゃん〜?」
「ん? レッドなのか? 単純すぎやしないか?」
……ハクから『え?オイラの立場は?』という視線が送られる。
だが、俺はあえて無視する。
それはそれ、これはこれだ。
「な、なに聞いてるのよ〜!?」
「いや無理あるから。こっちは隣にいるんだぞ?」
「そこは……聞こえないふりよ!」
「無茶だろ!?」
「むぅ……」
……まあ、楽しそうだからいいか。
そして治療院に入ると、中は人が溢れかえっていた。
包帯を巻かれている者、担架で運ばれる者、ベットに蹲る者など。
「これは……流石は、国の守りの最前線ということか」
「す、凄い怪我人の数……私って恵まれてるのね。クロウっていう、強くてカッコいい……こ、恋人がいるんだもの」
「こ、恋人……!?」
「にゃ、にゃによ!? 違うの!?」
「ち、違くない! ……そうか、恋人なのか」
ジーン……胸にこみ上げるこの気持ち。
側にいるとか、大切とか、愛してるとは言ったが。
……俺、肝心なこと言ってなくないか?
「そ、そう! ならいいけど……」
「カ、カグヤ! 俺と付きあってくれ!」
「ニャー!? 急ににゃによ!?」
「い、いや、きちんと申し込んでいなかったと思ってな」
すると、ガクヤが口をもごもごとさせる。
「ふ、ふ〜ん……もう、気づくの遅いんだから……」
「ん? どうした?」
「なんでもないわ! つ、付き合ってあげる!」
俺が喜びに震えていると、辺りから拍手が起きた。
ふと見ると、いつのまにか人々が俺達を囲んでいた。
「おお〜!」
「ヒューヒュー! お熱いね! ご両人!」
「にいちゃん! 良かったな!」
あちこちから、そんな声が送られる。
というより……この俺が気づかないとは、相当上の空だったようだ。
「もう帰る! うわーん!」
「待て待てい! 卵抱えて走るんじゃなーい!」
その後、恥ずかしがって帰ろうとするカグヤをなだめるのだった。
少し時間をおいて、再び治療院に向かう。
すると近くから、聞いたことある声がした。
「クロウ様!」
「あれ?確か……アリスだったか?」
振り返ると、ナイルの妹のアリスが俺の近くに寄ってくる。
「はい! 覚えていてくださったのですね!」
「むむ……! こ、こんにちは!」
何故か、カグヤが膨れている……つついたら怒るか?
……怒られる未来しか見えない。
「カグヤさん、こんにちは」
「むむむ、余裕あるわね……スタイルも良いし」
も、もしかして……嫉妬でもしているのか?
いや、たしかにスタイルも見た目も良いとは思うが……可愛いのだが?
「団長!」
「お、ナイルか……団長?」
手を振りながら、ナイルが駆け寄ってくる。
その後ろには見知った顔もいた。
「おっ、隊長だ! いや、団長か!」
「隊長! お久しぶりです!」
「バカ! 団長だっつーの!」
「お、お前ら……!」
そこには、かつての部下達がいた。
俺は、思わず駆け寄ってしまう。
「団長! 追いつきやしたぜ!」
こいつはダン。
黒髪黒目の大男で、年齢は三十歳を超えている。
だが年下の俺を舐めることもなく、よく隊をまとめてくれていた。
「団長! こんにちは! 僕もきましたよ! 貴方は、僕の目標ですから!」
こいつはゼノ。
黒髪黒目の少年で、年齢は十六歳だったはず。
よく俺を慕ってくれ、剣の才能があるので俺が稽古をつけていた。
「やれやれ……どーもです、団長。お互い生きてて良かったっすね」
こいつはローレン。
青髪青目の青年で、俺と同じくらいの年齢だ。
容姿が整っており、性格も陽気で、隊のムードメーカーだった。
そこそこの魔法を使える。
「みな、生きていてくれたか……! だが、団長とは?」
「すみません、団長。俺が作ったのです。貴方の力になりたくて……いずれ、戦力が必要となった時のために。我々は、貴方に恩を返したいのです!」
「ナイル……アレは、もう気にするな。それに、悪いが俺は……」
もう、誰かを頼るのは怖い。
裏切られるのもそうだが、大切な仲間たちを巻き込むことが。
「わかっています、裏切りなどを恐れているのですよね? でも、こいつらは天涯孤独の身です。それに、ご一緒いたしません。いざという時に、駆けつけるだけです……なあ、みんな?」
「おうよ!」
「はい!」
「そういうことっす」
四人の目は本気で、俺の意思では変えられそうになかった。
すると、ハクとカグヤが近くに寄ってくる。
「クロウ、その人達も友達なの?」
「戦友で、俺の背中を預けられる奴らだ。皆、この子はカグヤという。皆のおかげで、助けられた幼馴染だ」
俺がそういうと、三人がガクヤの前に出て自己紹介を始める。
「 お嬢さんが、団長の想い人ですな? 初めまして、ダンと申します」
「初めまして! ゼノといいます! 可愛らしい方ですね!」
「どーも、ローレンです。団長って、こういう子が好きなんすね」
「は、初めまして! カグヤと申します! ク、クロウの恋人です……はぅ」
カグヤが恥ずかしそうに自己紹介をした。
すると、三人が俺をニヤニヤと見てくる。
「おやおや……」
「これはこれは……」
「ヒュー」
ほう、俺をからかっていると……なるほど、少し喝を入れる必要があるか。
「おい、ニヤニヤするな——ぶった斬るぞ?」
「「「すいませんでした!!!」」」
「全く、お前達ときたら……だが、会えて嬉しいぞ」
そう言うと、三人がニカッと笑うのだった。
その後、軽く談笑をし、ひとまず解散となった。
奴らでパーティーを組み、依頼を受けるそうだ。
アリスも多少だが、魔法を使えるらしい。
俺たちも、治療院での依頼を完遂して帰宅する。
「エヘヘ、楽しそうな人達だったわね。うん、私も仲良くなれそう」
「うん? まあ、気の良い奴らだな」
「私も、仲良くしてもいい? クロウの話とか聞きたいもん……なんて、ダメだよね」
「カグヤ……俺は、君が一番大事だ。だが、君を籠の鳥にするつもりもない」
カグヤをどこかに閉じ込め、俺が一生守ることは簡単だ。
だが、それではガクヤが幸せになれない。
俺に出来るのは、カグヤの望みを叶えた上で、ガクヤの安全を確保することだ。
「クロウ……」
「それにカグヤの言葉も覚えている。人との繋がりは大事だということを。ハクがいるおかげで、大分楽になった」
「グルルー!」
本当にハクには助かってる。
だが、人との関係も大事だとはわかっている。
「ふふ……ハク!いつもありがとね!」
「そして、そのドラゴンがいれば、万全の守り態勢が整うだろう。それが終わるまでは、しばらくはこのままでいよう」
「そうね……私のために、いつもありがとう!」
「なに、気にするな」
……俺自身も、何処かで踏ん切りをつけなくてはいけないか。
人一人にできることなど、高が知れているのだから。
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